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ヤングトゥールーズを見よ。
プロ3試合目のトゥールーズSOヴァランタン・デルピー。堂々とプレーした。(Getty Images)

ヤングトゥールーズを見よ。

福本美由紀

 トップ14の第14節、ラ・ロシェル×トゥールーズが2025年最初のプライムタイムに当てられた試合となった。ラ・ロシェルが昨年から少し勢いを欠いているといえ、やはり強豪対決のイメージがあるのだ。現地放送局のカナル・プリュスの番宣映像も両チームのキャプテン、グレゴリー・アルドリットvsアントワンヌ・デュポンだった。

 しかし、TV局の思惑は見事に裏切られた。
 アルドリットをはじめ、PRウイニ・アトニオ、FLポール・ブドゥアン、FBブリス・デュランと主力を連ねたラ・ロシェルに対し、トゥールーズには、デュポンもロマン・ンタマックも、トマ・ラモスもいない。ペアト・モヴァカもチボー・フラマンもいないのだ。

 トゥールーズは翌週のチャンピオンズカップで南アフリカのダーバンに渡ってシャークスと対戦する。主戦力をよりフレッシュな状態に保つため、彼らを休ませ若いチームでこの試合に臨んだ。

 4人がプロデビュー戦、2人がプロ2試合目、2人が3試合目。23人の平均年齢は22.4歳。先発15人の平均は21.6歳で、この日のゲームキャプテンを任されたベテランPRのシリル・バイユ(31歳)を入れなければ21歳になる。
 ちなみにバイユは昨季のトップ14準決勝(6月21日)で足首靱帯を断裂し、この試合が復帰戦だった。

 これまでにもチーム・ヤングトゥールーズがモンペリエ、クレルモン相手にアウェーで勝利するのを見てきたから驚きはしなかったが、今回はさらに若いのではないだろうか。
 齋藤直人もこの試合の2日前の会見に出席が予定されていたので、試合にも出場予定だったのだろうが、体調不良のため欠場となった。フランスでもインフルエンザが年末から猛威を振るっているが、そのせいだったのだろうか。前週はデュポンが体調不良で欠場していた。

 試合は、13分にトゥールーズゴール前でのラックから、この日プロ2試合目、初先発のSHシモン・ダローク(19歳)のキックがチャージされた。そのままトライエリアでラ・ロシェルのHOトル・ラトゥに押さえられて先制されるも、その後の密集からのキックでは、フェイントを入れて相手をかわして対応する落ち着きも見せた。

 他の選手もパワーを誇るラ・ロシェルに勝るとも劣らない力強いコンタクトを見せる。この日プロデビュー、初先発の187cm、88kgのCTBリュカ・ヴィニエールがボールを持ち、196cm、145kgのアトニオに激しくチャージに行き、アトニオに尻餅をつかせてしまう。
 カメラがベンチで目を丸くしながら笑っているアンジュ・カプオッゾをとらえた。

 ボールを持てば、スピーディーにどんどんパスを繋ぐ、これぞトゥールーズというプレーでラ・ロシェルを翻弄した。トライはなかなか取れなかったが、この試合でプロ3試合目のSOヴァランタン・デルピー(21歳)が確実にゴールキックを決め、点差を拡げさせない。50/22キックを決めるシーンもあった。

 ヤングトゥールーズは相手に臆することなく、自分たちのラグビーをした。考えてみれば、彼らは普段からデュポンやモヴァカたちと練習しているのだから、アルドリットやアトニオが前に立ちはだかろうと臆する理由はない。むしろ、追い詰められて自分たちのラグビーができなくなったのはラ・ロシェルの方だった。

