![優勝も先発も、ジャパンも。立川理道[スピアーズ]は、あれもこれも手にしたい。](https://www.justrugby.jp/cms/wp-content/uploads/2025/04/KM3_3560_2.jpg)
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降りしきる雨の中、オレンジの背番号12は何度も前に出た。
滑る芝に足をとられる選手が多い中で、立川理道は力強く足をかき続けた。
スパイクのポイントが他の選手より長いのか。そう思わせるほどのパフォーマンス。4月13日、花園ラグビー場で35歳のセンターはプレーヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれた。
クボタスピアーズ船橋・東京ベイは東京サントリーサンゴリアスに30-10のスコアで勝った。
チームはこの日の勝利で勝ち点4を追加し、第15節が終わった時点で順位を2位とした。前節の勝利で6位までに与えられるプレーオフ進出の権利はすでに決めていた。
しかしスピアーズは成長の道を歩み続けている。この日もアタックは力強く、守っては分厚かった。今季のディフェンスは本当に固い。
そんなことあるわけないでしょう。
ポイントの長さについて一笑に付した後、立川は自身のパフォーマンスについて説明した。
「フォワードがいいセットピースを組んでくれました。雨の中でボールを動かすのは難しい。タフなキャリーが多くなるのは予想していました。その中で前に出られたのはポジティブにとらえています。僕一人ではなく、周りのリンクしてくれる選手たちが(自分が相手と)1対1にしてくれた。チームとして、そういう細かいところにもこだわってやれています」
ターゲットは相手の10番。そこに対してしっかりアタックした。
「相手ディフェンスのどこが弱点なのかということを事前に話し、準備できていました」
悪天候は分かっていた。その想定下で練ったゲームプランが、実際のピッチ上の状況と噛み合った。
しかし、それも選手たちの遂行力があってこそだ。

フォワードと一緒にアタックすることも意識している。力強い男たちがモメンタムを得て前に出たら相手はたまったものではない。
その中でバックスは動きながら判断し、スペースに仕掛ける。
アグレッシブアタッキングラグビ―を標榜するサンゴリアスを2トライに抑えたディフェンスは、試合を重ねるごとに強固になっているように感じられる。
その根っこには練習時から密にしている選手間のコネクションがあるという。
全員が常につながっているから、プレッシャーがある中でも、以前のように勝手な動きをする選手がいなくなった。
「隣が誰なのかも意識します。自分の内側の選手がプロップかバックローなのかでも違ってきますから」
新任のスコット・マクラウドがディフェンスを担当する。隣の選手とつながりながら、激しく前に出ることを日々強調する。
「その結果、1対1ではなく2対1の状況を作れる。きょうも、ハードキャリーしてくる相手に2対1を作れていました。一人目がタックルに入った時、2人目も早くて、相手のモメンタムをなくすことができました」
特にフォワードが2対1で守り、相手ボールをスローにしていた。攻め手がなくなって、サンゴリアスは仕方なくキックを蹴る場面が何度もあった。
リーグワン創設から2シーズン目の2022-23シーズンに優勝し、昨季は6位でプレーオフ進出を逃した。
接戦を勝ち切れずに思うような結果を残せなかった前年。今季は優勝した年と同様、準備の成果がピッチでのパフォーマンスに直結している。
「チーム内の競争も激しく、試合メンバー外の選手たちが日々プレッシャーをかけてくる。そんな状況なので、ちょっとでもいいパフォーマンスができなければ(選ばれている)メンバーから変えられる危機感が23人にある。それがチームの一戦ごと、1週間ごとの成長につながっています」
立川自身のコンディションもいい。ライバルたちのチャレンジが高まりを呼んでいるといると話す。
同じポジションのリカス・プレトリアス、今季が実質1年目の廣瀬雄也の調子も良く、テアウパ シオネも練習試合でいいプレーを見せる。
「危機感もあるし、競争がある。それがいい準備につながっています」

42-14と快勝した前週のリコーブラックラムズ東京戦では、風の中で相手防御裏にショートキックを蹴って味方を走らせた。ファーストレシ―バーとなってボールも動かした。その日、その状況に合ったプレーを選択できるのがこの人の強みだ。
長く務めてきた主将を今季からファウルア・マキシに譲り、チームメートの前で話すことは少なくなった。
「マキシがよくリードしてくれています。彼が困っている時や、チームがうまくいっていないときに手助けできる存在でいたいと思っています」と言うが、「そういう状況がないんでよ」と愉快そうに話す。
シーズン序盤は日本代表の活動時に負った怪我からの復帰途中でスタンドから試合を見つめた。仲間のプレーに愛のある野次を飛ばし、近くに座るチームメートたちと盛り上がる姿が印象的だった。
その時期のことを「(前年まで主将で試合に出続けていたので)新鮮でした。試合に出ていないメンバーの気持ちを共有できたことも大きかったし、一緒に楽しめた」と思い出す。
チームに漂う空気について、もともとファミリー感がある中で、一人ひとりのオンとオフの切り替えがうまくなったと感じている。
仲が良い集団の中でレベルの高い競争が起きている。それがチームの力を大きくする。
第11節の浦安D-Rocks戦(33-22)、その日、自分は後半途中からのスタートだった。
先発出場していた江良颯(HO)や為房慶次朗(PR)が前半で交代する際、空いているスペースなどの情報をくれた。昨年チームに加わったばかりの若手が、そんなふうに振る舞える。
プレーオフ進出を確定させたブラックラムズ戦。試合前、「勝てば確定」というアナウンスはチーム内でされなかった。目の前の試合にフォーカスし、自然体でシーズンクライマックスに近づいていることが伝わる。
しかし、試合を重ねて疲れは蓄積され、怪我人も出る。「チームの総力戦が試される」(立川)。
熾烈な優勝争いが待っている。差のない争いの中で勝ち切るには、「自分たちを信じ、これまでやってきたプロセスを信じて全員で戦う」ことが大事と理解する。
ここから体にも気持ちにもプレッシャーがかかることをよく知っているから、若い選手たちの成長が頼もしい。

ただ、まだまだ若手に負ける気はない。レギュラーを張りたい。ジャパンにもなりたい。
「その気持ちをなくしたら終わりでしょう。廣瀬が先発の時は悔しいですよ。日本代表にもいきたい。ボロになるまでやりたい。(代表に)選ばれる立場にいて断る理由はありません」
代表に選出され、その活動に加わるとなれば体はきついけれど、「しんどいのは当たり前。それでも選ばれたらコミットするし、選ばれなかったら、オフの間に何をするか考える。そういう積み重ねでやってきました」と頼もしい。
「おっさんですけど、去年の代表合宿を乗り越えられて自信になりました。(エディー体制は)2回目なんで免疫もありますしね」と話し、続けた。
「あれを乗り超えられたんだからと思うし、よくなっていく循環に入ったかも。代表選手はそういうもので、しんどい中でもタフに、うまくコンディショニングしていく選手が残っていく」
桜がほぼ散って、リーグワンはさらに熱さが増す時期を迎え、やがてサクラの季節がやってくる。
35歳の躍動は続く。