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アルゼンチン戦の前日(11月21日)、パリは例年より早く本格的に雪が降っていた。11月下旬にこれだけの雪が降るのは、2013年、2010年まで遡るという。
スタッド・ド・フランスのピッチは雪で覆われ、降りしきる雪で目の前が真っ白になる中、フランス代表チームのキャプテンズランがおこなわれた。ピッチに出てきて雪をかき集め、チームメイトに投げつける選手も見られ、和気あいあいとした空気が感じられた。やはりNZに勝つのは格別なのだろう。
5日前(11月16日)、8万人の観客で埋め尽くされたこのスタジアムでオールブラックスを破り(30-29)、ファビアン・ガルチエは、初めてNZに3連勝を挙げたフランス代表のヘッドコーチ(以下、HC)となった。前半はラックでもコリジョンでも劣勢だった。スクラムでもペナルティを取られ、ラインアウトでもボールを奪われた。10-17とリードされて折り返した。
ハーフタイムにキャプテンのアントワンヌ・デュポンが「あと少しだ。決して諦めるな。戦い続けよう。必ず挽回できる」とチームに声をかける。
後半、レ・ブルーはさらに強度を上げ逆転に成功し、その後、何度も自陣に攻め込まれるも守り切った。そのディフェンスからは、絶対に勝つという個々の強い意志と、チームの固い結束が感じられた。
「前半はミスがあったけど、後半は良くなった。こんなシナリオだと喜びはさらに大きくなる。華やかなプレーや素晴らしいトライにサポーターは熱くなるとよく言うけど、ピッチ上の僕たちにとっては、勝利をつかむために自分たちのラインを死守する、その時の感覚は格別。互いを信頼し、一つになる。陶酔してしまうぐらい、他では味わい難い感覚。オールブラックスに勝つことは、いつだって特別。試合終了の笛が鳴った瞬間、とても強い感情が湧き上がってきて、それをみんなで共有できた」と試合後の会見でデュポンが喜びを伝える。
「僕たちはワールドカップの話はもうしていない。皆さんの方がその話題が好きみたいですね。僕たちは新しい目標に向かって進んでおり、未来を見据えている。このような礎となる試合に勝つことは、常に重要。これは長い道のりの一歩。チームにはインターナショナルレベルを初めて経験する若い選手もいて、決して簡単な状況ではなかった。怪我人も出たし、試合の入りも悪かったから、さらにこの勝利を噛み締めたい。終盤は勝利への渇望と、最後まで諦めない気持ちでいっぱいだった。この勝利は今後の糧になる。これからです」と続けた。
フランス代表チームに新たな勢いが生まれていることが感じられた試合だった。3戦連勝で次のシックスネーションズに繋げたいところだ。
雪の中のキャプテンズランで、デュポンはニット帽を深く被り、ネックウォーマーを鼻の上まで上げ、覆われていないのは目だけという完全防寒装備だった。その後の会見で、「かなりしっかりと着込んで練習していましたね。アルゼンチン戦にこの天候の影響は出そうですか?」と質問が投げられた。
「他の選手より、僕は注意深かったというだけ。明日(11月22日/金)の試合は、今日のようなコンディションではないと聞いている。今日は、シンプルかつ正確にプレーすることを心掛けた。明日はもっと良いプレーができるはず」と答えた。
試合については、「この試合に勝つことは非常に重要。ワールドラグビーのランキングでフランス(4位)の後ろにつけているアルゼンチン(5位)との対戦で、彼らはとても好調。ビッグゲームになるだろう。シリーズで3戦全勝することは、今後に向けてポジティブで、すぐに始まるシックスネーションズでの自信になる。僕たちはすべての大会で、すべての試合に勝つために、またこの数週間で生まれた勢いを維持するために戦っている。この試合にも勝つことが重要です」とした。
対戦相手のアルゼンチンについては、こう語った。
「間違いなく脅威だと全員が認識している。先週の試合から中5日しかなかったというのもあるけど、それよりも直近の数か月でのアルゼンチンが見せてきたパフォーマンスに危険を感じる。先週のアイルランド戦(19-22で惜敗)もそうだし、ラグビーチャンピオンシップでは、NZにアウェーで勝ち(38-30)、南アフリカにも勝った(29-28)」
「高いインテンシティーで、とてつもないパフォーマンスを発揮するチーム。攻撃面でも大きく成長し、様々なパターンを使い分けるようになり、さらに危険なチームになっている。僕たちは、最初から集中力を切らさずに試合に入らなければならない。試合に入るまでに15分や20分もかけてしまうと苦戦を強いられる」
そのアルゼンチンの攻撃をリードしているのがトゥールーズでのチームメイトのFBフアン=クルス・マリーアだ。
「全員が彼のポテンシャルを理解している。彼はどのポジションでも高いパフォーマンスを発揮できる。身体能力だけでなく、ラグビースキルやゲームを読む能力が高く、あらゆる状況でも高いレベルでプレーできる。アイルランド戦での彼の活躍でさらに彼を警戒している。明日はあまり活躍しないで、トゥールーズに戻ってから良いプレーができるようにエネルギーを蓄えておいてくれないかな」と最後にいつものお茶目な笑顔を見せた。
【プロフィール】
福本美由紀/ふくもと・みゆき
関学大ラグビー部OBの父、実弟に慶大−神戸製鋼でPRとして活躍した正幸さん。学生時代からファッションに興味があり、働きながらフランス語を独学。リヨンに語学留学した後に、大阪のフランス総領事館、エルメスで働いた。エディー・ジョーンズ監督下ではマルク・ダルマゾ 日本代表スクラムコーチの通訳を担当。当時知り合った仏紙記者との交流や、来日したフランスチームのリエゾンを務めた際にできた縁などを通して人脈を築く。フランスリーグ各クラブについての造詣も深い。