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カート=リー・アレンゼ[三菱重工相模原ダイナボアーズ]◎緑の疾風、日本でも。
1996年6月17日生まれの28歳。176センチ、80キロ。南アフリカ代表キャップ24。2024年11月のオータムネーションズシリーズでも5試合に出場して3トライを挙げた。©︎JRLO

カート=リー・アレンゼ[三菱重工相模原ダイナボアーズ]◎緑の疾風、日本でも。

Simon Borchardt

 開幕からの全8戦に出場し、大きな期待に応えている。南アフリカ代表のスピードスター、カート=リー・アレンゼは柔らかくて速い。小柄な体躯でディフェンダーを翻弄する姿は、日本のファンに広く受け入れられている。
 世界の舞台を駆けてきた28歳は、リーグワンでも緑のジャージーを着て駆けている。

 来日してすぐ異国の地の環境に対応している好ランナーに、南アフリカのラグビー専門誌、『SA RUGBY』がインタビューをした。記事を書いたサイモン・ボーチャード記者から記事が届いた。

◆日本をしっかりと体験したい。


 カート=リー・アレンゼが日本でその名を知らしめるのに時間はかからなかった。

 昨年12月、三菱重工相模原ダイナボアーズでのリーグワンデビュー戦。浦安D-Rocksとの試合の61分、アレンゼは自陣10メートルライン付近でボールを受け取る。
 15番のジャージをまとい、一気にスピードを上げて2人のタックラーをかわし、さらにはカバーリングのディフェンダーを弾き飛ばしてトライを決めた(今回は彼の得意技であるサイドステップを使うまでもなかった)。

 相模原ギオンスタジアム(収容人数1万5000人)の観客は新たなスター選手の登場に多くの拍手を送った。また、その数分後、アレンゼがピッチを去る際にも惜しみない拍手を送った。ダイナボアーズは31-19でシーズン開幕戦を勝利で飾った。

「プレシーズンマッチでも少しの時間プレーしましたが、それはあくまで身体慣らしを目的としたものでした。だからリーグのデビュー戦は別ものでした。チームメイトのサポートもあって試合にも勝ち、特別なものとなりました」

 2023年のワールドカップではスプリングボクスの14番として、プレーオフでの3試合を含む5試合に出場したアレンゼは、大会後に日本でプレーしたい意思を代理人に伝えていた。その理由は、金銭面だけが目的ではなかった。

 彼はコロナ禍のため1年遅れの開催となった2021年の東京オリンピックにセブンズ南アフリカ代表の一員として日本を訪れている。しかし当時はウィルス感染を避けるため、ホテルに缶詰状態だった。

「だから、今回はしっかりと日本を体験したいんだ」と彼は話す。「東京や渋谷のスクランブル交差点、横浜、大阪、京都にも行きましたし、シーズンが終わる前に、もっとたくさんの場所に行きたいと思っています」

 アレンゼはサバティカル契約(一時休暇契約)によるダイナボアーズでの生活が始まる直前まで、南アフリカ代表の活動に参加していた(2024年11月)。その前の10月にはユナイテッド・ラグビーチャンピオンシップ(以下、URC)で、ブルズの4試合に出場している。

 予定ではURCプレーオフ前の5月にブルズへ復帰することになっているが、(状況によっては)滞在が延長する可能性もある。

日本でのデビュー戦となった開幕戦の浦安D-Rocks戦でトライも挙げ、プレーヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれた。©︎JRLO


 アレンゼの日本でのプレーが決まった際、ブルズのヘッドコーチ、ジェイク・ホワイトは「彼の移籍は大きな痛手だ」と言った。
「彼は3年連続でクラブの年間最優秀選手賞を受賞し、プレイヤーズ・プレイヤー・オブ・ザ・イヤーにも2度選出されています。選手たち、コーチ陣、ファンの誰もが彼の重要性を認めています」

 アレンゼはホワイトへ日本行きをどう伝えたのかと尋ねられると、「その話は代理人に任せました」と笑いながら答え、続けた。
「ジェイクは僕が去ることを残念に思っていたでしょうが、同時に僕のために喜んでもくれたと思います」

 ホワイトはアレンゼのような選手に海外での挑戦機会を提供することは、南アフリカ国内にトップ選手をとどめておくには必要だと考えている。「さもなければ、海外での高額契約を求めて選手たちが一斉に流出してしまうだろう」と話す。
 南アフリカのトップチームにとっては、選手を完全に手放すより、一時的なサバティカル契約の方がメリットがあるというわけだ。

