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結婚式から約1年半経っての新婚旅行。「よし、ラグビー観戦に行こう」と盛り上がり、「シックスネーションズがいいね」となるのは聞いたことがあるような気がする。
しかし、長靴の形の国での「イタリア×ウェールズに行こう」とはなかなかならないだろう。
そのカードに出かけたラグビー愛好家からの観戦記が届いた。「ちくしやぞ」で知られる高校ラグビー部出身のラグビーマンからだ。
観戦したのは2月8日(土)、ローマでおこなわれたアズーリ×レッドドラゴンの一戦だ。
日本を発ってヘルシンキまでの13時間のフライト後、3時間半のトランジット。そこからローマまでも3時間半。ほぼ丸一日を費やして現地に着いた。
ホテル近くのフラミニオ駅(トラム)からマンチーニ広場駅へ。戦いの舞台、スタディオオリンピコへたどり着いた。
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◆短かったウェールズファンの歓喜。
その日、小降りだった雨は本降りになっていった。試合開始2時間前から、スタジアムには絶え間なく雨が降り注ぐ。
パス回しによる外展開など、つなぐ回数の増える(ミスの可能性が高まる)攻撃の優先順位を下げざるを得ない天候だ。セットプレー、密集での攻防戦、キッキングゲーム、ディフェンス、その他ベーシックな基本スキル。ラグビーの根幹の部分を問われ続けるような状況下での試合となった。
実力があり自信をつけたイタリアが、焦点を絞り、挑戦者の姿勢で挑むと思われるウェールズに対して、どのように戦うのか。興味の焦点はそこだった。
イタリア国歌、マメーリの賛歌を歌うファンの声がスタジアムにこだまする。イタリアファンの期待を背負ったイタリア代表は、ラグビーの根幹の部分でウェールズをねじ伏せていった。
試合は序盤、ウェールズのSH、名手トモス・ウィリアムズが雨中に高精度のキックを駆使してウェールズをあやつり、引っ張った。
ウィリアムズのキックパスにWTBジョシュ・アダムスが反応するも、惜しくもインゴールにグラウンディングできなかった。それが、ウェールズファンがこの試合で最も沸いたシーンとなった。
レッドドラゴンは、要所でスクラムの反則を犯すなどチャンスを掴みきれず、勢いを失っていく。
やがてイタリアに流れを掌握されてしまった。
イタリアは、キッキングゲームとディフェンスで流れを引き寄せた。
SHマルティン・ペジェレロを中心に効果的にキックを使う。相手陣に侵入すると、鋭い動きでよく働くFWが、しぶとくディフェンスした。
規律高く守りながら、HOジャコモ・ニコーテラ、NO8 ニコロ・カノーネ、FLミケーレ・ラマロ(主将)らキーマンが密集の攻防戦で決定的な仕事をする。敵陣で得たペナルティを確実にスコアに繋げ、PGの3点を地道に積み上げていった。
最前列の3人はフィールドでの仕事量が多かった。FW8人全員でよく守れるのが、いまのイタリア代表の強みだ。特長を活かした展開に持ち込んだ。
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SOパオロ・ガルビジの塩梅の効いた仕掛けとグラバーキックで、WTBアンジュ・カプオッゾがインゴールを陥れたシーンもあった。イタリアはトライ&ゴールによる7点も刻んだ。
スクラムではウェールズのペナルティを計3本誘発した。レッドドラゴンは反撃の糸口を見出そうにも難しい状況が続いた。
前半は16-3。イタリアはほぼ完璧に前半を締めた。BKがFWを前に出し、FWが接点で仕事をする理想的な内容が印象に残った。
◆イタリアはしたたかで、しぶとい。
後半に入っても、イタリアは安定したディフェンスで試合を作り、流れをウェールズに渡さない。ウェールズの大黒柱であるNO8タウルぺ・ファレタウにHOニコーテラが刺さるシーンがあった。NO8カノーネがジャッカル、ペナルティを誘発する。この試合の様相を詰め込んだ印象的な場面だった。
うしろの席の熱心なウェールズファンが、この頃から応援の熱量を失ってしまった(こちらのファンはウェールズ最初の得点時のペナルティ獲得の時、トライを狙え! でなく「points! points!」と叫んでいたのがとてもよかった。点は取れる時に取っておくものと観客に学ぶ。シックスネーションズの深み)
イタリアは3回連続でペナルティゴールを外すなどのトラブルもあったが、多くの要素でウェールズを上回っているので大崩れすることがなかった。後半21分にPGで3点を追加し19-3とすると、勝敗は決定的なものになった。
イタリアはその後相手に2トライを許したものの、22-15でイタリアが勝利。点差以上の完勝といって良い内容だった。
自慢のバックス陣が走り回る展開でなくとも、したたかさとしぶとさ、接点での勝負で勝ち切れることを示した。
NO8カノーネは、密集戦でのバトルをスコアに結びつける強烈なジャッカルで大貢献。ボールキャリーも効いていた。
セットプレーと接点での仕事の質が極めて高いHOニコーテラ、雨の中ゲームコントロールして役割を果たしたSHぺジェレロ。大雨とぬかるんだコンディションの中、着実にPGを沈めた15番トンマーゾ・アランも陰の立役者となった。
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試合前日、ローマには赤いジャージを着たウェールズファンがあちこちにいた。 試合当日、ホテルの朝食ラウンジでは、大所帯で応援に来ている方たちを何グループも見た。
そのほとんど全員が同じ格好をしていた。皆、赤いジャージを誇りに思っている。そんな印象で、とてもカッコよく見えた。
どんなチームにも良い時と苦しい時がある。良い時にどうするか。苦しい時にそこからどう立ち上がるか。どう這い上がるのか。その歴史の連続で戦い抜いてきたレッドドラゴンがただで転ぶはずがない。
この日の敗戦から3日後、ウエールズ協会はウォーレン・ガットランド ヘッドコーチの解任を発表した。
【プロフィール】
古屋 龍太郎/ふるや・りょうたろう
1994年、福岡市生まれ。5歳からラグビーを始める。 長崎RS、川崎市RS、草ヶ江YR、筑紫高校、立命館大学、東京ガスでプレーし、2019年に引退。 現役時代のポジションはCTB、WTB。