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【Just TALK】「誰よりも早稲田が好き」。宮尾昌典[早大4年/SH]
2002年6月1日生まれ。京都成章高校出身。165センチ、67キロ。(撮影/松本かおり)

【Just TALK】「誰よりも早稲田が好き」。宮尾昌典[早大4年/SH]

向 風見也

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 東京・秩父宮ラグビー場での大学選手権決勝(1月13日)を前に、早大ラグビー部の宮尾昌典副将が思いを語っていた。苦しい時間があったとしつつ、こう強調していた。

「早大に入るということは、レベルの高い、すごい組織に入るということだと思って…」

 ラストイヤーは苦労した。一時期、周囲とのコミュニケーションをきっかけにモチベーションを失いかけた。

 11月3日の帝京大戦(関東大学対抗戦A/秩父宮/〇48-17)のタイミングで、控え組から1軍に復帰。ただし当初は、スタッフへ出場辞退を打診したという。レギュラーのための赤黒ジャージィは、本気で着たい人間が着るべきだと思ったからだ。

 最終的にはゲームメンバーのひとりとして、加盟する対抗戦の終盤戦、選手権に挑むことにした。

 さばきが速くパスのうまいスクラムハーフとして1年時から主力となっていて、卒業後はリーグワンの強豪クラブへ進む実力者だ。大田尾竜彦監督からは「宮尾の力が必要」と信頼されていた。

 自身も次のステージを見据え、実戦感覚を磨きたかった。何よりこの人は、簡単に消えないチーム愛を築き上げていた。

 京都成章高から入学後の約3年間について、こう述べた。

大学4年時は関東大学対抗戦4試合、全国大学選手権3試合に出場し、すべて途中出場だった。(撮影/松本かおり)


——「早大に入るということは、すごい組織に入るということ」。いつ、そう感じましたか。

「比較するのはよくないですけど、一般の方とは違う見られ方をする。1年生から試合に出させていただくことで、休みの日に街に出たら『宮尾君ですよね?』と僕のことを知ってくれている人が思ったよりもいた。『ほんまに、こういうのがあるんや』と。早稲田という組織の大きさと、早稲田で試合に出ることでのネームバリューの広がりは、4年間、常に感じています。

 支えてくれる方がいてこその大きな組織だと思っています。試合の日に、(グラウンドの)外でグッズを売っている人がいる。その裏にはものを作る人がいるし、そのデザインを考えて発注する人もいる。

 主務の小野(史裕)も言っていました。いろんな人に早稲田の名前を出して何かをしてもらうよう手配をしていると。それに対して(競技で)頑張る…。社会と学生ラグビーが繋がっている。OBの方、マネージャー、主務、副務がいてくれているから、こんな大きな組織になるんだろうなと。

『どうやったら、それができるん?』みたいなこともあります。例えば試合前日、選手の誰かが『明日、全員に水が1本ずつあったほうがよくない?』と言ったら、(スタッフは)他にもやることがいっぱいあるのに、当日には(ロッカールームの)皆のところに水が1本ずつ置かれている…とか。『こんなにしてもらってええんか?』とも思います。

 あと、僕が早稲田で一番いいなと思っているところは、有名選手ばかりじゃないことです。

 今年は割とタレントが多いですけど、早稲田実業などの内部生もいる。向こう(帝京大などのライバル)はほぼ全員が『高校日本代表でした』みたいな感じですけど、『こっちは内部生、出とんぞ!』みたいな。他にも浪人生など、バックグラウンドの違う子らがひとつになってあの(赤黒)ジャージィを着て、80分間、頑張るというのが、早稲田のいいところだなとずっと思っていた。早大でラグビーをしていて、普通に楽しいです」

——将来についてはどんなビジョンを持っていますか。

 そう問われても強調したのは、早大への思いだった。

「環境が変わるじゃないですか。早稲田には留学生選手もいませんが、リーグワンに行くと、周りには色んな国の代表の凄い人もいる。自分が活躍できるチャンスは学生ラグビーよりも少ないと思うんです。そういう中で試合に出続けていくにはどうするかを考えていかないといけないし、頑張らないといけない。

 僕は、例えば早稲田に入ったら、4年間、早稲田のために頑張ろうと思えるタイプです。あまり表には出さないけど、誰よりも早稲田が好きだった自信があります。だからリーグワンでも、入ったチームのために頑張れたらいいかなという感じです」

 堂々としている。12月1日、東京・国立競技場での早明戦では、後半35分の途中出場の際にタッチラインの外でパフォーマンスをした。テレビカメラに目を向け、ピースマークを作った。

——その心は。

「あれ、2年生くらいからちょくちょくやっているんです。最近は——派手という言い方が合っているかわからないですけど——そういうことをするラグビー選手がいないじゃないですか。それは、あまり面白くないなぁと思う。あと、あれはコーチに『(事前に)僕、ピースします!』と言っているので。京産大戦(大学選手権準決勝/1月2日/国立/〇31―19)でも(部内では)『明日、何すんの?』とか、逆に『やれよ』とか。自分のキャラも関係しているんじゃないかと。(反応は)寛容な人もいるし、時代が変わったことに敏感になって厳しい人もいる。僕は、誰に何を言われようがどうでもいいです」

——決勝戦へ。

「(取材からそれほど時間が経たないうちに引退するという現実に)実感が、沸いていない。4年いるうちの2年は年越しできずに終わって、他の2年は決勝まで行っている。決勝まで来たら、80分、頑張れば、結果は出る。普通に『荒ぶる(第2部歌)』を歌ってみたいな…というの(思い)はあります」

思い描いていたような結末にはならなかった。次のステージへ。(撮影/松本かおり)


——5季ぶり17度目の頂点を狙います。

「手応え、あるんじゃないですかね、皆。僕もなめているわけでも、余裕ぶっこいているわけでもなく、チームでやってきたことに自信がある。

 早稲田のディフェンスって、めっちゃ、しんどいんですよ。ひとりでやるディフェンスじゃないので、誰かがサボればどこかに穴ができる。それを(ほころびが起きないよう)考えて、動いて、実行して…。早稲田は決してサイズが大きいわけではないですけど、運動量、組織力、身体の使い方がいい。

 全員が自信を持っているので、優勝、するんじゃないですかね」

——今回はありがとうございます。

「ありがとうございます。(決勝の当日は)やります。ピース以外の何か」

 1月13日の本番では、15-21と6点差を追う後半14分に登場。両手を上げ、フィールドに入った。持ち味を発揮も、15-33で準優勝に終わった。

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