 そして、選手自身にも良い影響がある。アレンゼは、「日本では(リーグ戦は)年間18試合しかプレーしません」と説明する。さらに、開幕からの7戦で80分プレーしたのは4試合で、3試合は後半20分前後でピッチから出ている。
「だから体にもメンタルにも優しいんです」

◆背番号は何番でもいい。チームに貢献する。


 日本のリーグ戦時の移動距離が短い点も選手にとっては大きな魅力だ。
「対戦相手はどこも1~2時間の距離にあるので、遠征が(国をまたぐ移動のあるURCなどと比べて)大幅に楽です。試合によっては電車で移動することもあります」。

 現在おこなわれているリーグワン(以前はトップリーグの名前で知られていた)はURCと比べるとレベルが異なるかもしれないが、アレンゼは「決して簡単な舞台ではない」と強調する。

「試合の強度は高く、毎週集中してプレーすることが必要です。(南アフリカのファンなど、日本国外の)みなさんが思っている以上にフィジカルな戦いが多い。このリーグがランニングラグビーに重点を置いている点が気に入っています。それは自分のプレースタイルにも合っています」

 日本に到着してすぐ、ヘッドコーチのグレン・ディレーニーに「どこのポジションを希望するか」を問われた。
「僕は『どこでプレーしても構いません。とにかくフィールドに立ち、チームに貢献したい。左ウイングでも、右でも、フルバックでも』と答えました」

南アフリカでもスピードだけでなく、ゲームを読む力、ディフェンスのギャップを見抜く感覚を高く評価されている。©︎JRLO


 開幕からFBで4戦、WTBで3戦先発しているアレンゼは、「リーグワンは人気があり、誰もがここでプレーしたがっています。日本ではラグビーが本当に成長しています」

 これまでの言語とは違うことも日本での挑戦のひとつではあるが、本人は「日本語を学ぶのは難しいですが、いくつかの言葉は覚えました」と前向きだ。「やはり言葉が話せると、ピッチ内外で物事がずっと楽に進みます」。

「クラブには通訳がいるのでとても助かっています。もし通訳がいない時でも、英語が話せるチームメイトが、日本語の分からない選手をサポートしてくれる。ラグビー用語はだいたい覚えました。そこが一番大事ですね」

 アレンゼは、「ダイナボアーズのようなクラブはプロ意識や施設の面で南アフリカのブルズのようなフランチャイズにも引けを取らない」と語る。
 しかし、彼が最も感銘を受けたのはファンの存在。「たとえ前の試合で大敗しても(第2戦では東芝ブレイブルーパス東京に8-61で敗北)、次の試合でも変わらず応援してくれる。本当に素晴らしい」と気に入っている。

 アレンゼは、日本での長期契約を結び、ブルズとの関係を終わらせる可能性について問われると、まるでディフェンダーをかわすかのように巧みに質問をかわした。

「それについては考えていません。今は目の前のチャンスを最大限に活かすことに集中しています。フィールドでパフォーマンスを発揮し選手として成長しながら、チームメイトたちの成長も手助けしていきたいですね」

【サイドバー】カート=リーのあれこれ。


◆相模原での生活は?
「静かで良い環境です。2LDKのかなり広いアパートに住んでいます。ときどき、その広さをどう使えばいいのか分からないくらい!」

◆リーグの他チームでプレーする南アフリカ選手との交流はどう?
「試合後には少し話をしますが、クラブ同士が離れた場所にあり、それぞれスケジュールも異なるので、実際にはあまり会う機会がありません。でも、みんなWhats Appのグループに入っていて、みんなで集まる計画を立てているところです」

◆スプリングボックス(南アフリカ代表)での成長について
「デビュー戦(2022年、ブルームフォンテンでのウェールズ戦)の前に、自分に言い聞かせました。『この機会を最大限に活かさなければならない。次の機会はないかもしれないぞ』と。それ以降もスプリングボックスのジャージを着るたびに、これが最後のチャンスかも、と自分に言い聞かせています。代表チームのシステムの中で常にプレーを向上させたい。選手として成長したいと思っています。常にエクストラ(追加)トレーニングに多くの時間を費やし、試合の特定の側面に焦点を当てて取り組んでいます」


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