Keyword
蒸し暑い愛知・豊田の7月の夜。まとったジャージーはグレーとホワイトの段柄模様も、サクラのエンブレムを胸に抱いた男たちは、テストマッチと変わらぬ様相でマオリ・オールブラックスに立ち向かった。
7月6日におこなわれたJAPAN XVのマオリ・オールブラックスとの第2戦は26-14。日本ラグビーが史上初めてラグビー王国の伝統深きチームから勝利を挙げた。
前半のスコアは8-0。JAPAN XVが漆黒のジャージーにトライラインを越えさせなかった。
イングランドとのテストマッチ、マオリ・オールブラックスとの第1戦と、試合開始の時間帯を圧倒した超速ラグビーは、前2試合ほどではなかったけれど、この日も相手を後退させた。
7分過ぎの先制点は、相手のゴールラインドロップアウトをレシーブしたところから始まった。
全員で攻め上がり、ワイドにボールを動かす。FB矢崎由高がゴール前に転がしたボールをWTB根塚洸雅らが追い、相手のミスを誘う。反則を誘った後、SH齋藤直人がすぐに仕掛け、左外に待つCTBサミソニ・トゥアがインゴールに入った。
前戦では先制点を挙げた後、ハーフタイムまでに相手に3トライを許したJAPAN XV。しかしこの日は、無得点に抑えた。
何度も見られたのは、コリジョンのシーンで、マオリ・オールブラックスの選手たちがボールを失うシーンだ。
パワフルに体を当ててくる相手に怯むことなく全員でタックル。ボールとボディーのコントロールを狂わせた。
マオリ・オールブラックスの選手たちは、何度でも立ち向かうJAPAN XVの選手たちとの攻防で体力と気力を削られ、前半途中には歩き始める選手もいた。
暑さも加わり、勝負の天秤は、もうひと押しでホームの側に傾きそうだった。
後半、マオリ・オールブラックスがモールから点を取り、8-7となったときには来征のチームが息を吹き返す空気もわずかに漂った。
しかしこの日のJAPAN XVは、SH齋藤直人(共同主将)が試合後に「80分、全員がオンの状態で我慢強く守り、粘り切れた」と話したように崩れなかった。
10分にSO山沢拓也のPGで11-7とすると、13分にはPR竹内柊平がトライを奪う。キックの蹴り合いから掴んだチャンスにボールを大きく動かし、敵陣ゴール前へ迫った。
最後はラックから背番号18がインゴールに飛び込んだ。
18-7のスコアで迎えた27分に再びモールからトライを許すも、その5分後にはPGで再び差を広げて(21-14)最終局面を迎えた。
残り時間4分でHO佐藤健次が挙げたトライはモールから。そのきっかけも、相手以上に全員で動き、オフサイドを誘ったことだった。
ラストシーンはスクラムでコラプシングを誘ってPK獲得。ラインアウトで獲得したボールを、途中出場のSO立川理道が外に蹴り出して歓喜の瞬間を迎えた。
敗れたマオリ・オールブラックスのCTB、ラメカ・ポイヒピ(共同主将)は、JAPAN XVのパフォーマンスに敬意を表した。
「はやいプレーで圧力をかけてきた。私たちは、それを受けてミスをしてしまいました。暑さが厳しくタフな状況でしたが、それは両チームにとって同じ条件」と話し、勝ったチームが良いプレーをしたということと潔かった。
エディー・ジョーンズ ヘッドコーチは、キックを蹴り込む戦い方や、PGの判断など、選手たち自身が戦い方を判断し、勝利をつかんだことを喜んだ。
勝つことで自分たちの進む道が間違っていないと、より強く思える。成長のスピードがはやまる。
また指揮官は、「外国人出身選手を区別するという意味ではない」と前置きした上で、この日の先発15人のうち13人が日本出身選手で勝利した価値を誇らしいとした。
日本ラグビーはやれる。そんなメッセージが含まれる事実だ。
齋藤は試合前、ジョーンズHCから日本ラグビーが過去にマオリ代表に勝ったことがないと聞かされ、気持ちが奮い立ったという。
この日に向けての準備期間の途中にも、コーチ陣から同代表のスピリットや歴史、価値を聞き、胸が高鳴った。
歴史を変える試合にしよう。
そんな気持ちも、チームにいつも以上の一体感をもたらしたのだろう。
試合後のロッカールームは、マオリの選手たちも交歓に訪れ、互いの歌声が響いて盛り上がった。
忘れられない夜に放った熱は、来週からジョージア、イタリアとテストマッチを戦う日本代表に伝染するはずだ。