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トップイースト2024シーズンはAZ-COM丸和MOMOTARO’Sが優勝
スタンドのファンと共に優勝に歓喜する丸和の選手たち。(撮影/山形美弥子)

トップイースト2024シーズンはAZ-COM丸和MOMOTARO’Sが優勝

鈴木正義

 去る12月7日、社会人リーグトップイーストの2024年シーズンが終了した。
 9月からスタートして12月でレギュラーシーズンを終える日程は、丁度人気の大学ラグビーと日程が重なっているが、こちらも負けずに熱い戦いが繰り広げられている。
 主催する関東ラグビー協会でもハッシュタグ「#トップイーストもいいぞ」というSNSキャンペーンを展開するなど、認知向上に務めている。

 最上位のAグループはここまで東京ガスが7戦全勝で勝ち点34、一方のAZ-COM丸和MOMOTARO’Sが6勝1敗、勝ち点31で2位。12月7日の両チームの対戦は、優勝決定戦という大事な試合となった。
 その試合、結果を見届けようと、会場の秩父宮ラグビー場には4500人以上の観客が詰めかけ、熱気につつまれた。

スタンドにはトップイースト優勝決定を見届けに4584人の観客が集まった。(撮影/鈴木正義)


 注目はやはり丸和。昨シーズンBグループから昇格を果たした勢いのあるチームで、さらにいうと2021年シーズンまではCグループでプレーしていたチームだ。その躍進ぶりは母体企業となる丸和運輸機関のサポートもさることながら、チーム関係者の努力と熱意があったことは想像に難くない。
 例えば会場に設置されたチームテントにはスポンサー企業のロゴが多数掲出されている。グラウンド外でのチームのマーケティング活動で競技力アップを支えていることが、この点だけみても伺える。

 一方の東京ガスはAグループ上位の常連組。今シーズンからリーグワンでプレーする狭山セコムラガッツ、ヤクルトレビンズ戸田と昨シーズンまで互角の戦いをしてきたチームだ。
 昨シーズンのリーグワン加盟チーム募集には手を挙げなかったものの、ちょっと煽った言い方をお許しいただくと「リーグワン相当の実力者」ということだ。

 キックオフ前、ラグビースクールに通う子どもたちなどのナレーションで選手紹介が行われた。かわいらしい声に秩父宮の空気が少しなごむ。この試合は各チームにゆかりのあるスクールの子どもがグラウンドに招待され、ハイタッチで入場する選手に声援を送った。
 競技関係人口を増やす意味でも観客サービスでも、こうした取り組みはもっと広がることを期待したい。

 さて試合の方を見てゆこう。
 流石にトップイースト1位、2位の試合ともなると見応えがある。互いに陣地の奪い合いをするも高い規律、ミスのないプレーで簡単にはディフェンスを突破させない。

 12分、東京ガスFBの千葉真之亮(東海大)がこの試合最初のトライ。今シーズン途中からスタメンを獲得した新星だ。
「入社3年目を迎え、強気なランに加えてプレーの安定度が増した。職場の方たちのご指導や家族のサポートによって本人により強い自覚と責任感が生まれた」と、東京ガスを指導する川邉大督ヘッドコーチも期待を寄せる。

東京ガスFB千葉真之亮(東海大)。趣味は料理で好きな食べ物はホルモン焼き。(撮影/鈴木正義)


 一方の丸和も18分、FL眞野拓也(京都産業大)がゴールポスト脇に持ち込んで同点とする。
「コンタクトプレーの局面で接点を縦に動かしていく〝縦の脅威〟にこだわる」(細谷直GM兼監督)の目指すラグビーを体現したトライだ。
 細谷監督はチームのインタビュー動画や試合後の記者へのコメントでもこの「接点を縦に動かす」という言葉を繰り返し使った。指導者が明快なコンセプトを掲げることは強いチームの必要条件だが、それを見事に選手全員に浸透させた、丸和の強さを象徴するトライだ。

ゴールポスト脇に飛び込む丸和キャプテンFL眞野拓也(京都産業大)。好きな手料理はハンバーグ。(撮影/鈴木正義)


 互いに1トライずつ奪い合い、7-7となってやや膠着状態になる。試合が動いたのは前半終了間際だ。
 丸和ラインアウトからモールで、ここまで丸和の前進を阻んできた東京ガスFWを押し切って、最後はHO松田大空(日本体育大)がトライ。さらに47分には、CTB鹿尾貫太 (東海大)が今度はスピードに乗ったランでインゴールに入った。
 鹿尾の赤いヘッドギアはその走力とタックルで、試合中何度も4500人の観客をどよめかせた。前半は丸和ペースと言って良い試合展開でゲームを折り返した。

