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復帰に「血が沸き立った」稲垣啓太、ワイルドナイツの文化を淡々と話す。
「これほどいい瞬間を他に知らない」。あらためて試合に出続ける欲求が高まった。(撮影/松本かおり)
2024.12.23
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復帰に「血が沸き立った」稲垣啓太、ワイルドナイツの文化を淡々と話す。

田村一博

 最前列の哲学者がピッチに戻った。
 埼玉パナソニックワイルドナイツのプロップ、稲垣啓太がリーグワン2024-25の開幕戦、東京サントリーサンゴリアス戦(12月21日)に出場。1番のジャージーを着て、後半7分までピッチに立った。

 リーグワンでは昨季の第5節、三菱重工相模原ダイナボアーズ戦(2024年1月13日)以来の出場。久々のプレーに、試合を終えた本人は「11か月ぶりです」と呟き、33-12と快勝した試合を振り返って、「全部うまくいったわけでもない。後半、苦しい時間帯も多かった」とした。

 2023年のワールドカップにも出場し、日本代表キャップ53。トップリーグ時代の2013-14シーズンから昨季まで、通算113試合に出場したタフガイは、2024年2月4日におこなわれたクロスボーダーマッチ、チーフス戦(スーパーラグビー)の途中に交代した後、戦列から離れた。
 手術を経てリハビリ。11月30日のプレシーズンマッチ、ダイナボアーズ戦から復帰していた。

 経験豊富なプロップは、11か月ぶりの公式戦が始まる時の感情について、「血が沸き立つような瞬間が自分の中にあることを実感できた」と話した。
 フィールドに立つ感覚の素晴らしさをあらためて感じた。「これほどいい瞬間を他に知らない」と吐露した。
 あらためてピッチに立ち続けたい思いが強まった。

コミュニケーションを取りながら前に出て守った。「接点で前に出られないことが重要でした」(撮影/松本かおり)


 34歳。年長者の役割を考える年齢になった。「それぞれで違うとは思うが」と前置きして、自分の考えを「まず自分のプレーをすること」とした。
「プラス、自分たちの(チームの)文化やメンタリティを伝えるのは、我々にしかできません」と話し、途絶えさせてはいけないものがあると話した。
「それはワイルドナイツでも(日本)代表でも同じ。伝えられるべき人間が伝えないと」

 例えばワイルドナイツなら、コミュニケーションの重要性。情報量が多ければいいというものではない。「しゃべるべき時に、しゃべるべき人が必要なことを言う」ことが重要だ。

「余計なことはしゃべらない」という稲垣はこの日の試合前、「一発目は絶対頭からいけ」とだけ言ったという。
「タフな試合になるのは分かっていたので」

 後半20分からの勝負になると考えていた。
 実際、先手を取り続ける展開に持ち込めてはいたけれど、「力の差は(点差ほど)なく、判断、メンタリティの部分で少し上回れたのかな」とする。

 この日、ワイルドナイツのディフェンスは統制が取れていた。サンゴリアスがアタックを重ねるたびに後退させた。
 個々のコリジョンの強さだけでなく、綻びを作らぬつながりを感じさせた。

 シーズン開幕直前の宮崎合宿は、ミーティングの時間が多くとられた。自分たちがどう守るのか。そのディテールの確認がおこなわれた。
「細かいところは控えますが、その細かいところを確認しあった」結果が強固なディフェンスの原点にある。

 ワイルドナイツの、オフフィールドでの意思統一のプロセスが独特だ。
 ミーティングはいくつかのチームに分け、ディベート形式。それを各チームで「誰に仕切らせるか、誰が仕切るべきなのか」が大事。「試合中のハドルと同じ」と考えるからだ。

「仕切らないといけない人間が誰なのかを合宿で確認できた」ことが大きかった。
 ハドルを組んでも、「誰がしゃべるの?」ではいけない。それは、改善点が分かっていない。「誰か仕切ってよ」でもダメ。宮崎での時間を経て、そういうことがなくなった。

 ハドルを組んだ時にしゃべるべき人は「ダイレクターと言われる人間。10番、15番、ディフェンス担当(のリーダー)、FWから一人」が理想。ただ、任せ切りになってもいけない。一人ひとりが当事者意識を持ち、明確にされている自分の役割をまっとうする。

 サンゴリアス戦は、ディテールにこだわってプレーを遂行できたから自分たちの流れに持ち込めた。
「まずFWがコンタクトエリアで負けないことが大事でした。特にサンゴリアス相手だと、一度ブレイクダウンで前に出られるとテンポを上げられる。最初に抑えることが肝心でした。それがうまくいきました」

試合後、サンゴリアスの小野晃征ヘッドコーチと。(撮影/松本かおり)


 哲学者のように淡々と、自分たちのパフォーマンスを振り返るベテラン。その言葉を聞くと、試合の様相が見えてくる。
「ワイルドナイツの文化の根底にあるのはディフェンス」の言葉にも説得力があった。

 自身のプレーについては、「(長く実戦から離れていたことにより)何かひとつ自分の中で失われているとしたら、試合勘かなと思っていた」が、それも杞憂に終わったという。
「よくよく考えたら、試合の中での自分の役割、やるべきこと、そのエリアは決まっている。それを機械的にやり続けるだけでした」。

 対戦相手もファンも、その先にある個々の判断や個性にワイルドナイツの凄み、深みを見ているが、当事者たちの土台の確かさへのプライドは揺るがない。


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