logo
【大学ラグビーをアナリストの視点で分析する/帝京大×早稲田大】試合を構成する多くの要素で上回った早稲田。数値で大きな差はない帝京は、パスの場所、セットプレーに改善点
帝京大に圧力をかける早大。ほとんどの時間を圧倒した。(撮影/松本かおり)

【大学ラグビーをアナリストの視点で分析する/帝京大×早稲田大】試合を構成する多くの要素で上回った早稲田。数値で大きな差はない帝京は、パスの場所、セットプレーに改善点

今本貴士

Keyword

 今季開幕から4戦全勝同士の一戦が激しい試合展開になることは、戦前から予想されていた。
 圧倒的なフィジカルと個の力を軸に勝ち進んできた帝京大学。日本代表にも選ばれた選手を擁する早稲田大学。試合結果はある意味、戦前の予想を裏切る結果となった。


◆帝京大学のラグビー。



 帝京大学のラグビーはフィジカルレベルが非常に高く、コンタクトを厭わずに体を激しく当てにいくのが一つの特徴だ。
 しかし、今回の試合の中では「フィジカルの土俵」にうまく立つことができなかったような印象を受けた。

◆質的に帝京大学のラグビーを見る。


 帝京のアタックの基本は、1-3-3-1といった一般的な形に沿ったシステムを見せており、強烈なキャリアーでもある主将、青木恵斗をエッジと呼ばれる外側のエリアに置く形となっている。
 中央エリアはLOの本橋拓馬やNO8のカイサ・ダウナカマカマがキャリアーとなってアタックラインに推進力をもたらし、相手ディフェンスを攻略しようとする意図は見えた。

 今シーズンの帝京の試合運びに共通している印象は、「アタックライン自体はかなりシンプル、一方で個々人の狙いは散っている」感覚だ。
 エッジでのゲーム運びを例に挙げると、主将である青木が激しく体を当てこんでいくシーンが目立つが、それよりも外に立つ選手は、外に回すことを意識しているような動きを見せている。

 帝京のアタック構造と早稲田のディフェンススタイルの噛み合わせが悪いことも影響していたかもしれない。
 早稲田のディフェンスは外側のエリアを守っているWTBまでがきっちり前に食い込むようなディフェンスラインの上がりを見せる。それに対して帝京は、一方向性の下げるパスを基準にシングルラインでアタックすることが多く、結果的にプレッシャーを散らすことができずにゲインラインを下げられるようなシーンが多かった。

 帝京の10番に入っていた本橋が効果的なゲームメイクをあまり見せることができなかったのも少なからず影響していた印象はある。
 本橋は体格と体の強さを兼ね備え、タックルを弾いて前に出ることができる選手だ。しかし、そういったキャリーシーンが目立つほど、パスでゲームを動かすことができなかった印象だ。
 周囲の選手との関係性が整っていないシーンも多く、選択肢がうまく準備されていないフェーズも見られていた。

 また、得意とするコンタクト場面でも全体的に圧倒し切れないシーンが多かった。早稲田の低いタックルに対応が遅れているようなシーンが目立っていた。
 後半こそ徐々にチューニングした結果、低いタックルに対して姿勢を意識的に下げた。点で当たるような形を作るようにしたが、多くの時間では、低く点で刺さる早稲田のタックルに面で当たろうとして前進することができなかった。

 さらに、キックで大きく後手に回ってしまったのも大きい。
 早稲田は服部亮太というモンスター級にキックの伸びる選手がいるため、エリアの確保が容易となった。それに対抗する帝京サイドは、キックの距離で負けてしまうフェーズが多かった。
 また、帝京はカウンター攻撃時にプレッシャーを受ける状況も多く、少しの迷いが不利な展開につながっていたように感じた。

 ディフェンスに関しては力強く相手を押し返すようなタックルが光っていたが、要所要所で単発のタックルになっていたような印象だ。
 ダブルタックルも適宜狙っていたようには見えたが、リズムが少しずれた結果、単発のタックルが連続して相手とコンタクトしているだけの状況にも見えた。

 また、試合全体を見るとディフェンスライン全体が受け身だったような印象も受ける。
 前に出て選択肢や空間を埋めるような動きに物足りなさがあり、浅く素早く展開する早稲田のアタックに差し込まれるようなシーンが多かったかもしれない。
 後半にかけて、熱量を持ってしっかり前に出るディフェンスラインの構築は進んでいたように感じたものの、やや個々の動きに依存したような形でもある。スタイルに対するチューニングは整っていなかったようにも見えた。

