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フランス代表、物議を醸す2人の復帰。
シックスネーションズへ向けて調整するLOユーゴ・オラドゥ(左)とFLオスカー・ジェグー。(Getty Images)

フランス代表、物議を醸す2人の復帰。

福本美由紀

 今夜(1月31日/日本時間2月1日、午前5時15分)、スタッド・ド・フランスのピッチの上で、LOユーゴ・オラドゥとFLオスカー・ジェグー(共に21歳)は雄鶏のエンブレムを胸に「ラ・マルセイエーズ」を歌う。そして、ウェールズを相手に後半出場し、2度目の代表キャップを獲得することになるだろう。

 それは昨年7月6日、彼らがアルゼンチンで獲得した初の代表キャップから7か月足らず。そして、39歳の現地女性から集団暴行で訴えられることにつながった試合後の『第3ハーフ』と呼ばれる飲み会からも7か月足らずという短期間の出来事ということになる。

 逮捕、一時勾留、そして12月10日にアルゼンチン・メンドーサ検察庁から下された不起訴処分。彼らの弁護士アントワンヌ・ヴェイ氏は、「司法はユーゴ(オラドゥ)とオスカー(ジェグー)が虚偽の告発の被害者であったことを認めた。原告は嘘の供述で二人の若者の名誉を傷つけただけでなく、真の被害者をも傷つけた」と声明を出した。

 ウェールズ戦のメンバー発表会見で、「スタッド・ド・フランスの観客の反応が心配ではないのか?」と問われたファビアン・ガルチエ ヘッドコーチ(以下、HC)は、「その質問には半年間何度も答えてきた。今はシックスネーションズに向けたフランス代表のメンバー発表だ。チームのこと、ラグビーのことに集中したい」と苛立ちを露わにした。

 シックスネーションズの第1週目の代表合宿メンバーが発表それる直前のラジオ番組で、ガルチエHCは「彼らは無罪、よって選考対象になる」と主張。1月21日にローマで行われた大会プレスカンファレンスでも、「この件が物議を醸す可能性があることは理解している。我々の決定に全面的に責任を負う」と断言した。

 2人の代表復帰は、合宿メンバー発表時からSNS上やメディアで議論された。ウェールズ戦出場が公式に発表されると、さらに大きな反響を呼んだ。不起訴処分となったとはいえ、事件は人々の記憶に新しく、2月には控訴審も予定されている。「不起訴なのだから無罪。法的に問題はない」というのが賛成派の意見。「法的に問題がなくてもモラルの上でどうなのか? LOにしても、FLにしても、他にも(代表の座に)匹敵する選手はいる。なぜそんなに急ぐのか?」というのが反対派の意見だ。

 フランス、ボルドーを拠点とする地方紙の『シュッド・ウエスト』は女子ラグビー界の声を伝えている。

 2011年から2014年、そして2016年から2022年まで女子15人制フランス代表のHCを務めたアニック・エイローは「この問題を二つに分けて考えている。もしスポーツ面でファビアン(ガルチエHC)がベストなチームを編成するために2人が必要だと考えていて、それが待てない状況ならば、代表に呼び戻すのは当然でしょう。彼はフランス代表を勝たせるためにそこにいるのだから。しかし、広い視野で見ると、これは緊急の課題ではなかったかもしれない。この出来事を通じてラグビーが社会に与えたイメージは良いものではなかったから」とコメント。

 フランス代表78キャップ、2010年-2020年の世界最優秀選手に選ばれ、2023年の女子シックスネーションズで代表引退したジェシー・トレムリエールは「彼らの遠征での振る舞いは、フランス代表のジャージーを着る者として考えられない」と言い切る。
「女子選手たちは、ラグビーの良いイメージを伝え、自分たちの居場所を確保するために日々戦っている。それなのに、こんなことが起こるなんて。彼らは若く、過ちは誰にでもある。大切なのは学ぶことだが、復帰が6か月後というのは少し安易過ぎる。彼らを永久に代表から外すべきだとは言わないが、少なくともある程度の期間はそうすべきだったのでは」と続けている。

 女子フランス代表のもう一人の重鎮、レナイグ・コルソン(35キャップ)もタイミングの問題を指摘した。「6か月で復帰させることで若手を含むラグビー界全体に悪いメッセージを送る。彼らは優れた選手だから過去のことは忘れ去られ、結局ピッチ外での行動はどうでもいいことになる。この事件はある種の混乱を生み出した。彼らのキャリアはこれからで、まだ多くの試練を超えていかなければならない。少し苦労を経験した方が良かったのでは」と。

問題を起こしたアルゼンチン戦。左がFLオスカー・ジェグー。右がLOユーゴ・オラドゥ。Getty Images


 現役女子代表HOアガタ・ソシャは、男子ラグビー界の度を越した『第3ハーフ』がラグビーに与えたイメージをとても残念に思うとした。「私たちは経済的にもメディア的にも彼らと同等の環境にいないが、誰もが自分たちの行動がラグビーのイメージにつながるという責任を感じている。ラグビーのイメージに関することは良いことも、良くないことも私たちにも影響を与える。私たちはグループ内の規律に注意を払っていて、介入が必要な行動があれば、互いに言い合っている」と代表キャップ52のフロントローは言う。

 アニック・エイローが「女子選手たちはすべてを一晩で台無しにするには、あまりにも多すぎる犠牲を払っているのです」と付け加える。

 一方、『レキップ』紙は、弁護士、哲学者、心理学者にインタビューを行い、それぞれの観点から意見を求めた。

 弁護士として、性差別的および性的暴力事件に直面しているカミーユ・マルティニ氏は「厳密に司法的な観点からは、活動再開、選出を妨げる障害はない。彼らはフランスに戻ることを許可されており、特別な制約もない」と述べた。

