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【コラム/中村知春のアニキにっき】ラグビーとビール。
世界を転戦する歳月を過ごしてきた。こちらは、NZ・ハミルトンのパブでの一枚(2023年)

【コラム/中村知春のアニキにっき】ラグビーとビール。

中村知春

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「ビールは、お好きですか?」
 いや、ラグビー好きの皆様には愚問なので 「皆様の好きなビールはなんですか?」と問い直させていただく。

 なぜラグビーとビールは切っても切れない関係と言われるのか、2019 年のラグビーワールドカップが証明したので、ここでは語るまい。

 サクラセブンズが(HSBC SVNSの)オーストラリア大会で過去最高位タイの世界 5 位となった。
 私の心配は、ただ一つ。
 20 歳以上の選手たちは試合後、パースで美味しいビール飲めたかなぁ。

 ちなみに私の現役時代のサクラセブンズは、お酒での飲みニケーションは滅多に無かった。
 とはいえ私はビール大好き派なので、大会後など時間があって、環境的に許される時は、各地のビールを味見することに情熱を燃やしていた。

世界のあちこちで出会ったビールたち

 ビールは紀元前3000年以上前からこの世界に存在しているのだ。俗にいう体育会系の会社で育ち、年次の感覚を体に刻み込まれている私にとってビールは、超絶尊敬すべき存在だ。

 なんせ5000年以上先輩だし、⻑い歴史の中で庶⺠に愛され、世界各地で進化を遂げ、さまざまに改良された⻩金のシュワシュワな液体。かのハンムラビ法典ではビールを勝手に薄めたら厳罰(水の中に投げ込まれるなど)という厳しい法律もあったらしい。
 サクラセブンズで⻑く最年⻑だった私も、ビールに比べればまだまだ若輩者だ。ビールさん、と言わなくてはならない。

 そんな私が出会ったビールの中でも忘れられない存在が、ネパールのバラシンギというクラフトビールだ。
 鹿が描かれたオレンジラベルの瓶ビール。エベレストから流れる水が美味しいからなのか、はたまた酸素が薄く暑いネパールですがりつくように飲んだからなのか、理由はわからないが、とにかくめちゃくちゃ美味しかった。

 暑い国のビールによくある軽めの口当たりだが、カラカラな自分にビールを注ぎこむあのひと口目の感動が、なん口目でも続くのが特徴的だった。今でも、あの美味しさを思い出す度に胸がたかぶる笑。それほど印象的なビールだった。

大好きなネパールのバラシンギビール

 このバラシンギビールとの出会いは、ネパールのポカラという街だった。
 ただ、よくある恋愛の馴れ初め話と同様に、初対面の印象は良くなかった。練習後のうす暗い夜、雑貨屋さんに机と椅子が数席ある商店に入って頼んだのがバラシンギビールだった。

 店のグラスが置いてある棚にネズミが駆け回りギョッとしていると、店主の女性はチッチと口を鳴らしてネズミを呼んで見せ、かわいいでしょ? とこちらに微笑んでみせた。
 店主に見えないようにグラスは持参したティッシュで拭いたけど、恐る恐る飲んだバラシンギビールのおいしさと店主の愛想の良さに拍子抜けし、なんかもうそこからは、ネズミかわいいねと笑い返せる余裕ができたことを覚えている。

 暑いアジア諸国で氷を入れて飲むビールも好きだし、海外でカウンターに付属しているタップから直接注がれるビールも好きだ。
 各地のブリュワリーに行けば何種類ものクラフトビールが楽しめるお店もあり、エールビール、ラガービール、黒ビールから白ビール、最近はピンク色をしたロゼビールもある。

 ただ、世界中で形や味は違えども、ビールの本質というものは変わらない。その土地の良さと風味を育み、人を楽しませ、共に囲む人間を仲間にするのだ。
 多様性のスポーツと言われるラグビーとよく似ているではないか。これこそ、ラグビーを愛する人達の多くがビールを好きな理由の一つかもしれない。

 さて、読者の皆様、日本でバラシンギビールを見かけたら教えてください。どうかお願いします笑。
 アジアの地で恋に落ちたビールとの再会を切に願い、今月のコラムとさせていただく。

2018年のロサンゼルス。トレーニング期間、横尾千里さんと共にローカルビールをいただく

【プロフィール】
中村知春/なかむら・ちはる
1988年4月25日生まれ。162センチ、64キロ。東京フェニックス→アルカス熊谷→ナナイロプリズム福岡。法大時代まではバスケットボール選手。電通東日本勤務。ナナイロプリズム福岡では選手兼GMを務める。リオ五輪(2016年)出場時は主将。女子セブンズ日本代表68キャップ。女子15人制日本代表キャップ4

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