![走る公務員、金曜の夜。森瀬詩乃[ながとブルーエンジェルス]](https://www.justrugby.jp/cms/wp-content/uploads/2025/02/daiKM3_8617_2_mini.jpg)
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金曜の夜、行動は毎週決まっている。
職場は長崎県諫早市の市役所。定時の17時15分まで勤務して、一度帰宅。出掛ける準備を済ますと、最寄りの本諫早駅(島原鉄道)へ向かう。
JR諫早駅経由で武雄温泉駅まで西九州新幹線に乗り、その後、博多へ。そこから山陽新幹線で新山口へ。同駅からクラブのある長門までの道のりは、クラブ関係者の車に乗る。仲間の待つ地への到着は22時過ぎとなる。
ながとブルーエンジェルス(以下、NBA)の森瀬詩乃は、2シーズン同じ生活を続けている。
ながとで週末を過ごした後は再び諫早へ戻る。仲間とチームが大好きだから、きついスケジュールも苦にならない。
2001年1月11日生まれの24歳。NBAに加わったのは、九産大卒業前の2023年の1月だった。
小1の時に島原ラグビースクールに入って以来、15年以上楕円球を追い続けている。
2月9日、森瀬の姿はミクニワールドスタジアム北九州にあった。同スタジアムでは、前日から北洋建設Presents Nanairo CUP 北九州『Kyushu Women’s Sevens 2025』が開催されていた。
所属するNBAは決勝戦へ進出するもナナイロプリズム福岡に14-24と敗れて準優勝に終わった。しかし森瀬はサクラセブンズに選ばれている選手たちとともに先発し、チームが奪った2トライのうちの一つを挙げるパフォーマンスを見せた。
準決勝後、「チームは密にコミュニケーションをとってプレーできています」と話した。活躍は、周囲との連係が取れているからこそのものだろう。
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森瀬が自分の住む地域に近いクラブでなく、佐賀も福岡も飛び越えて、関門海峡を渡った山口にあるNBAに所属しているのは、純粋な気持ちからだ。
「憧れていたチームです。国際的で、(コーチングなども含めて)素晴らしい環境があり、素晴らしい選手たちがいる。部活とは違います。(社会人になっても競技を)続けるならレベルの高い中で、本気で、自分が一番成長できるところでやりたいと思いました」
NBAは2019年、太陽生命ウィメンズセブンズシリーズの年間チャンピオンに初めてなった。翌年の大会はコロナ禍で中止となるも、再開された2021年も年間王者の座に就く。
2022年大会こそ年間順位で2位となるも、2023年から連続で年間王者と黄金時代を築いている。昨年のパリ五輪でサクラセブンズの主将を務めた平野優芽をはじめ、代表選手たちが切磋琢磨している。
森瀬も大学時代、九産大の一員として同シリーズに参加したことがある。しかし、上位進出はない。
そんな状況を考えるなら、ビッグネームの並ぶ強豪に加わることを尻込みするタイプもいるだろう。しかし、向上心の方が上回った。
NBAに加わって良かった。活動に参加してすぐにそう思った。
「普段からみんなコミュニケーション能力が高く、人として尊敬できる人たちばかり。プレーのレベルだけでなく、本当にいい人たちばかりなんです」
長崎にいる平日は、練習パートナーとして手伝ってくれる人がいる日もあるが、個人練習が基本。そんなとき、みんなのことが頭に浮かぶのだ。
「チームのみんなは山口で練習を頑張っている。それが私の励みになっています。自分もみんなと同じように頑張ろう、と」
そんな思いでいるから、金曜の夜に山口へ向かう途中はわくわくしている。翌日は仲間と練習できる。
島原ラグビースクールに所属しながら、中学からは、福岡レディースに加わって試合に出た。太陽生命カップ全国中学生大会に北部九州選抜チームの一員として出場し、優勝したこともある。
島原高校ではレスリング部にも所属した。同部は強豪。男女の上にも下にも、インターハイで優勝するような選手がいた。
森瀬もフリースタイル52キロ級の選手として九州大会3位の成績を残したことがある。
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タックルのコツはその頃つかんだ。
「毎日100回は入る練習をするので、恐怖心は克服できるし、相手を倒す技術も身につきました」
バランスの良さも身につけた。
ラグビーとレスリングで育まれた土台と情熱。森瀬には進化する素養があったのだろう。NBAに加わって、順調に実力を伸ばしている。
同期はオリンピアンの大谷芽生、そして室越香南。学生時代に対戦したことがある。しかし、2人ともそれぞれの所属チームで目立って活躍していた存在。そんな人たちと一緒にやれることは嬉しかったが、最初は緊張もした。
「でもいまは、なんでも話せます。いろんなことを教えてくれます」
加入した年の太陽生命シリーズでは試合に出られず、沈み、山口への移動の行き帰りにいろいろ考え込んだ時期もあった。長崎での練習に気持ちがのらない日もあった。
「でも、出られないのは自分だけではありません。(同じ境遇の選手たちと)声を掛け合いました。そして、やっぱり、(第一線で)頑張っている選手たちの姿に感じるものがありました。ここで心を折っていたらダメだろう、と」
投げ出さないでよかった。
昨年の太陽生命シリーズでは4大会中3大会に出場し、最終の花園大会の決勝では先制トライを挙げる活躍だった(対YOKOHAMA TKM)。
今シーズンも仲間と駆け、大好きなクラブで勝利の感激を味わいたい。
「太陽生命シリーズに向けて、しっかりメンバーに入れるように頑張ります。競争は激しいけど、チームに貢献したいですね」と話す。
金曜の夜が待ち遠しい。