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【スーパーラグビー・パシフィック】昨季王者ブルーズ不調。クルセイダーズは上昇気流。シーズン序盤をレビュー
クルセイダーズのCTBデイヴィット・ハヴィリ主将(中央)。左はSOタハ・ケマラ。(撮影/松尾智規)

【スーパーラグビー・パシフィック】昨季王者ブルーズ不調。クルセイダーズは上昇気流。シーズン序盤をレビュー

松尾智規

「スーパーラグビー・パシフィックは、世界で一番エキサイティングな大会だ」
 このようなフレーズが試合の実況を始め、トークバックラジオなどで何度も耳にする。それくらい今季のスーパーラグビーは、毎週エキサイティングなラグビーを展開し、ファンを魅了している。
 昨季までは20~30点以上差の試合も珍しくなかったが、今季は大差がほとんどない。毎試合最後まで目は離せない展開となっている。

 ラグビーで一番盛り上がるのは、何といってもトライシーンだ。スーパーラグビーの特徴でもあるトライ数の多さが、さらに増している。両チーム合計50点以上の試合ばかりで90点超えの試合もいくつもあった。
 観客を飽きさせないようにスピーディーな展開にするため、毎年のようにルール改正をおこない、試合が止まることが減少された。その結果スピーディーな展開が増え、観客を惹きつける。

◆NZ勢の優勢がなくなり各チームのレベルの差が縮まった。


 16節あるレギュラーシーズンもファーストクウォーターの4節を終えた。シーズン序盤戦をニュージーランド(以下、NZ)勢を中心に振り返ってみたい。
 4節を終わった時点での順位表は、1位チーフス(14P)、2位ワラターズ(13P)、3位ハイランダーズ(9P)、4位クルセイダーズ(9P)、5位レッズ(9P)、6位ブランビーズ(9P)がプレーオフ圏内の6チームに入っている。
※カッコ内の数字は勝ち点。勝利数も同じため得失点差の順位。

 内訳をみるとNZのフランチャイズ3チーム、オーストラリア(以下、AUS)のフランチャイズが3チーム。今季は以前のようなNZ勢が優勢の状況にはなっていない。ポイントを見ても混戦となっているのが分かる。

 開幕前のNZチームの戦力分析の上(ブルーズ、チーフス、ハリケーンズ)下(クルセイダーズ、ハイランダーズ、モアナ・パシフィカ)で触れたように、AUSのレベルズがなくなり、同チームの選手が他チームに移籍した。それによって同国フランチャイズ各チームのレベルが上がった。それが実力接近の一番の理由だろう。

 バイウイーク(休みの週)の兼ね合いでチームによって試合数の違いがあるものの、4節を終えて黒星がないのは、昨季最下位で現在2位のワラターズ(3勝)のみ。昨季の王者ブルーズ(1勝3敗)が10位、昨季レギュラーシーズン1位通過で準決勝まで行ったハリケーンズ(1勝3敗)が最下位の11位と、前評判の高かったNZの2チームが下位に沈んでいる。

◆パシフィック勢のレベルアップで大会が盛り上がる。


 昨季7位のフィジアン・ドゥルア、同11位のモアナ・パシフィカは、開幕から3試合は良いパフォーマンスを見せたものの試合終盤に逆転され、結果がついてこなかった。しかし、第4節(3月8日)で両チームとも念願の今季初勝利を手にした。
 ドゥルアは、ホームのフィジーでチーフスを迎えて戦った試合で牙を剥いた。前半を6-12とリードされるも、後半に入って地元の声援を背に爆発。悪天候の中でも展開を試みて3トライを奪い、逆転勝ちした(28-24)。昨年のファイナリスト相手にFW戦で負けなかった。今後の自信に繋がりそうだ。

