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2010年以来の台湾訪問だった。
前回は、日本代表の最初のキャップ認定試合に出場していた名CTBを偲ぶものだった。「柯子彰さん生誕百周年記念試合に来ませんか」とお誘いいただき、南へ飛んだ。
今回は12月28日、29日に台北で開催される、国際大学セブンズ大会へ向けての記者会見と国内企業チーム大会の決勝戦を取材する機会に恵まれた。
ことの始まりは9月27日に届いたLINEメッセージだった。
台北に暮らす山本紅樹(こうじゅ)さんからだ。そこには、「年末に台北で国際セブンズ大会が開催されます。それに関しての取材をしませんか」との内容だった。
台湾は好きなのに、長く行けていないので魅力的な内容。ただ、大会期間が花園(高校大会)と重なっている。迷うなあ。
いつものように、思考がそこでストップ。しばらく返信を怠っていると、取材日程が12月6日、7日と判明し、いっきに訪台実現の可能性が高まる。
で、今回の取材旅行が実現した。
◆12月5日(木)
いよいよ出発の日。羽田空港から台北市内の中心地に近い松山空港への便は人気が高く、こちらの条件に合ったものがなかなかなかったため、成田出発の桃園国際空港着の便で現地へ向かった。
所要時間は4時間弱。近い、近い。
宿泊ホテルの送迎車に乗ること約45分。台北市内のホテルロビーで、山本さん、SNSでラグビー情報などを発信しているCocoさん、関西大学ラグビー部出身、台湾リーグで活躍中の雨谷陸椰(あめたに・りくや)さんと会う。
すぐに街に出て、台湾料理とビールなどを食しながらラグビー話を数時間。いきなり、なかなか楽しいぞ。
山本紅樹の名前を聞いてピンと来た人は、かなりのラグビーマニアだ。1997年度の花園決勝を戦った伏見工のWTBで、國學院久我山に20-33と敗れたものの、聖地に名前を刻んだ人だ。
今回は大会の日本へのプロモーション業務や国際チーム担当サービスマネージャーなどに携わったことで縁ができた。
そのパートナーのCocoさんは、女子ニュージーランド代表のルビー・トゥイの自伝『ストレート・アップ』を翻訳、日本での発売(一般発売は2月14日)に漕ぎつけた方だ。
雨谷陸椰さんは2023年度の関大ラグビー部4年生で、現在は台北元坤でプロ選手としてプレーしている。
◆12月6日(金)
午前中から『2024年 台北元坤盃橄欖球大專國際邀請賽』(元坤杯7人制国際大学ラグビー招待大会)の記者会見がおこなわれた。台湾でラグビーは「橄欖球」。「がんらんちゅう」と呼ばれている。
同大会は今年が5回目。昨年は日本の大学(拓大、関西大)も参加しており、今年も天理大、拓大、関西大、名古屋大が台北を訪れる予定だ。
※大会中のライブ配信URLは、決まり次第、このfacebookページでお知らせします。
この大会は、主催者の杜元坤(Tu Yuan-Kun/トゥ・ユウェンクン)氏のラグビーへの情熱で始まったものだ。
義大医院院長、義守大学医学院教授(骨科/整形外科)、元坤運動文創産業公司取締役会長を務めている64歳はラグビーマン。台北医科大学卒で、同大学ラグビー部出身。台湾代表としてのプレー経験もある。
また、幼い頃から始めたヴァイオリンの奏者としても熱心で、医大生だった頃、音楽の道に進むことも考えたという。
杜院長は尊敬を込めて『クレイジードクター』と呼ばれている。独自の手術法は世界的にも有名で、医学界に大きな影響を与える存在。しかし、まったく威張らない。
台湾の離島への医療にも熱心で、個人的な寄付を重ねている。
無私無欲のスピリットは、愛するラグビーにも注がれており、国際大学セブンズ大会を起こしただけでなく、企業チーム「台北元坤」を誕生させるとともに、台湾ラグビー協会と共同で15人制の台湾企業リーグを設立した。
それ以外にも台南市建市400周年を記念して元坤杯高校国際大会を開催したことも含め、ラグビー界への貢献や寄付は枚挙にいとまがない。
日本ラグビーとの関係性を深めたい意向も持っており、日本のコーチや選手が台湾ラグビー界で活躍できる環境を整えたいと考えている。
「例えばそれがイングランドだと、体つきなどが違いすぎる。それより、体格などが近い日本のラグビーから学ぶことを考えています」
現地メディアも多く集まった記者会見では、院長の熱いトークのほか、国内から参加する各大学のキャプテンなどが出席。それぞれが壇上で決意表明をおこなうなど盛りだくさんの内容だった。
午後はU19台湾代表に天理大の1年生、PR曽宥凱、CTB李冠佑(ともに台湾・新竹市立竹圍高校出身)が選ばれているということで、同代表の練習を見学へ。
2人とも真面目。日本ラグビーを学び、将来はそれを台湾に還元したいと話していた。
◆12月7日(土)
台南へ。台湾国内の企業チームリーグ戦の決勝、台北元坤×長大海洋飼料を取材した。
台湾新幹線で台北から南へ1時間半ちょっと。2002年に日本代表の試合取材で訪れた時以来の同地訪問だった。
試合会場となった台南市立橄欖球場の雰囲気がいい。台南はかつての台湾ラグビーの中心だっただけに、スタンドには年配のファンも多くいた。
少年たちの姿も多く、太鼓などを使った応援も賑やかで、決勝戦の雰囲気を盛り上げていた。
試合は長栄大のOBも多い長大海洋飼料が先行して試合を進めたが、最終的には34-15で台北元坤が勝利。3連覇を達成した。
関西大OBで同チーム唯一のプロ選手、雨谷も6番で先発。ボールタッチも多く、前半30分前後にはインゴール右隅にボールを持ち込んだ。しつこいディフェンスでもチームに貢献した。
試合の間中、チームのオーナーでもある杜院長はベンチ近くで立ちっぱなし。好プレーに両手を突き上げて喜び、ハーフタイムの円陣にも加わり、選手とともに掛け声を叫んだ。
試合後は選手たちに胴上げされ、高々と宙に放り投げられていた。
この日は決勝戦の前に3位決定戦もおこなわれ、3決、決勝とも日本人レフリーが担当した。
3決は山谷亮介レフリー(関西協会)が担当し、決勝は廣瀬大河レフリー(九州協会)が笛を吹いた。ともに海外でレフリーを任されるのは初めてのことで、「楽しく、いい経験を積めました」と話した。
取材後は元台湾代表で、日本のチーム(三菱自工水島/西日本社会人リーグ)でもプレーしていた莊國禎さん(台南出身)らと食事へ。肉や海鮮、そのほかの具材もたっぷりの鍋をみんなで食べる。
ともに鍋を囲んだ、莊さんの学生時代の先生、お兄さん、友人も全員ラグビーマンで、台南のラグビー熱をあらためて知る。台湾式乾杯も、なかなか激しい。
◆12月8日(日)
午後2時過ぎの便で帰国のため、午前11時の開店時間を待ってホテル近くで小籠包を食べる。牛肉麺も。うまい、うまい。
台湾で会った橄欖球人は、みんな熱く、いい意味で変人揃いだった。最近の日本ラグビーは、同国との交流が減っている。隣国の情熱をもっと受け止めてほしい。
台湾ではリーグワン2024-25の試合が、毎節1試合、生放送か録画で放送される(ELTA TV)ことになった。現地からの日本ラグビーを求める声が大きくなることも楽しみだ。
※台湾で出会った人たちのストーリーは、今後掲載していきます。