logo
「毎日のカメ」で不動の1番に。上野拳太郎[狭山セコムラガッツ]
169センチ、107キロの30歳。茅ヶ崎ラグビースクール→日大藤沢→日体大。(撮影/松本かおり)
2025.04.20
CHECK IT OUT

「毎日のカメ」で不動の1番に。上野拳太郎[狭山セコムラガッツ]

田村一博

 強い日差しの中、7トライを挙げて47-6と大勝した4月19日(土)、広島での一戦。
 中国電力レッドレグリオンズから勝ち点5を挙げた狭山セコムラガッツは、通算勝ち点を50として暫定首位となった。レギュラーシーズン2試合を残した時点でリーグワンのディビジョン3(以下、D3)で、2位以上に入ることを確定させた。

 この日、1時間先にキックオフされていたクリタウォーターガッシュ昭島×ルリーロ福岡で、3位、勝ち点38だったウォーターガッシュが26-3から26-37と逆転負け。
 結果、ラガッツが勝利を手にすればディビジョン2下位チームとの入替戦進出が決まる状況となった。

 リーグワン新規参入の年に上位ステージへの挑戦権を手にしたラガッツは、この日のレッドレグリオンズ戦ではフォワードが力強かった。
 特にセットプレーで優位に立ち、スクラムを押して、ラインアウトを制す。勝利を引き寄せた。

 この日の快勝に貢献したひとりが、1番の上野拳太郎。今季が入社9年目の30歳だ。
 169センチと小柄も、8人で固まり、それぞれの力を束ねて前に出るラガッツのスクラムを体現した。

8人が力を集めて組むのがラガッツのスクラム。(撮影/松本かおり)


 試合を振り返り、「暑い中で集中力を切らすことなくディフェンスできたと思います。前の試合ではコネクトし続けられなかったのですが、きょうは、そこを修正できた。相手をノートライに抑えられてよかった」と話した。

 自分の持ち場についても、「特殊なスクラムを組んでくる相手に対して、自分たちのスクラムを曲げませんでした。固まって、8人で押すことを意識してやれました」と、プランを遂行できたと伝えた。

 この日のフロントローの中では最年長。5月には31歳になる。
 しかし年齢については、「上下関係がまったくないチームだし、歳は気にしていません」とするも、「体を張らないと下はついてきてくれないので、がむしゃらにプレーしています」と言う。

 2017年度の入社。かつてトップリーグを舞台に戦っていたチームは2009年度から強化中止に舵を切り、しばらくは優遇措置などない中、有志が活動を続けている状況だった。
 その風向きが変わり、会社が再び強化に力を注ぎ始めたタイミングに入社した。

「ラグビー部をもう一度強くしようとするタイミングで入部できたのは光栄なことだったし、自分でチームを変えていくことにやり甲斐を感じました。(その時から現在まで)9年もかかってしまいましたが、チームが少しずつ成長していく過程を身をもって体験できたことは大きいですね」

 自分の世代より上の人たちは、夜勤も経験しながら活動していたと聞く。
「そういう人たちがつないできてくれて存在しているチームです。自分たちはチームに勢いをつける役目もありますが、過去から続いている文化を下(の世代)につないでいく役割もあると理解しています」

「(スクラムで)もっとペナルティを取りたかった」と言う白川直人は、直近の6試合中5試合で上野とともに先発出場の3番。「上野さんは先輩ですが、友だちみたいな感じです。(試合中も)どうしたいか分かります」。(撮影/松本かおり)


 茅ヶ崎ラグビースクール出身。高校時代は2回戦ぐらいで負けることが多かった(神奈川・日大藤沢高校)。日体大を経てラガッツへ入った。
 シーズン中も昼過ぎまで働き、シーズンオフはフルタイムで警備の仕事に就く。入社以来同じ営業所(池袋統轄支社)に働く。試合には職場の方も応援に来てくれる。

 小さな鉄人。今季は開幕からの全13試合に出場し、そのうち11試合が先発だ。
 昨季も休んだのは3地域社会人リーグ順位決定戦の初戦だけ。その理由は、お子さんが体調を崩したことで、自身も準備が足りなかったからだった。

 出場し続けるのは「きつい」。でも、「メンバーに選んでもらえているので誇りを持ってプレーしています」。
 丈夫に産んでもらったことに感謝しながら言う。
「小さな怪我はたくさんありますが、グラウンドに出たら忘れちゃいます」

 170センチに届かぬ身長と、増量しても107キロの体重は、リーグワンの中では、いつもトイメンの方が大きい。
 しかし、「小さい方が(相手の懐の)中に入れるアドバンテージがあると考えています。スクラムは気持ちが7割。絶対に負けないつもりで組んでいます」と強気を見せる。

スクラムコーチの山賀敦之さんと。(撮影/松本かおり)


 ラガッツの1番と言えば、現在チーム統括の立場でスクラムも指導する山賀敦之氏が務めた位置。「やまさんはあまり技術は教えてくれません」と笑いながらも、「パッションがすごい。メンタルのことをいつも言ってくれます」とリスペクトする気持ちを示す。

 尊敬する先輩が守っていたラガッツの1番のプライドを引き継ぐ。
 入団時はHOだった。スクラムトライを重ねられたこともある。そんなスタート地点から、毎回の練習時にスクラムの基本、カメの姿勢を繰り返しおこなって強さを手に入れた。最初は一人だった毎回の姿勢練は、いつの間にか後輩たちも一緒にやるようになった。
 山賀氏はそんな日常も見てきたから、上野に信頼を寄せる。

 今季は残すところ、レギュラーシーズン2試合と昇格を懸けた入替戦2試合の計4試合。「入替戦は最初から目標にしていたものなので、ここからが(本当の)スタート」と言っていいと腕をぶす。
「パックウエイト。8人の体重をひとつにして、相手にぶつけるスクラムを組みます。相手に関係なく自分たちの組み方で戦い、勝ちます」

 春になっても『姿勢』は続く。そしてそれは、来季戦う舞台がD2でもD3でも変わらずおこなわれる。





ALL ARTICLES
記事一覧はこちら