 後半が始まってすぐに、トゥールーズゴール前、左タッチラインから15mでスクラムが繰り返された。
まずラ・ロシェルのボールで2度組み直す。バイユにリードされ、一昨年はU20世界チャンピオンで、昨年は準優勝のHOトマ・ラコンブル(20歳)と、オーストラリアから2020年にトゥールーズのエスポワールに入団したPRマラカイ・ホークス(22歳)が踏ん張る。3度目でトゥールーズがプレッシャーをかけてアルドリットのノックオン、ではなくノックフォワードを誘いトゥールーズボールになった。
 が、今度はラ・ロシェルがプレッシャーをかけてボールを死守するトゥールーズのNO.8シアレヴァイレア・トロフア(19歳)をトライゾーンに押し込んでドロップアウトにさせ、再びラ・ロシェルボールのスクラムとなった。

 5度目のスクラムにラ・ロシェルのSHタウェラ・カーバーローがボールを入れる。ボールがこぼれ、トライエリアに転がりデルピーが素早く反応して押さえたが、ホークスがコラプシングを取られ、アルドリットが再びスクラムを選んだ。
 どんどん緊張感が高まる。スタンドからの歓声も一段と大きくなる。6度目のスクラムから出たボールをカーバーローは右へ大きく展開した。ラックでトゥールーズがスティールに成功する。しかしレフリーがスクラムでのトゥールーズのペナルティを取り、7度目のスクラムとなった。

 そこでトゥールーズが1、2、3、7番を一斉に交代させた。
 スペイン代表でトゥールーズの3番に成長しつつあるPRジョエル・メルクラー(23歳)、プロ6試合目のPRバンジャマン・ベルトラン(21歳)、そしてHOジュリアン・マルシャン、FLアントニー・ジュロンが颯爽と入ってくる。さらにテンションが上がる。スクラムだけでこんなに熱く盛り上がるのに、なぜスクラムを減らそうとするのか。

 7度目のスクラムにカーバーローがボールを入れる。スクラムが崩れるも出てきたボールをカーバーローが今度はブラインドサイドにパスした。しかしボールが手につかずトゥールーズが奪う。デルピーが蹴り出し、敵陣への脱出に成功した。自陣ゴール前で踏ん張ること5分余り。守り切った!
 ラ・ロシェルのサポーターが静まり、逆に「トゥルーザン!トゥルーザン!」コールが聞こえてきた。

 その後のラインアウトから蹴り合いになり、こぼれたボールをなんとか繋ぎながらブドゥアンが走り込んでトライを決める。TMOで、タックルされた後にボールを離さず起き上がり、プレーを続けたことが確認されノートライになった。
 スタンドからブーイングが湧く。ラ・ロシェルのロナン・オガーラHCがタッチラインから選手を鼓舞するが、ラ・ロシェルの選手の顔から焦りと恐怖が感じられる。スコアは12-9から動かなかった。

スクラムハーフのポジションをカバーするアンジェ・カプオッツォ。(Getty Images)


 次のプレーでラ・ロシェルはペナルティを取られ、その次はダロークへの危険なチャージでラトゥがイエローカードになった。このプレーでラトゥは週明けにサイティング委員会に呼び出され、3週間出場停止となる。
 負傷したダロークに代わって入ったアンジェ・カプオッゾが積極的にボールを持ち、ラック際で脅威になる。キックも良い。トゥールーズのSHの良いオプションになっていた。

 62分、トゥールーズのトライライン前の密集でペナルティを得るや否や、カーバーローがトライゾーンに飛び込んでようやくラ・ロシェルが得点を追加した。ラ・ロシェルサポーターから再び歓声が起こる。喜びよりもホッとした表情だ。
 SOアントワンヌ・アストイがコンバージョンを決めてスコアを19-9とした。

 70分、敵ゴール前でペナルティを得たトゥールーズがラインアウトモールからトライを決めた。ラ・ロシェルサポーターからまたもや大きなブーイング。そんな中、難しい角度からコンバージョンを成功させて19-16と再び3点差に詰め寄った。

 さらに6分後、オリンピック金メダリストのネルソン・エペがランとキックで敵陣深く攻め込む。ポイントを作りながら少しずつ中央に寄る。この日ゴールキック100パーセント成功のデルピーが今度はDGを決めて19-19と同点とした。
 この試合のヒーローは決まりだ。両手を突き上げ、ガッツポーズをするトゥールーズベンチから笑みが溢れる。ラ・ロシェルサポーターは再び静まり、「トゥルーザン」コールがスタジアムに響いた。

