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オリジナルハカ『弘前タンガッタ』完成。弘前サクラオーバルズから発信、市民のものへ
岩木山神社での奉納式でもオリジナルハカが披露された。(撮影/松本かおり)

オリジナルハカ『弘前タンガッタ』完成。弘前サクラオーバルズから発信、市民のものへ

ジャスラグ編集部

 約60秒。力強いマオリ語。床を踏み鳴らし、肉体を打ちつける強さ。岩木山神社の拝殿に魂のこもった音が響いた。

 言霊が届いたのだろう。見つめていた宮司の目から光るものが流れた。
 ニュージーランドから青森・弘前を訪れたカール・ポキノ氏が1月14日、霊峰・岩木山にある同神社を訪ねた。『弘前ハカ』を奉納した。

 同ハカはもともと、トップに女子チームを持つ『弘前サクラオーバルズ』(以下、オーバルズ)とラグビーをより広く知ってもらうために、オリジナルのハカ作成を頭に描いていたのがきっかけだった。

 2023年のワールドカップ時、弘前サクラオーバルズが開催したパブリックビューイングにポキノさんも参加。その際にオーバルズの安東元吉理事長が胸の中にあった思いを吐露。それに応えて今回に至った。

 ポキノさんは、オークランド近郊のマオリ居住地に暮らしている。
 州代表選手としても活躍したラグビーマンで、いまもオークランドラグビー協会のデベロップメントカテゴリーのコーチを務めている。

 また、現在オーバルズを指導しているリンダ・イトゥヌ ヘッドコーチは、女子ニュージーランド代表の選手として長く活躍し、ワールドカップに4度出場し、3度優勝した実績を持つ人だ。
 同セブンズ代表としてもプレーし、ワールドカップでの優勝経験もある(2013年)。オーバルズはニュージーランドとの縁も深い。

弘前市役所表敬訪問時の写真、左上から時計回りに。右が櫻田宏市長で、続いて右からオーバルズの安東元吉理事長、リンダHC、女子トップチームの片岡瑞帆キャプテン。市役所でも弘前ハカを披露したカール・ポキノさん(右)とローレン・タニファさん。オーバルズのリンダHC。市長をはさんでポキノさん(右)とローレンさん。(撮影/松本かおり)


 ポキノさんは、正式にハカを作ることができる権利を持っている、数少ない人物のひとり。2019年に日本で開催された柏ハカの作者でもある。
 あの時も自分が柏の人たちから受けた歓迎に感銘を受けて、のちに世界に広く発信されるオリジナルのハカを作った。

 心で動く人は、今回もクラブの熱意にほだされ、マオリ語の歌詞に魂を込めた。弘前ハカは族長の承認を得て作られたものだ。

 オーバルズ、ラグビーを発信源に、当初の枠を超えて、「弘前市民のものにしよう」と位置付けられたハカは、『Hirosaki Tangata』(弘前タンガッタ)と名付けられた。
 タンガッタは人々という意味で、市民をイメージしている。

 歌詞には「弘前」、「弘前人リスペクト」、「どこから力を得るのか。岩木山、岩木山からだ」、「弘前にすべてを捧げるんだ」、「大地から空まで弘前に捧げる」と、同地への思いが込められている。
 安東理事長ら地元の人たちの熱意を事前に聞き、熱を言葉にした。

 1月14日には弘前市役所を表敬訪問し、弘前高校在学時にラグビー部で楕円球を追っていた櫻田宏市長に弘前ハカの完成を報告した。
 ポキノさんが「岩木山の雄大な姿に感銘を受けました。とてもスピリチュアル」と話すと、市長も笑顔に。
 当日は、ポキノさんの親戚で、女性用舞踊講師も務めるローレン・タニファさんも同席し、市役所内で実際にパフォーマンスを演じた。

 迫力ある弘前ハカを目の前で見た櫻田市長は感激した様子で、「日本で2番目のオリジナルハカで、女性バージョンもある。そちらは日本で最初ということで本当に光栄なこと」と話した。
「弘前は、女子ラグビーの聖地化を目指しています。それに向けた大きなはずみになると思います」

岩木山神社での奉納式。(撮影/松本かおり)


 市役所訪問を終えた後は、冒頭にあるように岩木山神社へ向かった。弘前市民は、誰もが津軽富士と呼ばれるこの山を愛している。誇りにしている。
 その姿がきれいに見える日は「きょうはいい日になる」と、みんなの心の中に花を咲かす存在だ。

 人々からの厚い信仰を集める山にある同神社での奉納式は、弘前の地の神々に敬意を表すと同時に、地域との関係を深くするために祈る儀式。厳かな空気の中で式は進み、最後にポキノさん、ローレンさんの実演で締めくくられた。

 儀式を終えたポキノさんは、スピリチュアルな場所で「とても感情的になりました」と話した。
「弘前の人たちは岩木山からパワーをもらっていると思います。私も同じパワーを受けてこのハカを作ったし、演じました」

 そして続けた。
「いま奉納した時点で、このハカは弘前市民みなさんのものです。まず、これに込められた意味を理解してほしい。気持ちを束ね、一緒になって戦っていく。その精神をいつも持っていて欲しいですね」

 弘前の人たちに、いろんなシチュエーションで、このハカで心をひとつにしてほしいと願う。
 込められたオリジナルの意味を理解した上で、これから先は、自分たちなりの理解で根付かせていってほしい。

 翌15日には、発信源となるオーバルズのトップである女子チームのメンバーや、練習に参加した子どもたちに、ポキノさん自ら言葉と動きのレクチャーをおこなった。

オーバルズでのレクチャー時の写真、左上から時計回りに。女子トップチームの選手たち。ポキノさん(左)とコーディネーターの岸本泰さんの動きに合わせて動く子どもたち。手で筒を作り、おでこに付けるのが、弘前を表す動き。マオリ語の歌詞を大声で叫んだ。(撮影/松本かおり)


 最初は戸惑っていた選手や子どもたちは、時間が経つにつれ、動きも声も大きくなっていった。
 そして、やがて引き込まれた。何度もマオリの言葉とその意味を繰り返しているうちに、それが自分たちのものになっていく感覚になったのかもしれない。

 ポキノさんは何度も言った。
「このハカは、もうあなたたちのものです。どうやってやればいいかとか、私に聞く必要はありません。自分たちの理解のもと動き、声を出し、周囲にも伝えていってください」

 指導を受けたU15チーム所属の中学1年生の國分塔子さんは、「弘前とニュージーランドのつながりが深まったような気がしました。そして、弘前のために作ってくれたことが嬉しいですね」と話した。
 ハカを目の前で見たのは初めてだった。
「すごい迫力でした。実際にやってみると気持ちが高まりました。試合の前にやると気合が入りそうです」

 オーバルズはこの弘前ハカを、2月2日に弘前市運動公園多目的広場で開催される『第59回津軽雪上ラグビー大会』で、初めて披露する予定だ。
 また、市内の小学校に出向いておこなっているタグラグビー出前授業の場で子どもたちに広めていくことも考えている。

 ハカ。タンガッタ。
 その言葉を聞くと、多くの人が反応して体を動かす土地になっていったら人々のつながりは深まる。
 自分たちのカルチャーを大切に、そして、他者のそれにもリスペクトを忘れない街へ。
 その中心にラグビーがあると、なおいい。

レクチャーを終えたオーバルズの女子トップチームの選手たちと。(撮影/松本かおり)


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