【リーグワンをアナリストの視点で分析する／横浜キヤノンイーグルス×ブラックラムズ東京】スタッツで上回ったイーグルス。それでも負けなかったブラックラムズ

　事務機ダービー、と呼ばれる伝統の一戦だ。
　過去の戦績ではイーグルスが上回っていた（トップリーグ時代も含めて6勝5敗。直近5連勝だった）。しかし今回、結果としてはブラックラムズが実力を発揮した形となった。

◆横浜キヤノンイーグルスのアタッキング様相。

　イーグルスは、SOに入る田村優がコントロールする、システマチックな印象の強いチームではないだろうか。今回の試合でも、田村によるコントロールの形を見ることができた。

【Point 1／ハーフバックス団によるコントロール】
　田村は、あえて呼称するのであれば「キング」とも言えるプレースタイルだ。単純な司令塔としての役割も超えた、ゲームをコントロールする役割として重要な意味を持つ。
　FWを動かし、アタックラインを構築する。今回の試合ではそういったシーンを多く見ることができたのではないかと思う。

　田村自身は、はっきり言うと攻撃力が高いタイプではない、と考えている。ランニングスピードや、ステップの巧妙さに関しては、田村を上回る選手もいるのではないか。
　しかし、総合的に見ると、結果としてうまく試合を動かしている。視野も広く、他選手の配置にもミスは少ない。だてにベテランと言われる年代ながら出場しているわけではないように感じた。

　アタック時の田村の立ち位置は、実のところそう深くはない。他チームのSOと比べると、むしろラックに対して近い位置に立っているように感じる時もある。
　あくまでも想像に過ぎないが、そのポジショニングは田村の意思決定の速さによって実現できているものではないかと考える。

　ラックに近いと、その分だけSOは相手ディフェンスからのプレッシャーを受けやすくなるのは自明だろう。しかし、意思決定のために深くしすぎると、アタックライン全体が深い位置関係となり、プレッシャーは避けられても前に出にくくなってしまうことが予想される。
　しかし、意思決定が早く、それに伴うハンドリングスキルがあれば、ラックに近い位置からも素早い展開が可能になるのではないか。

　SHファフ・デクラークの役割も大きいだろう。
　特段アタックテンポが速いわけではないように感じているが、落ち着いてアタック方向を定めたり、田村と同じように意思決定に優れた様子が見て取れる。

　また、デクラークはボックスキックも得意としている。ラックからパスを介することなくキックを蹴ることができ、それによってキックに伴うオフサイドを最小限にとどめることができる。
　パント軌道のキックもあるが、裏を短く狙うフェイズもあり、南アフリカ代表でも同僚のジェシー・クリエルとのコンビネーションで裏を狙うフェイズもあった。
　バックフィールドとディフェンスラインの間に生まれやすい空間を、ラックから直接キックで狙うことでチャンスを作ろうとしていた節はあった。

【Point 2／階層構造とアタッキングレーン】
　イーグルスは、階層構造を好んで用いている。プレイメーカーとしての気質が強い選手がいるチームでは良く見る光景だ。イーグルスはチームとして、そのあたりをかなりシステマチックにいじっている印象が強い。

　主に階層構造を主導するのは、田村優、梶村祐介（CTB）、小倉順平（FB）の3人だ。田村と小倉が裏のライン、梶村がリードランナーとして表のラインに立つことが多い。
　梶村は接近してパスを放るスキルもあり、しっかりと前に出ながらも浮かすように下げるパスで空間に向かって移動する田村や小倉につなげている。
　田村や小倉が外に開きながらパスを受けることで、そのランニングコースのまま外で優位性を作ることができる、という形だ。

　また、縦方向であるために「レーン」と呼称するが、アタックする位置を表すレーンの使い方は、ブラックラムズに比べると上手だったようにも感じた。
　ラックを中心としてFWの選手の立つレーン、距離感は大まかに整っているような印象で、たとえば極端に中央に向かって差し込むように走り込む選手はいなかった。

