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「私たちは、ひとつひとつの局面で勝利することについて話し合いました。今夜、ボーイズ(仲間たち)は、多くの局面で勝利を積み重ね、その結果勝利をつかみ取ったと感じています。仲間たちを誇りに思いますし、私たちの準備をしっかり助けてくれた。地元に残っている仲間たちも誇りに思います」
試合後に涙を浮かべながらそう語ったのは、モアナ・パシフィカの主将アーディー・サヴェアだった。
3月29日(土)、クライストチャーチでモアナ・パシフィカが45-29のスコアでクルセイダーズに圧勝した。
試合直後、ピッチの上でおこなわれたSky TVのインタビューは感動的だった。
アーディーだけでなくインタビュアーの女性も興奮していた。
「今あなた(アーディー)は私に『感情が高ぶっている』と言いました」
インタビューが始まる直前に、アーディーからとっさに出た言葉を指しているのだろう。インタビューアーは、あえて最初にその言葉を使った。
アーディーが涙を堪え、感情の高まりを抑えつつも、言葉をひとつひとつ噛み締めながらインタビューに答える姿は印象的だった。そして「仲間を誇りに思う」と何度も口にした。
スーパーラグビー史上最も成功しているクルセイダーズのホームのクライストチャーチでのモアナ・パシフィカの勝利は、ニュージーランド(以下、NZ)国内のメディア、ラグビーファンの間で当然賑わった。
TVのスポーツニュースはもちろんのこと、トークバックラジオでは、モアナ・パシフィカの勝利の話題が、週が開けても続いた。司会者をはじめ、視聴者が電話口で興奮気味に話していた。
クルセイダーズのパフォーマンスが良くなかったと言う評価もあるが、それ以上にモアナ・パシフィカを称賛する声が多かった。素晴らしいパフォーマンスだった。

◆主将アーディー、気迫の2トライ。チームに勢いをもたらす
午後7時過ぎ、まだ日が残るクライストチャーチのアポロ・プロジェクツ・スタジアムでのキックオフ。開始早々に勢いがあったのは、ビジターチームのモアナ・パシフィカだった。
最初のトライは主将のアーディーが挙げた(3分)。その後クルセイダーズがモールを真っすぐに押して簡単にトライを返す(7分)。いきなりの打撃戦がスタジアムを盛り上げた。
モアナ・パシフィカは7-7の同点に追いつかれるも、再び主将が魅せた。相手に捕まりながらも、強さと巧みなボディーコントロールでディフェンスを何人も引きずりながらインゴールになだれ込んだ(14-7/17分)。
主将自ら奮闘し、序盤に挙げた2つのトライ。チームに勢いがついたのは間違いなかった。
主将に続けと言わんばかりにモアナ・パシフィカの選手たちは、コンタクトエリアで優勢に戦った。地域、ボール支配率などのスタッツでも大きくクルセイダーズを上回りトライを2つ追加した。
ある意味モアナ・パシフィカの一方的と言えるパフォーマンスで前半を終えた(28-10)。
◆最後まで崩れなかったモアナ。試合後、アーディーに人だかり
後半に入り巻き返したいクルセイダーズは、第4節(3月15日)のキッズラウンドで5トライを記録したWTBマッカ・スプリンガーのトライを皮切りに勢いがついた(50分)。
その後、途中出場のコーディー・テイラーがピッチに入ってすぐさまトライを挙げ9点差まで迫る(31-22/53分)。
しかし、ここからモアナは耐えた。以前ならここで逆転されるケースもあったが、この日は違った。最後まで集中力を切らす事はなかった。
それどころか2つのトライを追加してとどめを刺した。最終スコアは45-29。しっかり勝ち切った。

アーディーの活躍が目立つ中、若手の注目株で今シーズン躍進している背番号6、ミラクル・ファイランギがアーディーに匹敵するほどのパフォーマンスを見せた。
ボールを持てば必ず前に出て相手にダメージを与えた。63分、ディフェンスに捕まった後にパワーで押し込んでのトライは圧巻だった。
BKでは、10番パトリック・ペレグリーニが司令塔としてしっかりゲームをマネージングした。2度の50/22キックを成功させるなど巧みなキッキングゲームは圧巻だった。1トライ、6コンバージョン、1PGの合計20点を挙げマン・オブ・ザ・マッチに選ばれた。
モアナ・パシフィカの勝因は、何といってもフィジカル戦で有利となった事に尽きる。各選手がボールを持てば確実にゲインラインを超えた。ディフェンス面でも相手に効果的なゲインをほとんどさせなかった。課題のセットピース(スクラム、ラインアウト)もほぼ完ぺきに近かった。文句なしの勝利だった。
モアナ・パシフィカ指揮官、タナ・ウマガ ヘッドコーチ(以下、HC)は、インタビューが始まる前からニコニコが止まらない様子だった。
「言うまでもなく、これ(勝利)はチームとクラブにとって誇らしい瞬間だ」と語り、元同僚(オールブラックス時代が同じ時期)のSHジャスティン・マーシャル、WTB/FBジェフ・ウィルソン(いずれもSKY TVのコメンテーター)との会話も弾んでいた。
敗れたクルセイダーズのロブ・ペニーHCは、「言うまでもなく、彼ら(モアナ・パシフィカ)が私たちより上だった」と相手を称賛した。
そのあとで、私たちはリスペクトが十分でなかったと付け加えたのは、相手が想像以上の強さだったということだろう。
今季も絶好調のWTBセブ・リース、NO8クリスチャン・リオウイリーらの主力メンバーを休養にあて、PRタマティ・ウィリアムズ、HOテイラーのオールブラックス2人をベンチスタートにした。前週はイーデンパークで、昨年の覇者ブルーズに圧勝している。このモアナ戦を少し安易に考えたセレクションだったかもしれない。
※キャプテンのCTBデイヴィット・ハヴィリは試合前日に負傷が伝えられて登録メンバーから外された。
しかし、今回のクルセイダーズのメンバーは、オールブラックスのキャプテンLOスコット・バレット、FLイーサン・ブラカッダー、FBウィル・ジョーダンを筆頭にキャップホルダーの名前も多くあり、強力メンバーだったことは間違いない。モアナ・パシフィカの勝利は価値のあるものだった。
この試合で勝てば首位に浮上するチャンスだったクルセイダーズは、敗戦により2位から3位と順位を下げた。
一方のモアナ・パシフィカは、今季不調の昨季王者、ブルーズを抜き順位をひとつ上げて9位となった。ここから勢いをつけ、初のプレーオフ進出はなるだろうか。

この日の夜も試合後は、ファンがピッチに降りることを許された。あっと言う間にアーディーの周りに人だかりができた。インタビュー中にもかかわらずファンが駆け寄った。
インタビューの終盤には、「誰もが私たちが勝つと思っていなかった事を知っていました。仲間たちへのメッセージとして、何も失うものがないという気持ちで、全力でプレーしようと思った。そして今夜、まさにそれを実行しました。私たちはここに来て、やるべきことをやり遂げた。仲間たちを本当に誇りに思います。彼らは、これから起こるすべてのことに値します」
最後まで涙をこらえながらのインタビューだった。
モアナ・パシフィカの勝利に、クルセイダーズのホームということを忘れるくらいファンは酔いしれた。そしていつまでもアーディーの側からファンが離れなかった。
アーディーはモアナ・パシフィカに、パフォーマンス以外でも特別な影響を与えている。ここからがモアナ・パシフィカの本当のスタートになる。どこまで駆け上がるだろうか。