logo
再び青いジャージにつつまれて。高田和輝[横河武蔵野アトラスターズ]
PROFILE◎たかだ・かずき。1991年12月27日生まれの33歳。167センチ、104キロ。ポジション=PR。明大中野→帝京大。2014年から2022年横河武蔵野アトラスターズでプレーし、2023年スクラムコーチに。写真は2024年3月30日、ホームグラウンド(東京・武蔵野市)にて。苦境に陥ったチームを鼓舞するため2024シーズン限定で現役復帰。同シーズンを終えて再びジャージーを脱いだ。(撮影/山形美弥子)

再び青いジャージにつつまれて。高田和輝[横河武蔵野アトラスターズ]

箱石友貴

 リーグワン創設後4季目の開幕から約2か月。国内シーンが盛り上がっている中で社会人ラグビー(トップイースト)にも日本のラグビーを盛り上げている選手の熱い物語が存在する。

 2024年4月4日、横河武蔵野アトラスターズの高田和輝(たかだ・かずき)は現役復帰を果たした。
 多くのことを犠牲にするのは承知の上での復帰だった。
 業務優先、フルタイムで働きながら活動するチーム状況も含め簡単な決断ではなかった。

 2014年に入団。8シーズンもの間、プロップ(主に3番)として戦い続けた。
 167センチ、104キロの小兵力士のような体格を活かし、低いスクラムでFWを前に出してきた。出場試合数は66。在籍時のチーム最高成績は2019年のトップイーストリーグ2位だった。

 明大中野中1年時にラグビーを始め、明大中野高→帝京大を経て横河武蔵野に入団した。
 大学時代の同級生には東京サントリーサンゴリアスで活躍する中村亮土がいる。いま33歳。

2024年12月7日、東京・秩父宮。トップイーストリーグAグループ最終節に決死の表情を浮かべて先発出場(PR3)。睨みつけるほどの真剣な目つきで迫るように前を見据えていた。(撮影/山形美弥子)


 2022年シーズンで現役選手を引退し、2023年シーズンからスクラムコーチとしてチームに残った。
 そのシーズン横河武蔵野は開幕2連勝後に6連敗。入替戦でも敗れた。Bグループ降格となった。しかし、セコム(現 狭山セコムラガッツ)とヤクルト(現 ヤクルトレビンズ戸田)のリーグワン昇格が決まる。Aグループ残留となった。

「自分の経験を伝えて選手が育っていく事が嬉しかった、けど、勝てなかったから悔しい1年だった」
 責任を感じた。入替戦敗北後、コーチをやめようと考えた。
 しかし、同期入団のPR古澤陸や昔の戦友から思わぬ誘いを受けた。現役への復帰提案だった。

「家庭や仕事もあるから、最後に、もう一度(だけ)このチーム、このメンバーでやりたい」
 そんな気持ちが湧いた。そして、家族とも相談し現役復帰を決意した。
 2024年4月4日、選手として再びグラウンドに戻った。

 分かっていたことではあるが、グラウンドで戦うことは簡単ではなかった。
 スクラムコーチをしていたとはいえ、現役を引退して一般的なサラリーマンの食事や生活をしていた体は思うように動かない。度重なる怪我によりチームが求めていることに応えられていない日々が続いた。

2021年10月16日、横河武蔵野アトラスターズ−セコムラガッツ戦。創部75年の2021-2022シーズンは、横河武蔵野のスクラメイジャーとして全試合に先発出場。「高田が途中交替してはチーム戦力が落ちる」とのコーチ陣の判断により前後半通しでピッチに立つ日もあった。(撮影/山形美弥子)


「選手としては無理なのかなって思う事もあった。でも、選手をやると決めたのは自分。もう一回グラウンドに立ちたい」

 チームスポーツにおいて怪我でプレーできない状況に陥った際、チームや競技から離れてしまうか、チームのために少しでもコミットするか。その2択に分かれることが多い。高田は後者だ。
 自身のトレーニングをしつつ、今までの経験を若い選手に伝えた。チームにコミットし続けた。

 焦る気持ちを消し、リハビリを継続した。
 スクラム職人は若手へ、「焦って、バインドのコールで前のめりになりすぎない(ように)」とアドバイスする。
 それはリハビリでも同じ。心は熱く頭は冷静、を実践した。

 2024年シーズンの横河武蔵野は開幕戦勝利後、2連敗した。
 4戦目の10月20日、 日立SUN NEXUS茨城との試合で高田は、青いジャージを着て途中出場を果たした。2年ぶりの公式戦だった。
 後半23分、10-17と7点ビハインドの場面で3番の山本渓太に代わってピッチに入る。ブレイクダウンでプレッシャーをかけ続けた。

2024年シーズン最終節を勝利で締めくくった。試合後は、重い荷物を背負った人のようだった表情が和らぎ、いつもの親しみある清々しい表情に戻る。2024年12月7日、秩父宮にて。このゲームが、ピッチに立つ最後の試合となった。(撮影/山形美弥子)


 結果は10-20。チームはシーソーゲームを落とす。高田は劣勢だったスクラムでも応戦した。
 しかし、本人は満足しない。
「グラウンドに戻ってこられて嬉しい気持ちはあったけど、久しぶりに味わった悔しい気持ちのほうが大きい」
 チームはその後も連敗し、リーグ最終戦で1勝をもぎ取るも、その後の入替戦で敗れる。またもやBグループ降格となった。

 負けたくない気持ちがなくなったら終わりと口にする。
 グラウンドで得られる高揚感。勝つか負けるか、手に汗握る感覚。それを直に感じられる唯一無二の存在が現役プレーヤーだ。
 その気持ちは明大中野中、明大中野高や帝京大の時と変わらない。年齢も関係ない。

 朴訥。内に熱さを秘める。飾らない謙虚な性格も、「チームが勝てばなんでもいい」と勝利にはどん欲。
 高田のポジションは『チームマン』としてもいい。

試合に出る喜びと勝てない悔しさの葛藤の中、プロ選手がおらずとも、全員のスタンダードを上げて置かれた環境で最大限のパフォーマンスを発揮するという矜持を共有したチームメートたちと、ホームグラウンド(東京・武蔵野市)にて。(撮影/山形美弥子)





ALL ARTICLES
記事一覧はこちら