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今季初先発をつかんだ。田畑凌[横浜キヤノンイーグルス]、実直に生きる。
ワイルドナイツ戦の前半20分、SHデクラークとのコンビネーションでビッグゲイン。(撮影/松本かおり)
2025.02.20
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今季初先発をつかんだ。田畑凌[横浜キヤノンイーグルス]、実直に生きる。

田村一博

 京産大からライザーズを経てイーグルスで活躍中。田畑凌(りょう)の経歴を、そう書きたくなる。
 横浜キヤノンイーグルスでは、試合のメンバー外で、チームを支える選手たちをライザーズと呼ぶ。田畑は、そこで長く過ごした。その時間がこの人の土台を築いた。

 2019年の春、イーグルスに入団も、始めてトップチームで公式戦に出場したのは入団4季目の一昨季。2023年4月9日におこなわれたリーグワン、NECグリーンロケッツ東葛との一戦。残り10分強のところで南橋直哉と代わりピッチへ立った。トライも奪い、仲間の祝福を受けた(45-17)。

 昨季は5試合に出場。うち3試合はCTBでの先発を任され、第5節のリコーブラックラムズ東京戦ではプレーヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれる活躍を見せた。
 そして今季、開幕戦への出場こそ逃したものの(ベンチには入った)、第2節から6戦連続で途中出場を続けた。

 第8節、2月16日の埼玉パナソニックワイルドナイツ戦では、今季初先発の座も得た。試合には36-51と敗れるも80分ピッチに立ち続け、イーグルスのモスト・インプレッシブ・プレーヤーにも選出された。

子どもたちとの入場。優しい視線があった。(撮影/松本かおり)


 その試合の特に前半、田畑はチームに勢いを与えるプレーを見せた。
 19分過ぎ、ピッチ中央のラックからボールを持ち出し、SHファフ・デクラークとのコンビネーションで防御を突破。20メートル近く前進してトライラインに迫る。ペナルティトライを得た。

 同28分過ぎには、敵陣でのスクラムから左へ展開した攻撃で冴えた。力強いボールキャリー。ステップでディフェンダーの芯をずらして突破。オフロードパスを外につなぎ、FBブレンダン・オーウェンのトライを呼んだ。

 その試合を終えて田畑は「イーグルスのラグビーをする時間を多く作りたかったのですが、結構打ち合いになってしまった。自分たちの時間をもう少し長くしないと、パナソニック相手には劣勢になってしまう」と敗戦を悔やんだ。

「オプションを使いながら、いいタイミングでキックを使っていくようなラグビーをしないといけなかった。そこで後手を踏んでしまいました」

 自身がデクラークとの連係でビッグゲインをしたプレーについては、「準備していたプレー。あの場面では、ボール持ったら、もし敵がいても迷わずにキャリーすると決めていました。それがいい方向に出ました」と説明した。

 沢木敬介監督には面談等で、考えているまま「思い切りやれ」と言われている。
「シンプルに考え、自分の役割を遂行することに集中しています。その方向性がハマっている感じです」とする。
「体をバチバチ当てる。それが自分のスタイル。そんなプレーを迷いなく、毎回やれればいいと思っています」

 シーズン前からいい準備ができた。それがいまにつながっている。「ずっとリザーブに入っていたのですが、いつ先発のチャンスが来てもやるぞ、という気持ちを持っていました」と言う。

前半29分にはトライにつながるオフロードパスを出した。(撮影/松本かおり)


 そんな気持ちではいたけれど、今季初先発の相手が強豪、ワイルドナイツだったから緊張はあった。
「ただ、自分がやってきたものを出せばやれる。そんな感覚はあったので(積み上げてきたものを)体現しようと思いました」
 そう覚悟を決めて、肝がすわった。

 このチームに加わってから6シーズン目。その半分以上はもがいていた。2020年に就任した沢木監督は、自分が上向きになる刺激を与えてくれたと思っている。
 周囲とコミュニケーションを取り、思い切ってボールを動かせ。オプションを使いながら動き、1対1の状況を作り、ハードキャリーを。そんな指示を受けて動いていたら、少しずつ自信をつかめた。

 試合に出られず悶々としていた頃、少しずつ前に進めた成長期と、現在の自分の基礎を築いている時期、常に一緒にいてくれたのがライザーズの仲間だった。
 田畑には忘れられない試合がある。リーグワンデビューとなったグリーンロケッツ戦の前週、2023年3月31日に実施された、豊田自動織機シャトルズ愛知との練習試合だ。ライザーズの選手たちで構成されたメンバーの一人として戦った。

「モチベーションムービーを見て、自分も含め、何人もの選手が泣いていました。それまで、試合前にそんなふうになることはなかった。あのとき、このチームでもっとプレーしたい、貢献したいっていう思いがあふれ出たんです」

 普段は試合への準備の中でAチームの対戦相手になりきり、圧力をかけ、レベルアップに貢献する男たちが自分たちのために戦う一戦。34-14と快勝したその試合で田畑は活躍し、監督から「情熱が伝わってきた」の言葉をもらう。
 結果、デビューの機会を得た。

 実は今回のワイルドナイツ戦前も、チームを支える頼もしき仲間の魂に触れた。もともと、ジェシー・クリエルが13番で先発するはずだったから、週のはじめは田畑もライザーズにいた。

「そこであらためて、すごく熱い気持ちやイーグルスが大事にしている DNAを感じました」
 2季続けてトップ4に入ったチームの中にいて、イーグルスには熱量があると感じる。
「だからこそメンバーに入りたいと思うし、(選ばれた)メンバーもプライドを持ってプレーする。そこは、数年前から続いているイーグルスの大事なマインドだと思います」

 チームは週に2日は本気でぶつかり合う練習をおこなっている。ワイルドナイツ戦までの準備でも、ライザーズがAチームへ立ち向かう気迫は凄かった。
 イーグルスの選手たちが毎試合のキックオフを最高の状態で迎えられるのは、そんな時間を過ごしているからだ。

1996年7月5日生まれの28歳。177センチ、95キロ。報徳学園→京産大。ライザーズの魂を深く知るSH天野寿紀(右)と。(撮影/松本かおり)


 毎試合出場予定選手の23人に名前を連ねるようになっても、田畑は原点を忘れない。
 違う選手になったわけではないのだ。チームに求められることに応える。そこだけに集中する。

 クリエルに代わって13番のジャージーを着ることになっても落ち着いていた。
「ジェシーは、とてもスペシャルな選手。同じプレーをやろうとするのではなく、自分に求められているのはハードキャリーやひたむきなところ。そういうものを出せたらいいな、と思ってプレーしました」

 今季のシーズン前、梶村祐介主将やクリエルがそれぞれの代表活動でチームを離れていたから、CTBで先発し、プレータイムも長かった。
「そこで60分、80分とプレーさせてもらい、自分の中でいい感覚がつかめました。短い時間だけでなく、先発で出てもやれる、という感覚がつかめた」

 次戦の第9節の試合で、長いシーズンも折り返し。勝負どころの終盤戦に向けて、「イーグルスのラグビーをスイッチオフしてしまう試合が続いているので、1 秒でも1 分でも自分たちの時間を長く作らないと」と話す。そのためには、「各個人が役割を遂行すること」と迷いはない。

 プレーヤー、田畑凌は進化を続ける。ひとりの人間としての実直さは何も変わらない。


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