 また、多くのスポーツ選手を担当している精神分析医で、『ジダンの頭の中(原題:Dans la tête de Zidane)』の著者でもあるサビーヌ・カレガリ氏は「この議論の複雑さは複数の側面にある。法的な観点からは、司法が起訴を放棄した以上、民衆が裁判所の役割を果たす権利があるのでしょうか? 残るのは象徴的な側面、つまりスポーツが模範的な価値観を体現することが期待される側面です。『同一視の領域』に入るのです。私たちはスポーツ選手を『理想の自分』として位置付け、彼らに、私たちがなりたい、あるいは達成したいものを投影する。司法はすべてを判断するわけではありません。法的に無罪であることと、模範的であることは異なります。通りすがりの女性と二人でホテルの部屋にいるという行為は模範的とは言えない」と分析する。

 グルノーブル大学の倫理学・政治哲学教授で、ラグビー経験者のティエリー・メニシエ氏は、「倫理的な観点からは彼らの選出を正当化するものは何もない。彼らが背負っているジャージーに相応しい模範を示さなかった。この事件において暴行があったかどうかに関わらず、女性に対して何らかの不適切な行為があった。代表HC、協会会長にとって、これは問題になるはず。法だけを拠り所にするのは不十分だ」という意見だ。

 マルティニ弁護士は「フランス協会は公共サービス委託を受けており、その立場上、司法手続きの尊重に配慮すべきだ」と指摘。オラドゥとジェグーの事件は、2月10日と11日の控訴審の結果が出るまで未確定な状態だ。「訴追は、尋問、召喚、公判、そして有罪判決へと続く可能性もある。この選出はアルゼンチン司法と原告に対し、『我々はこの司法プロセスの成り行きを気にしていない』というメッセージを送ることになる」と警告する。

 この事件と同じ夜に人種差別的な発言をしたFBメルヴィン・ジャミネは34週間の出場停止処分を受け、「代表復帰はない」と道を閉ざされた一方で、ジェグーとオラドゥに対してフランス協会は何の懲戒手続きもせず、12月に言い渡された不起訴処分で彼らをフランス代表に復帰させるのに十分であると判断した。

「ジェグーとオラドゥは深夜に外出し、ルールを守らなかった。彼らはアルゼンチンで刑務所にも入った。起訴内容が有罪になるのか無罪になるのかは司法が判断すること。遠征中に明け方まで外出していたことに対する罰なら、彼らがアルゼンチンで経験したことを思えば十分だろう。

 しかし、ジャミネはそれを経験していない。また彼の場合は、その場で人種差別だと誰の目にも明らかで、SNSで世界中に拡散された。我々はルールに則って協会の独立機関の規律委員会に報告し、検察局にも報告した。公共サービス委託を受けており、公務員と同様に情報公開義務を負うからだ。

 また、あの夜外出していたのは彼らだけではない。栄養管理、データ分析、選手一人ひとりに合わせた水分補給を行っているのに、遠征中の選手たちが朝5時まで飲酒することを容認できない。これらのルールを強化する必要がある」とは、昨年9月にジェグーとオラドゥがフランスに帰国を許された頃に公開されたフロリアン・グリル会長の言葉だ。

 そこで講じられた措置が、「代表招集期間のアルコール摂取はスタッフが定めた厳格な条件下でのみ許可される。部外者は、(…)フランス代表チームの宿泊施設内で、ホール/ロビーやバー・レストランなどの共有スペースでのみ受け入れることができる」と記された誓約書を作成してルールを明文化し、選手もスタッフもそれに署名することを義務付け、違反した場合はグループから一時的、または永久に離脱、さらに罰金も科すというものだ。

 スポーツ経済学を専門とするリオネル・マルテーズは「この2人の選出はリスクがあるが、フランスラグビー協会ほどの大規模な組織なら適切なアドバイスを受け、リスクを理解しながらも何らかの意図を持って行っているはず。幹部、コーチ、マネージャーが決定において透明性があり、自信を持っているならば、そしてスポーツ面でのパフォーマンスが伴えば、このことでフランス代表の評判を損なうことはないだろう」と見解を示す。

 ガルチエHCは、パフォーマンスを2人の選考理由としている。「彼(ガルチエHC)はより広い視野で考えている。意思決定の役割を担い、重い責任を背負って決断を下す人々の正当性を認めなければならない。代表監督は最終決定権を持っており、それはサッカーフランス代表のディディエ・デシャンが長年カリム・ベンゼマを代表から外していたのと同じ。全員が同じ意見を持っているわけではなく、ケースバイケースですべてを考慮することで、二者択一的な考え方を避け、人間性を保つことができるのです」とカレガリ氏は言う。

 しかしながら、メニシエ氏は2人の代表復帰は「謎」だと言う。「理解できない性急さがある。控訴審が進行中で、社会は悪化しており、スポーツが模範を示すことが重要となっている。性的暴行や性差別的暴力はあらゆる場所で起こっている。ラグビーはメッセージを送ることができたはずなのに、そうではなく、自分たちを守っているように感じる」

 様々な意見が飛び交っている。選手自身にとっても、今このタイミングでの復帰が最善だったのだろうか?
 今夜、スタッド・ド・フランスの観客はジェグーとオラドゥをどのように迎えるのか、多くの人が注目している。


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