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【Just TALK】琴線に触れる強いチームになりましたか。「そりゃそうでしょ」。沢木敬介[横浜キヤノンイーグルス監督]
シーズンを重ねるごとにチームの力を伸ばしている。(撮影/向 風見也)
2024.12.20
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【Just TALK】琴線に触れる強いチームになりましたか。「そりゃそうでしょ」。沢木敬介[横浜キヤノンイーグルス監督]

向 風見也

 ディフェンディングチャンピオンに挑む。

 ジャパンラグビーリーグワンで2季連続4強入りの横浜キヤノンイーグルスは12月22日、新シーズンの初戦を本拠地の神奈川・日産スタジアムで迎える。相手は東京ブレイブルーパス東京。前年度王者だ。
 
 両軍の出場メンバーは20日に発表された。イーグルスで司令塔のスタンドオフに入るのは前主将の田村優。プレシーズンマッチで先発し続けた新人の武藤ゆらぎ選手は、ベンチ外となった。

 注目のオープニングマッチを間近に控えるさなか、就任5シーズン目の沢木敬介監督が都内の練習場脇のスタンドで話した。

——今季もよろしくお願いします。

「はい、どうも」

——開幕直前。準備のほどはいかがですか。

「まぁ、普通じゃない? まだ、わかんないよね。開幕してみないとわかんないからね」

——トレーニングでは、レフリー資格を持つ道添文土広報のもとキックチェイスに関する新しいルールをつぶさに確認していました。

「今年だったら、キックオフサイドのところはレフリーも敏感に吹くだろうし、そういうところへの見せ方をうまくしていかないと、全部、後手を踏んじゃうから。勝てるチームは、そこもちゃんと準備できる。多分、それを言わなくてもできる選手っているのよ、経験があるとかで。でも、うちはまだそういうレベルではない。練習でひとつひとつ潰していかなきゃいけない。選手同士で厳しく言い合えればいいんじゃない?」

——スタンドオフの選考については。

「総合的評価だよね。シーズンは長いし、ゆらぎにも絶対に出番はある。ただ、現時点では『優に勝たなきゃいけない』と思わなきゃいけない。こういう(メンバーから外れた)悔しさで、また、伸びるんじゃない? …競い合う文化がないチームはね、すぐに衰退するよ」

——沢木監督は、サンゴリアスを率いていた2018年に現イーグルス主将の梶村祐介選手ら3名のルーキーを主戦級に抜擢しました。ルーキーにたくさんのチャンスを与えるか否かについて、基準はありますか。

「それは、もちろんある。…あとは、ゆらぎも、優よりも相当にいいというところを出しておかないと、試合には出られない。同じグラウンドに立っている選手の信頼も然り」

——ルーキーを起用するうえでは、その人の能力はもちろん、ポジションを争う先輩プレーヤーとの力関係も考慮する。

「そりゃ、そうだよ」

日本代表FWがイーグルスのグラウンドを訪れた時の沢木監督。(撮影/松本かおり)


 指導者歴18年目。独創的なアタックの構築とハードワークする習慣の落とし込みに定評がある。鋭い視点とデータ分析に基づく評論活動でも知られる。

 11月25日配信の日刊スポーツ電子版記事では、日本代表についても提言。日本代表は現地時間同月24日、イングランド代表に14-59で敗れている。

 現在のジャパンでは前年度までの主力組の多くが怪我などで辞退しているなか、あえて沢木は発した。

『“キャップの安売り”はしてほしくない。代表は日本の選手全員が「そこでプレーしたい」と目指し、憧れる場所であってほしい。テストマッチは国を代表して戦う。国際レベルで通用する選手かどうかは、日本ラグビー界の課題になっている国際レベルの選手育成を目指した環境面の整備を含め、テストマッチの前段階で見極めていくべきだ。「試した結果、負けてもいい」という感覚でやる試合ではない』

 その真意について聞かれると…。

「あれは、俺がエディーから教わったことだから」 

 2015年のワールドカップイングランド大会で歴史的3勝を挙げた日本代表で、沢木はエディー・ジョーンズ現ヘッドコーチのもとコーチングコーディネーターを務めていた。

 今年約9年ぶりに復職したジョーンズの第二次政権に触れ、当時の知見が蘇った格好だ。

——かつて、直接そう教わったというより、普段の会話の中で学び取ったという表現が近いですか。

「そう。最初にジャパンをやった時にそういう『基準』があったことに、俺は、共感を受けた。だから、それを言っただけ」

——当時は力に差があると見られるアジア諸国との試合でも、なるたけベストに近い陣容を整えていました。

「だから、ジャパンのステータスって、そんな簡単なものじゃないと思ったし。そりゃ、いまは中にいないから、(選考の)基準も、チーム事情もわからず、ただ見ている感覚で言っただけだけど」

 今年の日本代表はテストマッチの戦績を4勝7敗としている。少なくないファンは、沢木の次期代表ヘッドコーチ待望論を唱える。もっとも当の本人は、その件への言及を避ける。プロコーチだからだ。

——いま率いているクラブは、史上初の優勝を目指しています。それを前提に、どんなシーズンを送りたいと考えますか。

「優勝したい、というのしかないね。タイトルを獲りたい。ここにいる皆とタイトルを獲りたい」

——手応えは。

「だから、こればっかりはね、始まってみないとわからない。シーズン、長いしね」

——「ここにいる皆と」。これはコーチとして勝ちたい思いとは別の感情があるのですか。

「いや、別にない」

——そうなのですか。ここ4年で、人の感情を揺さぶる強いチームになったと映りますが。

「そりゃそうでしょ。だって、(就任前の2018年度、旧トップリーグでは) 12 位だぜ?」

 就任初年度にトップリーグ8強入りを果たし、3シーズン目にあたる一昨季に史上最高の3位をマーク。その歩みの壮大さを簡潔な言葉にまとめ、笑顔でその場を去った。


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