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前戦で東海大学と死闘を演じ(33-33/10月27日)、リーグ戦制覇へ近づいた大東文化大と、苦戦が続くも、高い攻撃力で熱戦を制してきた流通経済大の試合が11月10日におこなわれた(熊谷)。関東大学リーグ戦らしい激しさを感じる好試合となった。
大東大の前戦の試合運びに関しては、こちらの記事を参考にしていただきたい。
◆大東文化大学のラグビー。
大東文化のラグビースタイルは、攻撃力の高い留学生が目立つことが多い。しかし、その実、勤勉かつ激しい肉弾戦を丁寧にこなす部分に強さがある。
この試合でも、攻守とも激しい肉弾戦を厭わないスタイルが熱戦を生み出した。
◆質的に大東文化大学のラグビーを見る。
アタックの観点から見ると、大東大のアタックラインはそう難しいことをしているわけではない。
アタックラインの構造はシンプルで、階層構造といった表裏を使った構造が複数並べられているわけでもない。
そんな中、アタックの軸になっているのは12番のハニテリ・ヴァイレアではないか。
ヴァイレアは留学生ということもあって1対1の部分でのコンタクトで相手を上回ることを期待されているような動きを見せているが、実際の試合を見るとパススキルもキッキングに関しても高水準のレベルと分かる。
10番的な立ち位置に入ることはそう多くはないが、中盤では繋ぎ役として長短のパスを投げ分けられるし、自身で差し込むようなキャリーもできる。日本でプレーする留学生の中でも、非常に高いレベルにあると感じる。
今回の試合で特別に気になった点は、グラウンドの中央付近に配置されたFWの小集団、ポッドの形だ。
大東大は前節の試合の中でも見られたように、大まかには4人と2人のポッドの2つを構築していることが多い。
ただ、それを基本とした組み合わせにしつつ、今回の試合では、2人のポッドを3つ横に並べるような配置も見られた。
あくまでもセットピースからの攻撃時、早いタイミングで見られた構成のため、意図的な配置か偶発的な配置かに関しては判断が難しい。
しかし、結果としてポッドの位置関係が比較的散っていたことによって、相手のディフェンスが狙いを絞りづらくなっていた。
また、その場面でも12番のヴァイレアがいい働きをしていた。2人ポッドの合間を埋めるように移動していたため常にすべてのポッドがアタックの選択肢になっており、効果は大きかった。
様々なチャンネル(アタックするエリア)に優れたランナーが配置されていたのも効果的だった。
大東文化にはヴァイレア以外にも13番の橋本颯太やバックスリーの面々といった好ランナーが揃っている。特定のエリアに固執するのではなく、複数エリアにアタックを散らしても余りある選択肢が準備されていた。
特に15番のタヴァケ・オトが生み出した、狭いサイドでのアタックはその最たる例だろう。
ディフェンス面では少し外側のエリアで苦戦していたのが目立った部分だろうか。
ある程度「前に出て、流す」という基本的な構造を作り出していたようには見えたが、外側と裏の選手のコネクション切れや、一番外に立っている選手が流し切れずに、相手に崩されかけるシーンも少なくはなかった。
中央に近いエリアでしっかり前に出られている分、外の部分で苦労していたようにも見えた。
ただ、後半にかけて前に出るディフェンスは徐々にハマるようになったと思う。
前半は体を当てる感覚を掴めていないのか、差し込まれるシーンが多かったように見えた。しかし後半は、詰める判断も含めて好判断、好タックルが増えた。
一方で、全体的にペナルティが重なって失点につながっていた印象もある。注意していきたい部分だ。
◆数値で大東文化大学のラグビーを見る。
数値的には流経大をある程度押し込めることができていたように見える。
圧倒していたわけではないが、キーとなる数値では上回ることができており、激しくプレッシャーを受けていたような様子は見られない。
キャリー回数は試合を通じて107回。前後半に分けると、52回/55回だ。
前後半で大きく数値が違っている様子はないから、一定のラグビースタイルを一貫して実行できたという見方もできる。
キャリーを種別に見ると、9シェイプ(SHからワンパスでFWを中心とした集団がキャリーする形)形が比較的多く、試合を通じて31回(前半12回/後半19回)だった。
一方で10シェイプ(SOからのワンパスを受けた集団がキャリーする形)は試合通じて6回。FWを絡めてパス回数を重ねるといった様相は少なかった。
また、アタック全体としては中央エリアを使ったキャリーが多く、シェイプから外れた形では中央エリアで34回、エッジエリアで13回。全体的に内寄りだったと表現できる。
パス回数は試合全体で166回となっており、キャリーの1.5倍強の値となっている。
比率的には一般的な水準よりもややパスが多いと言える。オフロードも比較的挟んでいたが、極端な数値ではない。
全体的にハンドリングエラーやターンオーバーといった、相手にボールを渡すシーンが目立った。精度の部分は、最終節に向けての課題だ。
パスはラックから39回が9シェイプで、32回がバックスラインへと渡った
また、SO役へ渡ったボールは7回が10シェイプへ、33回がバックスライン内でのボール運びとなっている。
全体的にはボールを動かしているような印象で、極端な数値ではないが、スイベルパス(ポッドと呼ばれる集団などから裏の選手に下げるように放るパス)も何度か実行していたことから、かなり散らそうとする意識が分かる。