トライ後歓喜のジャンプ丸和CTB鹿尾貫太 (東海大)。プレゼントで嬉しいものはケンタッキー50ピース。(撮影/鈴木正義)

 後半も開始早々、丸和FBリコ ・サイム(ニュージーランド)が左サイドへのトライで26-7とする。そのまま試合が決まってしまうのかと思われる流れとなった。

 しかし、東京ガスもこのまま終わるわけにはいかない。PRにFWリーダーの鈴木健也(青山学院大)、LOに髙橋湧(法政大)を投入し、反撃の体制をとる。髙橋はここ数年怪我に悩まされ出場機会がなかったが、諦めずに努力を続け、見事に復活した32歳のベテラン。チームを鼓舞するにはこれ以上ない選手交代だ。

後半投入のLO髙橋湧(法政大)。怪我から復帰の32歳がチームを鼓舞する。苦手はインゲンの胡麻和え。(写真提供/東京ガスラグビー部)


 この交代以降、東京ガスが本来の強さを発揮した。丸和をゴール前に釘付けにする時間が長くなる。FB千葉、SH山岡篤樹(早稲田大)、WTB大森広太郎(同志社大)らが<
ゴール1メートルまで次々と迫る猛攻を見せた。

「全選手(外国人除く)が東京ガスグループ社員としてのPRIDEがあり、ハードワークしつつ規律を守る」
 東京ガス川邉HCのその言葉通り、社会のインフラを支える重要な仕事を担う東京ガスという企業の姿勢を示すかのような、愚直なプレーが続いた。東京ガスは後半のペナルティーはわずか2つと、その規律の高さを実証してみせてくれた。
 そしてついに後半10分、LOワイナンド・グラスマンが丸和の鉄壁のディフェンスを突破して1トライを返した。
 ただ、スコアボードの時間は刻一刻と進んでいった。

 後半40分、WTB大森が右隅に飛び込む。ロスタイムに入っても東京ガスの猛攻が止まらない。丸和はゴール前に張り付き状態とされ、一方的に攻め込まれた。

 しかし丸和が最後の最後までしのぎ切った。
 33-19。後半32分にPRテビタ・ポレオ(京都産業大)のトライもあり、前半のリードを守り切った。「縦に動かす」ラグビーを80分間維持した丸和が最強の相手東京ガスを下した。

リードを守り切った後半貴重なトライを挙げた丸和PRテビタ・ポレオ(京都産業大)。好きな手料理はふるさとトンガ料理(Lu Sipi)。(撮影/山形美弥子)


「我々(指導陣)が提示したプランを選手が最後まで信じて戦ってくれたことが勝因」と丸和の細谷監督は試合を振り返る。
 それにしても強い。Aグループ昇格シーズンでいきなりの優勝には、なんらかのチームの意識改革があったはずだ。

「今シーズン『Plus One Work』をスローガンに掲げ、その結果、ひとつ先の手を打とうという意識が試合でも徹底できるようになってきた」
 理屈では、その通りだと思う。しかしそれを実践し、試合で結果を残すまで徹底できたことは、選手、指導陣が強い意識を維持しつづけた結果だろう。

 チームの母体となる丸和運輸機関は「桃太郎便」で有名な、こちらもロジスティックスという重要な社会インフラを担っている企業だ。「桃太郎文化」という独自の企業文化が継承されているという。企業人としての優れた人材教育が選手を強くしている面もありそうだ。

 こうしてトップイーストの2024年シーズンは幕を閉じた。但し今後まだ、トップウエスト、トップキュウシュウとの3地域順位決定戦が待っている。

「トップイーストを代表して出場するからには、ふがいない結果は出せない。しかし、今日だけは選手たちを優勝の喜びに浸らせてあげたい」
 好ゲームに興奮冷めやらぬスタンドを背景に、細谷監督はそう締め括った。

 丸和はリーグワン参加を表明している。だが現時点ではトップイーストをはじめとする3地域社会人リーグとリーグワンには、入替戦のような仕組みはない。

 リーグワン側の方針によって参加チームが増える機会が今後あるとすれば、その条件は大雑把に言って2つだ。一つは競技力。この点、今年トップイーストから加入したセコム、ヤクルトがどこまで健闘するかは一つのベンチマークとなるだろう。

 もう一つがチームの独立採算性や観客動員力だ。今回、試合の観客が4000人を超えたのは、トップイーストとしては極めて画期的だ。丸和のようにリーグワン入りを目標にチーム運営をすれば、結果的にそれがトップイーストの活性化につながることを示した試合でもあった。

 冒頭お伝えしたSNSキャンペーンなど、関東協会も社会人リーグの盛り上げに意欲的で、今後もますますグラウンドに足を運ぶ人を増やしてくれることを期待したい。
 試合内容は間違いなく面白いのだから。

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