 この試合はラ・ロシェルがホームで満員御礼を100試合連続で到達した記念となる試合で、試合前にダンサーと花火、ライティングによるショーが華々しく披露された。このおめでたい日に引き分けでは許されない。勝たなければならない。ラ・ロシェルの猛攻が始まる。サポーターも再び大声援を送る。トゥールーズも必死で守る。ホーンが鳴る。

「ノーボールタックル」とレフリーの声が聞こえ、アドバンテージの手が上がる。ラ・ロシェルのノックフォワードで試合の行方はキッカーのアストイに委ねられた。ボールはポールの間を通過し、22-19でラ・ロシェルがなんとか勝利した。
 トゥールーズは敗れたが、ディフェンディングボーナスを獲得した。

 ラ・ロシェルの選手はホッとした表情をしているが笑みはない。むしろトゥールーズの選手、スタッフの方が嬉しそうだ。

 FBブリス・デュランは、「自分たちのペナルティーにイライラして変なリズムに陥ってしまった。今夜の僕たちのラグビーに楽しさは感じられなかった。今夜のように負ける恐怖を感じながらプレーするのではなく、僕たちの強みであるディフェンスと自分たちのプレーのリズムを取り戻さなくてはならない」と中継局のマイクに答えた。

 ラ・ロシェルのロナン・オガーラHCに至っては、「負けたような気分だ」と記者会見で打ち明けた。
「何かを変えなければならない。選手たちよりも私に責任がある。一部の選手は、高い目標を設定されるとネガティブに捉えてしまい、プレッシャーに対応できず硬直してしまった。私への良い教訓になった。指導方法を少し変えなければならない。私は18歳から30歳まで、ナダルやフェデラーと言うよりむしろアウトサイダーだった。解決策を見つける自信はある。日曜日にレンスターがやって来る。良いウェイクアップコールになるかもしれない」と続けた。

 今週末、ラ・ロシェルは、アイルランドの強豪レンスターを迎え撃つ。
 相手には今季、南アフリカ代表LOのRG・スナイマン、さらに12月からはNZ代表CTBのジョーディー・バレットも加入し、「鬼に金棒×2」状態だ。ラ・ロシェルの選手が目覚めて本来の彼らの強さを取り戻さなければ厳しい結果になる。

 一方、トゥールーズのユーゴ・モラHCは円陣で、「このクラブに所属していることを、君たちと過ごしている毎日を誇りに思う。立派な試合だった。心から君たちを讃えたい」と選手に声をかけている。

 カプオッゾが中継局のインタビューに「今週、全員でシナリオを想定しながら練習してきた。臆することなく、キーになるポジションの選手がゲームをコントロールしていた。若い選手たちがどんどん追い上げてくるから、僕たちも常にベストを尽くして自分たちのポジションをしっかりと守らなきゃ」と答えたように、ヤングトゥールーズのプレーがチーム全体にさらにモチベーションを与えた。

 また、この日のキャプテンとして若い選手を率いたバイユは、「メディ・ナルジシと同世代の若い選手と一緒にプレーして、彼のご家族のことを強く思った」と、昨夏、フランスU18代表の南アフリカ遠征中に海で行方不明になった17歳の青年に思いを馳せた。ナルジシも9月からレスポワールに入る予定だった。

 この試合の翌日、シャークスと対戦するグループに選ばれた約30人の選手がスタッフと共にトゥールーズを発った。パリ、ヨハネスブルグを経由して、月曜日の夜にケープタウンに到着、そこで一泊した。翌日、ディアスビーチに赴き黙祷を捧げるためだ。
 クラブからは公式に報じることもせず、ただ内輪だけでこの巡礼を共有した後、火曜日の夜にダーバンに到着した。


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