 一方のモアナ・パシフィカもホーム(オークランド)にハリケーンズを迎えて戦った。前半はお互いに2トライを奪い、モアナ・パシフィカが14-12でリード。まさにがっぷり組み合った。
 今季からモアナ・パシフィカに移籍したFL/NO8アーディー・サヴェアは古巣のハリケーンズ相手にハッスルした。そのアーディーはハムストリングを痛めて後半早々に退く。しかしチームは、大黒柱を欠いて不安を感じさせるどころか、逆に奮い立つ。後半に3連続トライ(41、44、58分)、一気に21得点を挙げた。終盤に追い上げられるも、3トライの貯金で逃げ切った。40-31のスコアで念願の今季初勝利だった。

モアナ・パシフィカを牽引するFL/NO8アーディー・サヴェア。古巣ハリケーンズに勝つ。(Getty Images)


 モアナは、3年前にスーパーラグビーに初参戦した時に初めて勝利したのもハリケーンズだった。その時は大金星と言われていたが、今季のパフォーマンスを見ていると、金星と言うには失礼に当たるかもしれない。それほどチームのレベルは上がったと言っていいだろう。
 負け試合では集中力を欠き、ミスなどで失点して勝ち星につながらなかったが、初勝利の試合はアーディー不在でもやれると証明した。

◆昨年の王者ブルーズの状態は深刻⁉ ボーデンは手の骨折で離脱へ。


 昨年の王者ブルーズは開幕から2連敗(いずれも逆転負け)。初勝利は第3節(3月1日)のハリケーンズ戦(33-29)だったが、すっきりしない終わり方で、冷や汗の勝利だった。 
 連勝して勢いに乗りたいブルーズは、しかし、第4節(3月7日)にホームでブランビーズ戦を落とす。試合終了間際に逆転を許した(20-21)。

 今季初の10番に入ったボーデン・バレットの活躍と、昨年の強いブルーズが復活したと思わせる内容で20-10とリードしながらも、手の負傷により前半でボーデンが退くと、徐々にブランビーズにペースを持っていかれた。途中まで優勢だったスクラムが最終クウォーターでは劣勢となったことが大きかった。試合終了間際にスクラムの反則から逆転PGを献上。非常に嫌な負け方だった。
 2月15日の開幕戦でチーフスに逆転負け(14-25)した時と同じく、ブランビーズ戦も後半は無得点だった。状態は深刻と言えるかも知れない。 

 今年のブルーズは、スクラム、ラインアウトのセットピースが試合を通じて安定感がなく、FW陣のタフさも昨年ほど感じられない。
 BK陣には決定力のあるケイリブ・クラーク、マーク・テレアのオールブラックスのWTBがいる。昨年見られたFWの泥臭いプレーが戻ってくれば、勢いに乗る可能性は十分にある。

 すでに3敗しているから6位以内のプレーオフに向けて、これ以上負けられない戦いが続きそうだ。今週末の第5節はチーフスと再戦。6節はクルセイダーズと強豪が続く。強豪相手に結果がついてくれば、勢いに乗ってくるかもしれない。 
 ボーデンの手の負傷は骨折と判明。しばらく離脱となることは不安材料だが、昨年はボーデンがサバティカルで不在でも優勝した。そのことを忘れてはいけない。

◆昨季不調のクルセイダーズは上昇気流に乗るか。


 絶対王者復活に向けて今季のクルセイダーズは心機一転している様子がうかがえる。
 2月14日の開幕戦はハリケーンズに競り勝ち良いスタートを切った。2戦目は後半に勢いが増したチーフスに敗れたものの(24-49)、3節のバイウイークを挟んで4節目は、3月9日の午後の試合だった。大勢の観客を集めたホームにレッズを迎え、43-19で勝利した。
 レッズの巧みな攻撃があり3トライを奪われるも、攻撃面では7トライの猛攻。レッズのミスに助けられた場面もあったが、それでも前評判のよかった相手にこの点差での勝利は評価できる。

 何よりも、強い時のクルセイダーズにあった、FW陣のタフさが戻ってきたのが大きい。FLカレン・グレース、FLイーサン・ブラカッダー、NO8クリスチャン・リオウイリーのFW第3列は、仕事ぶりが光った。
 BK陣においてもWTBセブ・リース、FBウィル・ジョーダン(ともにレッズ戦で2トライ)と決定力のある選手に意識的にボールを提供した印象だ。その結果、彼らが5ポインターになった。