　決まりごとか、たまたまそうなったかまでは分からない。
　ただ、ある程度レーンを構築する位置関係を定めることで、アタック自体の再現性の程度を向上させているようにも感じた。

　しかし、階層構造は取り扱いの難しい側面もある。基本的には裏を効果的に使うために表のラインを使うことが多い。
　しかし、今回の試合の中では、ブラックラムズがイーグルスの階層構造に慣れた結果、裏に対して圧力をかけるようなディフェンスの動きをしていた。
　結果として、裏で作ろうとしていた優位性が作りづらくなり、あまり前に出られないシーンも増えていた。

　ただ終盤にかけて、イーグルスは細かくパスでボールを動かすようにもなった。
　ブラックラムズが終盤に向けて調整し、詰める動きも増えていた。結果的には細かくボールを繋ぐ方が前に出られていた。
　細かいパスワークに関してはイーグルスも得意としている。相手のディフェンスに対する修正は、いい方向に働いていたと思う。

◆リコーブラックラムズ東京のアタッキング様相。

　ブラックラムズは、シーズン中盤、現在時点で下位に低迷（試合前の時点で9位）している。
「低迷している」という表現が正しいかは分からないが、これまで見せてきたラグビーの質からすると、望んでいるものではないだろう。

【Point 1／ SHの存在感】
　TJ・ペレナラは、リーグでも随一の攻撃的なSHと言えるかもしれない。これまでの試合でも、今回の試合でもその攻撃力を見せた。

　ペレナラはSHの中で見ると、強いフィジカルと走力を誇っている。
　サポートのコース取りも良く、オフロードなどを受けては長い距離を走り切ることもできる。
　今回の試合の中でも、ラックからの持ち出しこそ少なかったものの、イレギュラーなシーンでグッと前に出るプレーを何度も見ることができた。

　また、キックの水準も高いレベルにある。
　特に、エリアの取り方が非常に優れているように感じている。
　裏をとるときのキックについても長短を蹴り分けることができるため、視野の広さを生かして誰もいないバックフィールドに、狙い澄ましたように蹴り込むシーンが見られた。

【Point 2／ポッド構造とチャンスメイク】
　ブラックラムズのアタックは、比較的シンプルということもできる。
　前述したような階層構造を意識しているような動きも見られているが、階層構造にこだわらないシンプルな構造の時の方が上手く動かせている。

　基本的にアタックラインはシンプルで、多くのBKの選手は、一つの線上に並ぶように配置されていることが多い。
　チームによってはBKの選手で表裏の関係性を作ることもあるが、ブラックラムズに関してあまりそういったフォーマットを見る機会はなかった。
　ポッドと呼ばれるFW中心に構成される集団と、その裏に立つ司令塔、といった形が多かった。

　ブラックラムズは、ポッドの中で小さく動かすパス、ティップオンパスも効果的に使い、ファカタヴァ アマトのトライに結びつけていた。
　トップに立つリアム・ギルに対して裏に中楠一期、ポッドの構成員としてファカタヴァが走り込むことで相手に選択を強いていた。
　イーグルスの活用とは違う、「裏があるから表が生きる」を使ったアタックだった。

　ただ、階層構造が常に有効に働いていたかというと、そういう形ではなかったようにも感じる。
　イーグルスが激しく詰めるような動きをしない分、階層構造で外に移動しながらの攻撃をしても、相手にはそれに対応する余裕があったように見えた。
　むしろ、裏に対してグッと詰められるようなシーンもあった。相手の読み次第ではあるが、総合的に見ると、プレッシャーを受ける状況も多かったように思う。

【Point3／優位性のバリエーション】
　一方で、２本目（後半19分）のトライに関しては優位性の中でも位置的優位性をうまく作るようなパターンでアタックしていた。
　数的にはさほど優位性を作ることができていなかったような状態で、中楠が走り込みながらボールをもらうことで、数的には余裕がなくても、位置的にバランスを崩すことができた。