ディフェンスの水準は極めて高かった。
ペナルティとなってしまうシーンも散見されたが、タックル精度は試合通じて90パーセントを超えていた。
詰め方の部分も比較的好印象で、ラインブレイクされた数も多くない。
むしろ、ジェネラルプレーの中で起きたペナルティから失点を重ねており、その点は、ゲーム全体を通じた改善が求められる。
◆流通経済大学のラグビー。
流経大も大東大と同じような、激しいラグビーを得意とするチームだ。
NO8のティシレリ・ロケティをはじめとして、すべての選手がパンチが効いていると考えてもいいだろう。
しかし、日大戦(78-64/10月20日)のように失点の多さが課題となった試合もあった。今回の試合では、その試合からの修正力が期待された。
◆質的に流通経済大学のラグビーを見る。
流経大の攻撃力を担保しているのは、正直なところ位置的な優位性というよりも「一人ひとりの質」の部分が貢献している部分が大きいだろう。
今回の試合の中でも、一人ひとりの走力や体の強さの部分で、しっかりと前に出ることができていた。
アタックのシステムの部分では、大まかに1-3-2-1-1あたりのポッドを組んでいることが多かったように見えた。
エッジにはFLの選手とロケティが配置されていることが多く、もちろん大東大の外側に立つディフェンスの選手が弱いというわけではないが、質的優位性を狙っての配置と見られる。
また、途中交代となってしまったが、13番のヘイウォードもいい仕事をしていた。
アタック全体の雰囲気としては、シンプルな構造をしていた。
SO役をこなすことのできる選手を複数枚備えている感じを受けた。後半にかけては、23番の青木鴻志が最初のレシーバーになっていることが多かった。
アタックラインは直線になっていることが多く、細かくパスを動かすというよりも、ミスパス(何人かを飛ばすようなパス)も交えながらパス自体の距離感で相手を切るようにアタックしていた。
また、10番に入っていた佐々木開の動きが良かった。
小難しいことはせず、自身の立ち位置やスピード感をこまめに変化させながらアタックに参加。アタックに彩りを添えていた。
15番の中村楓馬と合わせてキックの判断もよく、裏を狙うことで相手のディフェンスをうまく動かしていた。
ディフェンスの観点では大きな苦労はしていなかった。ちょっとした隙を突かれて失点をするケースはあったものの、手堅く、タックル自体の強さにも安定感があった。
負傷者が増えて全体的に不安定なスコッドになっていたようだが、どの選手も体を張って大東大のキャリーを止めていたと思う。
また、ブレイクダウンへの仕掛けもしぶとさが目立っていた。
ジャッカルを狙っていたのもそうだが、プレッシャーも丁寧に、かつ激しくかけていたように思う。
大東大のブレイクダウンワーク自体も少し不安定な要素があったと思う。その点で、ターンオーバーをかなり狙うこともできたのではないだろうか。
◆数値で流通経済大学のラグビーを見る。
こちらも数値的には決して悪くない数字であり、一部は後手に回っていたものの、好勝負に至る過程が見えてくる。
ミスが目立つシーンもあったが、全体的には安定したおり、攻撃的な面が感じらる。
キャリー回数は試合全体で74回と、大東文化の数値から30回ほど少ない値となった。
ポゼッションにも繋がる数値であったため、全時間帯の多くで相手にボールを持たれたことを示しているように感じる。
一方で3トライ2PGというスコアを取っていることを考えると、かなり効率よく点をとったと言えるかもしれない。
キャリーを種別で見ると、9シェイプが17回、10シェイプが2回となっており、FWの小集団を使ったキャリー自体は少ない数値となっている。
ロケティを擁した中で不思議な数値ではあるが、ロケティは今回の試合ではエッジエリアに立っていることも多く、中央に近いエリアではボールを受けていなかった。
パス回数を見ると、試合通じて131回と、キャリー回数の2倍近い値となっている。
大東文化の比率と比べてもパスが多く、SOの佐々木を中心にパスを刻んでアタックをしていることが分かる。
ラックからは18回が9シェイプで、29回がバックスラインへと渡っており、SOを起点としたアタックを構築することができていた。
ディフェンス面ではタックル成功率の部分でやや後手に回ったような印象だろうか。
ラインブレイクされることこそ極端に多数にはくなかったものの、全体的に弾かれたり、食い込まれたりしたシーンが多かったような印象もある。
一方でディフェンス水準の指標にもなる「失点」の部分では結果的に勝利を収めた。改善が必要な点もあるものの、悲観的になるものでもない。
◆まとめ
リーグ戦制覇に向けて強く勝利を望んでいた大東大としては、悔しい敗戦になっただろう。
一方の流経大は、上位進出の可能性を自分たちの力でつかみ取った。
リーグ戦の順位は最終節までもつれ込むことになったが、それでこそ「リーグ戦のラグビー」と言える気がする。
【プロフィール】
今本貴士 / いまもと・たかし
1994年11月28日生。九段中等教育学校→筑波大学。大学・大学院での学生トレーナー経験を経てNECグリーンロケッツでアナリストとしてのキャリアをスタートする。NECグリーンロケッツ東葛で2年間活動し、退団後はフリーアナリストとして個人・団体からの依頼で分析業務に携わる。また、「UNIVERSIS」という大学ラグビー分析専門の連載をnoteにて執筆している。