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モスグリーンのジャージーが、ヒリヒリする11月を過ごすのは久しぶりのことだ。
大東大が関東大学リーグ戦1部の1位で同リーグの最終節(11月24日)を迎える。
全7試合のうち6戦を終えて、4勝1敗1分けで勝ち点27。
今季のリーグ戦は5チームが勝ち点4差の中にあり、3チームが出場可能な全国大学選手権への切符争いは熾烈を極める。
大東大は、11月24日(日)に秩父宮ラグビー場でおこなわれる法大戦に勝てば優勝が決まる。
敗れても他校の勝敗により大学選手権出場の可能性は残るが、リーグ戦王者となって、次ステージに進むことがいちばんだ。
蓑洞功志(みのほら・こうじ)主将を中心に、一体感のある今季の大東大の中で、ピッチ内外においてチームへ大きく貢献しているのがCTBのハニテリ・ヴァイレアだ。
青森山田高校時代からの同期、リサラ・フィナウとともにバイスキャプテンを務めている。そして、ピッチに立てば、突破とパスでチームを前に出す。欠かせぬ存在となっている。
ハニテリはトンガ出身。トゥポウカレッジから青森山田を経て、大東大に入学した。
トンガカレッジ出身のリサラは中学時代に副生徒会長を務め、ラグビーでも年代別の代表選手。常に陽のあたる場所を歩んできたが、ハニテリは勉強ができるタイプ(小学生時、そろばんでトンガの全国大会出場)で、どちらかというとおとなしい性格だった。
しかし大学で最上級生となり、副将に指名されたハニテリの変化は多くの人たちが認めるところだ。
柔軟性も強さもあるプレーだけでなく、リーダーシップを発揮。酒井宏之監督は、「先日(生活面が)気になる後輩がいたので、部屋に呼んで、ふたりで話しました。やはり、1対1で話さないと分からないことがありますね、と言うんです」と目を細める。
「私生活や寮生活がグラウンドで出る、とも言います」
ハニテリの人間性に信頼をおく監督は、上級生になるにつれ成長する姿を見てきた。
1、2年生の頃はベンチスタートも少なくなかったが、昨季は全試合に先発。今季も開幕から6戦連続で12番を背負っている。
下級生の頃は幼かった少年はチームメイトにも恵まれ、時間をかけて成長した。
大学2年時はリーグ戦で7位と沈んだチームは、その翌年に酒井監督を迎えて4位に浮上。ハニテリ自身もベスト15に選ばれて自信がついた。
また今年は、6月におこなわれた関東ラグビー協会100周年記念試合でリーグ戦のセブンズ代表に選ばれた。他校の選手たちと触れ合い、刺激を得たことも、個人的な成長につながっている。
CTBとして、いま、チームの特長を理解してプレーしている。パワーを活かして動くスタイルが、より賢くなった。
「去年と比べて外側に足の速い選手がいっぱいいるので、SOに情報をちゃんと伝えて、僕が真ん中でコントロールするのが大事だと思っています。スペースにボールを運べるようにしたい」
自ら動くことも忘れず、今季6トライとチームへの貢献度は高い。
バイスキャプテンを任され、本人は「もっと成長しないといけない」と自覚したという。
「練習でも試合でも、リーダーシップを出していこうと思いました。みんながダウンしている(きつくて静かになっている)時、盛り上げるプレーをしようとしています。日本語も上手くなっているので、いっぱい声も出しています」と話す。
3年生になる時が転機だったと言う。入替戦を経て、新しい指導者の就任。「酒井監督が、ゼロから始めないと上にいけない、きつい練習から始めようと言ったことを覚えています」。
明るく、厳しいことを徹底させる監督の方針も気に入っている。
いま、充実のシーズンを戦っている途中で「ここに来てよかった」と実感している。
勝てない時期、一人ひとりがバラバラで、好き勝手やっていたことも経験しているから「みんなで勝ちたいと思っている」雰囲気が心地いい。
「蓑洞も、1年生の頃とはまったく違う。あまり喋らないけど、ラグビーには厳しい、みんなのことを考えるリーダーです」と、共にチームを束ねる主将に信頼を寄せ、力を合わせる。
1年生の頃は「ラーメンが好きなので、将来は自分で(店を)やってみたいかも」と言っていた夢は、日本で、できるだけ高いレベルでラグビーを続けていくことに変わった。
その希望も、着実に実力を伸ばしたことで叶う。「将来は日本代表になりたい」と、描く未来は、どんどん広がっている。
この国が好きだ。帰化も念頭に勉強を重ね、日本語検定も高い水準でクリアしている。
そんな姿を見た後輩たちも、同じ道を歩もうと努力。ラグビーだけでなく、リサラとともにピッチ外でもいい流れを作っていることに、この人の価値がある。