　イーグルスは、盤面が崩れ始めると全体的に流すような動き、あまり前に出ずに外へ押し出すようなスライドする動きでディフェンスするようになる。
　本来その動きだけでピンチになるわけではないが、マイケル・ストーバーグのトライが生まれたポゼッションでは、外に流す動きに対応した「内側を押さえる動き」が曖昧になっていた。

　内側を押さえる動きの曖昧さに対して、ブラックラムズは内に切り込むランニングを見せた。トライに直接繋がったフェイズのPJ・ラトゥも、その前段階でキャリーをしたネタニ・ヴァカヤリアも、2人とも内に切れ込んでいることが見て分かる。
　またそれにともなって、大まかには3〜4人の選手が外に振られてディフェンスに参加できていないことも見て取れる。
　そういった動きを得意としている選手がいると、安易な外へ流す動きに対して脅威になる。

　前述したトライも含めた２つのトライは、それぞれ優位性の作り方が違う。
　前者は選択肢を作ることによる位置的な優位性、後者はボールの動かし方を変えることによる位置的な優位性と言える。
　同じ位置的優位性であっても、作り方が違えばバリエーションになりうる。そういった違いが見られたブラックラムズのアタックだった。

◆プレイングネットワークを考察する。

　それでは、今回もネットワーク図を作って見ていきたいと思う。まずイーグルスのネットワーク図からだ。

　こちらからは、以下のような内容を感じた。

・ボックスキックが、アタック全体に対して高い比率を占めている。
・10番、田村のコントロールに依るところが大きい。
・15番、小倉もボール運びに貢献しているか。

　最初の項目で挙げたように、今回の試合ではボックスキックが非常に多かった。
　スターティングメンバーだったデクラーク、リザーブに入った山菅一史、どちらもかなり積極的に高い軌道のキックを蹴っていたように思う。
　ただ、効果的に使えていたか、というところでは不安定な部分もあったように思う。ハイボールの処理の部分でブラックラムズも安定感を見せており、プレッシャーはしっかりとかけられてはいたが、目立った効果には繋がっていなかった。

　次にブラックラムズのネットワーク図を見ていこう。

　以下のような内容が見て取れるだろうか。

・イーグルスに比べると、ボックスキックは控えめ。
・10番、中楠のコントロールに依るところが大きい。
・キックによるゲームコントロールが多かった。

　大まかな傾向としては、イーグルスの示した数値とそう大きなズレがない数値になっているように見える。
　最も顕著な差が出たところで言えば、10番・中楠からのキックの部分だ。
　イーグルスは10番に入った田村が、フェイズの中でキックを見せることはほとんどなかった。一方、ブラックラムズは中楠がフェイズに組み込まれる形で8回のキックを見せた。

　試合を見た印象ではパント傾向のキックではなかったように感じるが、試合を通してみると、こういった細かいエリア取りの部分で少し優勢だったかもしれない。
　ペレナラも効果的な裏へのキックを見せており、相手にボールを持たれていた時間が長かった割にはテリトリーで苦戦していなかった。

◆まとめ。

　イーグルスは、ゲインメーター、ディフェンス突破、タックル成功率といった多くのスタッツでブラックラムズを上回っていた。
　しかし、勝利という結果が伴わなかった。

　多くの場面で上回っていても、ほんの少し崩れた状態があればそこからスコアを奪われることにつながり得る、というものを感じた試合となった。

【プロフィール】
今本貴士 / いまもと・たかし
1994年11月28日生。九段中等教育学校→筑波大学。大学・大学院での学生トレーナー経験を経てNECグリーンロケッツでアナリストとしてのキャリアをスタートする。NECグリーンロケッツ東葛で２年間活動し、退団後はフリーアナリストとして個人・団体からの依頼で分析業務に携わる。また、「UNIVERSIS」という大学ラグビー分析専門の連載をnoteにて執筆している。