 今季も引き続き鍵となる10番のポジションは、開幕から毎試合先発しているタハ・ケマラ。天性の才能が開花した様子がうかがえる。巧みなランニングスキルを武器に良いパフォーマンスを披露し、ロブ・ペニー ヘッドコーチ(以下、HC)からの信頼を得ている。AUSから移籍してきた元ワラビーズのSOジェームズ・オコナーがベンチに控えるという贅沢な選択が出来るのもケマラの成長があってこそ。
 昨季固定できなかった10番のポジションが厚くなった。

 合わせてFWの充実も昨年より確実に上昇している。新キャプテンのCTBデイヴィット・ハヴィリは、積極的に前に出るプレーとリーダーシップでチームを引っ張っている。今季のクルセイダーズは王者奪回に向けて、チームの内部も地元クライストチャーチのファンの雰囲気も良さそう。

3月9日、クルセイダーズは大勢のファンの前でレッズに快勝した。(撮影/松尾智規)


◆ハイランダーズは、指揮官ジョセフ効果がてきめん⁉


 開幕戦はワラターズ相手に終了間際に逆転され、黒星スタート(36-37)となったハイランダーズだが、実は悪くなかった。2節目はブルーズ相手に29-21で逆転勝ち。3節目のモアナ・パシフィカ戦は、苦戦しながらも相手のミスを突いて前半の終盤に一気に3トライを奪い、勝利につなげた(31-29)。

 開幕戦もほぼ勝ち試合だったこともあり、総合的に見て良い序盤戦だったと言える。ここまで好調の要因となっているのは、今季指揮官に復帰したジェイミー・ジョセフHCの存在か。その影響力は大きい。
 WTBケイリブ・タンギタウ、HOソアネ・ヴィケナ(ともに元ブルーズ)をはじめ、他チームからリクルートした選手たちの活躍、そしてジョセフHCが目を付けた若手選手の起用もうまくいっている。

 そして何よりも、FL/NO8ヒュー・レントン、CTB/WTBティモジ・タヴァタヴァナウイの共同キャプテン2人の渾身的なプレーがチームに勢いをもたらしている。特にタヴァタヴァナウイにおいては、今季からCTBでプレーして破壊力抜群の突破。ディフェンスにおいてもFW顔負けのコンタクトプレーで相手ボールを何度も奪う活躍ぶりだ。まさにチームの大黒柱と言える。
 ここまでチームが変わるのかと驚くばかりだが、この勢いが今後も続くかどうか注目したい。

ハイランダーズの共同主将を務めるCTB/WTBティモジ・タヴァタヴァナウイ。(Getty Images)


◆ドゥルアに敗戦も「今季こそ」の気持ちが強いチーフス。上位は固いか。


 第4節が終わった時点で首位のチーフスだが、ドゥルア戦には敗れた(24-28)。SO/FBダミアン・マッケンジーがケガで不在だった影響かどうかは、悪天候の試合だったので判断しがたい。ホームでめっぽう強い相手、そして想像以上に悪かったグラウンドのコンディションに対応できなかった感もある。大きな心配はいらないとも言える。

 アキレス腱のケガで長期離脱していたHOサミソニ・タウケイアホも予定より早めに復帰し、力強さを見せている。チームは選手層の厚さを含めて安定していると言える。今後崩れるとは考えにくい。開幕から10番を任されているジョッシュ・ジェイコブのパフォーマンスも良くなっている。

 先日、指揮官のクレイトン・マクミランが契約期間を1年前倒しにして今季でチームを去ることを発表した(来季からアイルランドのマンスターのHCに就任予定)。指揮官の花道を飾るため、選手たちのモチベーションも高い。まずは、第5節で昨年の王者ブルーズとの再戦に勝利し、弾みを付けたいところだ。

 熱い戦いが繰り広げられている今季のスーパーラグビーから目が離せない。
 第5節はスーパーキッズラウンド。NZのフランチャイズの各チームは、特別バージョンのジャージーで試合をすることが決まっている。現場でも子ども向けのイベントがある。笑顔がいっぱいのスタジアムになるだろう。


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