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イングランドとのテストマッチのちょうど1週間前の6月15日。日本代表が合宿を張る宮崎は、雨が降ったり、やんだり。時々日が照りつけ、蒸し暑かった。
そんな天候下で選手たちは、紺ジャージーと白ジャージーに分かれて試合形式の練習をおこなった。
トレーニングを終えたエディー・ジョーンズ ヘッドコーチ(以下、HC)は、「きょうの天気は1週間後(6月22日)の試合の時とたぶん同じ、と選手たちに言いました」と話した。
このコンディションを理解しろ。ボールが滑る。そこに注力を、と伝えた。
合宿は6月6日から始まった。しっかりと練習した日数は約1週間。その日々を振り返り、「非常にいいコンディションで進んでいる」と評価した。
実戦形式の練習の中でのそれぞれのパフォーマンスを見て、「まだ試合感覚が戻っていない選手も何名かいるが、全員がハードワークしていた」と、取り組む姿勢について満足そうだった。
「チームが完成するのは4年後。その中のまだ1週間」と前置きした上で、掲げる「超速ラグビー」へのコミットメントなど、意識についての進捗状況は順調に進んでいると感じている。
この日は、チーム作りのスピード感について話した。
ワールドカップ(以下、W杯)で南アフリカを破った2015年大会の代表チームを引き合いに出し、「あのときは4 年間かけて準備をして、自分たちのラグビーのスタイルを徐々に積み重ねました。 そしてW杯で集大成を見せることができた」とした。
同HCがいつも話すのは、ラグビーやコーチングにマジックはないということだ。
ただし、ラグビーのスタイルやお互いの理解、連係を着実に、正しく積み上げていけば必ず結果は出る。
今回も、「(それができれば)2015年のチームよりさらに良いチームにならない理由は何もない」という表現で、現代表への期待を表した。
「毎週勝ちたい」と言い、イングランド戦にも、当然勝つつもりで臨む。
ただ、勝負に絶対はない。だから譲れないものは結果より、「毎週成長していくこと」だ。
「4年後の完成形は明確にイメージできています。自分の仕事としては、選手たちを『いま』に集中させること。(停滞することなく)一歩一歩前に進むことが大事。その一歩に集中しないといけない。させないといけない」
トレーニング施設から見える木を指さして言った。
「あそこにある木の形を整えようと思えば、1本は1週間もあればできる。しかし、一帯にあるすべての木を整えようとするなら時間がかかる」
一人ひとりが進化し、そのすべてが成熟したとき、全体(林や森)が理想の形になる。勝負と成長のバランスを巧みに取りながらチーム作りを進めていく。
大学生などの若い世代を積極的に引き上げているのも、次のW杯に向けて力のある選手を育て、選手層を厚くするためだ。
この日の実戦でも、PR森山飛翔(つばさ/帝京大2年)、HO佐藤健次(早大4年)、FB矢崎由高(早大2年)らが体を張っていた。
大学生たちについてジョーンズHCは、「順調にチームに慣れ親しんで、高いレベルのラグビーにうまく順応していると思います」と評価。周囲との差も、それほど大きくないと感じている。
その若い世代に刺激と知識を与えている存在が、オーウェン・フランクス(PR)、ヴィクター・マットフィールド(LO)というスポットコーチたちだ。それぞれオールブラックスと南アフリカ代表で世界一を知り、スーパーラグビーの経験も十分。引き出せることはたくさんある。
ジョーンズHCは、特にフロントローについて言及した。
森山、佐藤に加え、明大を卒業したばかりの為房慶次朗(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)の名前を挙げ、「現状ではテストマッチに出られる状態ではないかもしれませんが、 3 年後は確実に準備ができていると思う。 3 人の成長ぶりには、本当に目を見張るものがある」とした。
若者は吸収力が高い。現代ラグビーについての知識に富んでいる2人のスポットコーチの存在は、知恵袋そのものだ。
「特にタイトヘッドPRのふたり(森山、為房)は、オーウェンと同棲しているかのように過ごしています。ウエートトレの時間も同じ。練習後のエクストラセッションも、いつも一緒にいます」
自然な形で知識を増やしている。
イングランド戦の出場メンバーを「だいたい決めている」と話すジョーンズHCは、セレクションについて「コンディション優先になると思う」と話した。
キャプテンの決定は、出場メンバーの発表と同じ試合の2日前(6月20日)。「試合メンバーに入ることが条件。そして周囲への影響力も必要で、その素養がある人が誰なのかを日常から観察しています」。
先頭に立つスキッパーが決まればチームは急速に結束を高め、超速ラグビーを貫く意志は、より強くなりそうだ。