logo
「体の裏面が強くなった」。今季初出場の金正奎[浦安D-Rocks]、同期からエナジーを得る
1991年10月3日生まれの33歳。177センチ、95キロ。啓光学園中(中1〜)→常翔啓光学園→早大→NTTコム(2014-2022)→浦安D-Rocks(2022-23〜)。日本代表キャップ7。SRサンウルブズ。ジュニア・ジャパン。U20、高校日本代表。(撮影/松本かおり)
2025.02.25
CHECK IT OUT

「体の裏面が強くなった」。今季初出場の金正奎[浦安D-Rocks]、同期からエナジーを得る

田村一博

 今年の秋には34歳になるベテランが開幕9戦目で今季初出場を果たした。
 2月23日に山梨でおこなわれた東京サントリーサンゴリアス×浦安D-Rocksの後半29分からの短い時間ながら、背番号16の金正奎(きん・しょうけい)はD-Rocksのフォワード最前列でプレーした。

 その間にスクラム、ラインアウトで1回ずつマイボールをキープし、ボールタッチは2回(味方の防御突破を呼ぶパス1回)。ブレイクダウンに何度も頭を突っ込み、倒れてもすぐに立ち上がって4回のタックルを決めた。
 35-40と敗れるも、最後まで勝利を追い続けたチームの中で動き続けた。

 試合を終えた金は、「個人としては、ずっと準備をしていました。その中で、出場機会が巡ってきたタイミングが今回でした」
 コンディションはいい。それなのに開幕からの8戦は出番がなかったのだから悔しい。淡々と「いつ声がかかってもいいように準備」をする日々だった。

 日本代表キャップ7を持つ。サンウルブズ(スーパーラグビー)でも活躍した。ただ、そのすべてはフランカーで得たものだ。
 フッカーに転向したのはリーグワン2022のシーズンを終えた後のオフだった。そのシーズンは7番で8試合に出場していたのに、自ら転向を決めた。

 ディビジョン1で戦っていたチームは、入替戦で三菱重工相模原ダイナボアーズに敗れ、D2に降格したシーズンだった。
 その中でいろいろ考えて決めた。トップチームのバックローには、外国出身の大型選手ばかりという中で、埋もれそうになっていたのは事実。そこから逃げるのではなく、フッカーで勝負してみたい気持ちが湧いた。

フッカーに転向して今季が3シーズン目。(撮影/松本かおり)


 当時、「やりたいのにやらない後悔はいつまでも残る。やってダメなら仕方ないけど、やれるのにやらないと、将来同じように選択を迫られた時に、踏み出せないままの人間になってしまうと思う」と決断の理由を話していた。

 その時から2シーズン。試合出場数は一昨季が7試合(1試合は入替戦)、昨季が4試合と決して多くはないけれど、自分と向き合い、フロントローとして成長を続ける姿がある。

「課題としてスクラムと向き合ってきました」と話す。
 ただ、「だいぶ自信を持てるようになってきました。それが評価につながり、今回(の出場)につながったと思います」。

 バックローからフロントローに転向し、トレーニングも大きく変わった。「これまでは前腿をガッと使ってトレーニングしていましたが、いまはできるだけ(体の)裏面を使っています」と説明する。
 それが少しずつ実を結んでいると話す表情が明るい。

 その成果は「スクラムにも生きているし、スクラム以外のラグビーのプレーにもいい影響が出ています」と好感触がある。
「体重は変わらないのですが、体の使い方が変わった。同じ体重でもまったく違う体、という感覚です」

 バックロー時代から得意だったプレーがある。抜け出した味方を瞬時にサポート。すぐに寄って、さらにボールを前へキャリーする動きだ。

「それはいまも得意。むしろ、そこが得意」と笑う職人系プレーヤーは、「(プレーヤーとして)できることが増えた」と続けた。
 タックルがより強くなった。ブレイクダウンまわりのプレーの質が上がった。接点が強くなった。

 この日戦ったサンゴリアスの背番号3、垣永真之介は早大時代の同期。4年時の主将で自分が副将という間柄だった。
 それだけに「一緒に出たかった」が、5戦連続先発(今季7戦出場)の友人は後半22分にベンチに下がる。同じ時間帯にピッチに立つことはなかった。

「フロントロー同士で一緒にプレーできるかもしれなかった。感慨深いですね」としみじみ言った。
 昨季も11戦に出場(プレーオフ2戦含む)と元気な同期に「負けていられないな、と、いい影響をもらっています」と素直に話す。
 試合後に言葉を交わし、肩を組んで写真も撮った。ラグビーをやっていて本当に良かったと思える瞬間だ。

2024年3月30日のグリーンロケッツ戦以来の出場だった。サンゴリアスの23番、中靍隆彰は早大時代の1学年上。(撮影/松本かおり)


 試合に出たい。出られるかな。そんなふうに心が動く日々は、まだ続くかもしれない。そんな中で、「自分にやれることを、一つひとつ、練習から積み重ねていく」とまっすぐ前を見る。
「きれいごとに聞こえるかもしれませんが、昨日の自分より、今日のほうが成長している自分であり続けたい」
 目の前のことに全力を尽くすこと以外考えない。

 長くチームに所属し、リーダーシップを発揮してきた。今季まだ1勝しか挙げられていないチームの一員としても、同じスピリットで戦うことが大事と思う。
「2年間D2にいて、そこから上がってきた。正直(D-Rocksは)もがきながらこのシーズンを戦っています。でも、そんな目先の必死さが必要。それを続けていれば、飛躍できる時が来る」

 後半25分までは21-35。そこから5点差まで迫り、勝ち点1を獲得したこの日の戦いは、「負けたけど、必死さを出せたように思う」と話す。
 自身のパフォーマンスについても、「インパクトを残せたと思う」と振り返った。

「いまは放牧牛など、ちゃんとした育てられ方をしているものを取り寄せています」と、『きんめし』で知られる栄養面の気配りも含め、向上心は少しも衰えない。
 11シーズン目を終えた時の自分とチームの成長を楽しみに毎日を生きる。


ALL ARTICLES
記事一覧はこちら