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背番号11がインゴールでボールを押さえた。『ESSAI』の文字が、最初に大型ビジョンに映し出されたのは前半3分過ぎだった。
その文字は20分までに計3回表示され、前半だけで5つのトライが生まれた。
青いジャージーばかりがスコアを刻み、その得点は31となった。
11月9日にパリ郊外のサン=ドニ、スタッド・ド・フランスでおこなわれたフランス×日本のテストマッチは、52-12とホーム側の圧勝に終わった。
史上初めて同スタジアムで戦った日本は、沈黙した。
キックオフ直後、フランスSHアントワンヌ・デュポンのラックからのキックをLO、ワーナー・ディアンズがチャージ。自ら拾い、相手ゴール前まで迫った時には日本にモメンタムが生まれるかと思われた。
しかしノックオンで相手にボールが渡ると、日本はなかなか攻めに転じることができなかった。
ボールを大きく動かすフランスに好機を作られる。左サイドでボールを受けたWTBルイ・ビエルビアレにうまくキックを使われ、好チェイスからトライを奪われた。
10分には、ターンオーバーからキックパスなど使ってトライラインを越えられる。19分も、キックの蹴り合い後に再びターンオーバーを許し、ビエルビアレの足技が冴える。最終的にはFLアレクサンドル・ルーマがインゴールに入った。
開始20分で19点をリードしたことで、スタジアムの空気も変わった。
ナショナルアンセムの時から大声援を送っていたフランスのサポーターは、観客席でウエーブを作り始めた。テストマッチの緊張感はなく、お祭りムードがその空間を支配した。
そんな中で、28分にはさらに加点を許した。ここもターンオーバーから攻められて、最終的にはパスの交換からビエルビアレがトライ。33分にもラインアウトから1トライを追加されて31-0とされた。
後半開始早々にも7点を追加される。その後2トライを返すも、フランスにも2トライを奪われて最後までスコアは大きく開いたままだった。
後半は日本が攻める時間が長くなったものの、両チームの力の差は大きかった。
今季これまでのテストマッチでは最終的な勝敗に関係なく、最初の20分に超速ラグビーで作るモメンタムを得ていた日本。
しかしフランス相手には序盤から封じられた。
描いていたプランを遂行できなかったのは、相手のフィジカリティーの強さに圧力を受けてしまったからだ。
エディー・ジョーンズ ヘッドコーチも選手たちも、その結果高速で攻めるテンポを作り出せず、フランスの動きに対応できなかったとした。
地力の違いを思い知らされ、格上の相手に混乱を起こせなかったから反撃の糸口が見いだせなかった。
攻防のキーになると分かっていた、キッキングゲームの進め方でも相手が上回った。
SH齋藤直人は「最初のワーナーのキックチャージも含め、9番からのキックに対しては相手もプレッシャーを感じていたとは思いますが、キックのラリーの途中、どこかで仕掛けようと考えていたのに、それがうまくいかなかった」と振り返った。
蹴り合いについては、この日WTBに入っていた長田智希も反省を口にした。先手を取りたい中でのあるプレーを悔やんだ。
「バックフィールドにプレッシャーをかけてくるのに、最初にキックを(ダイレクトで受けず)ワンバウンドさせてしまった。その後、キックカウンターを受けて(先に)スコアされた」
長田は、強豪相手とはいえ大敗が続くと自信を失うのではないかとの質問に、「気持ちが落ち込む状況は全員にあると思う」と話した。
しかし大事なのは信念を持ってやり続けることだ。「(負けが続くと)うまくいっていない様々な点に目が行きがちも、オフ・ザ・ボールの動きやフィジカリティ(の強さ)など、超速ラグビーをやっていく中でジャパンが大事にしようと言っているものを、ぶれることなくやっていくこと」と自分に言い聞かせるように話した。
序盤に自分たちのスタイルを示すことができても、やがて息が切れて離される。
この日の試合のように先に走られ、それでも自分たちの形を追い続けると、やがて相手の運動量が落ちる。後半、反撃に転じることができる時間が増えた。
もどかしい状況が続いている「日本代表のいま」についてFL姫野和樹は、「自分たちの現在地はスコアが示しているまま、と真摯に受け止めないといけない」と言った。
「個人的には、もっと敵陣でプレーすることが大事と思います。自陣から攻撃して、攻めあぐねて蹴っているのでは、(相手に良い)ボールをあげているようなもの。いい攻撃もできているので、それを敵陣でやらないと」
大きなFWに対してアタックしたことで、後半は自分たちがスピードで上回れている体感もあった。
そんな手応えがあるのに、それを遂行し切れない。自分たちの力は、まだそこ。そう理解して歩を進める以外に前進はない。
ジョーンズHCは「就任当時にトップ4を目指すと言っていたが、そのクラスの相手ときょう戦って(この結果を受け)、目標を見直す必要はありますか」と質問を受けて、「トップ4は長期間の目標で、4か月で達成できるとは思っていません。今後さらに挑み続けますし、目指さない理由はありません」と即答した。
次戦は11月16日のウルグアイ戦(仏・シャンベリー)。フランス戦を戦い、怪我人も出た。NO8テビタ・タタフが今ツアー中に復帰できる見込みは低いとされ、SO立川理道主将の次戦への出場も危ぶまれている。