2トライを挙げた帝京大FL青木恵斗主将。大学選手権でのリベンジを誓う。(撮影/松本かおり)

◆数値で帝京大学のラグビーを見る。


 数値的な印象で言うと、必ずしも攻められなかったわけではない。キャリー回数はやや上回っており、パス回数を刻めている。
 ディフェンス突破数も早稲田と同水準で担保されている。
 しかし、結果として大きな差をつけられての敗戦となった。

 キャリー数は94回となっており、試合展開に準じた結果になったといっていいだろう。
 気になるところとしては9シェイプ(FWないしは関連する集団がSHから直接ボールを受けるキャリー)にやや偏っているような傾向があることだろうか。
 試合全体で37回のキャリーが9シェイプに伴うものと算出されており、キャリー全体の4割ほどの数値となっている。
 試合展開を見れば分かるとおり、帝京はどちらかというと外側のエリアを使った時の方がうまくゲームを動かすことができていた。もう少し外側を使うラグビーを挟んでも面白かったかもしれない。

 パス回数は109回で、キャリーとの比率を見ると9:10といった数値になる。
 パス比率が低くなるほど、ボールを動かすことなくキャリーしていることを示す。ボールをあまり散らすことができていなかった。
 特徴的なのが、バックスライン内でのボール運びだ。前半はなんと0という数値となっている。
 この数値に関しては定義次第ではあるが、いかにボールを動かすことができていなかったかを示す数値だ。

 また、帝京としては珍しいセットピースの獲得率の低さが目立つ。
 スクラムに至ってはほとんどクリーンにマイボールを獲得できなかったといっていいだろう。
 相手やレフリングとの相性もあるとは思うが、テレビ放映の実況・解説でも触れられていたように、帝京はセットピースも含めたゲーム運びで圧倒するのが常だったため、今回のような苦戦はあまり想定していなかったのではないか。

 タックル成功率に関しては可もなく不可もなく、といったところか。
 決して致命的に低い数値ではないが、試合を見る限り、トライ直前のタックラーが外されたり、そのミスタックルで大きくゲインを許したりと、アウトカムの部分がかなり悪い印象を受けた。
帝京にしては低い数値となっており、改善が必要になる。

◆早稲田大学のラグビー。



 早稲田は日本代表、準代表の経験のある選手が複数メンバー入りしていた。それ以外にも各ポジションに世代トップレベルの選手を揃えた、タレント軍団という印象が強い。
 しかし今回の試合に関しては、タレント力だけではない、組織としての一貫性、強さを発揮した結果が得られた勝利だった。

◆質的に早稲田大学のラグビーを見る。


 早稲田のアタックラインは、対抗戦の途中からSOに服部亮太(佐賀工出身の1年生)が入ったことが非常に効果的に働いているといっていい。
 特にキック戦略の部分において、「服部のキックが異常に伸びる」という一点だけでもゲームを効果的に運ぶことができていた。

 アタックのシステムは基本的に1-3-3-1といったスタイルでポッドを組んでおり、シーンによっては、ポッドを分裂させてフラットに走り込ませる方針をとっている。
 また、12番の野中健吾や13番の福島秀法を擬似的なポッドとしてアタックに組み込んでいるシーンもあり、全体的に柔軟な選手配置をしている。

 5トライを奪った14番の田中健想、トライこそないものの効果的なランを何度も見せた11番の池本晴人といった、外側の選手の突破力、攻撃力に関しても、この試合を語る上で外すことはできない。
 特に池本のランに関して、迷うことなく必要最低限の減速を挟みながら、効果的なランニングコースを選択していた。非常に印象に残った。

 階層構造といった観点では、あまり複雑な構造を何度も積み重ねるようなラグビーをしているわけではなかった。
 ただエッジのラックでも、それが安定しているシーンでは、アタックラインに一定人数、一定の選手が担保し、的確な選択をして攻めていた。
 12番の野中や22番の黒川和音ら、10番としてもプレーをすることができるCTBもきちんと揃っており、さまざまな役割を分担しながらアタックを構築していた。

早大はスクラムでもプレッシャーをかけ続けた。(撮影/松本かおり)

 前述のように、キックゲームという観点では帝京をかなり押し込んでいた。
 服部のキックはインゴールから自陣10mラインを狙えるほどの距離が出る。自陣からのキックでも、確実に次の相手フェイズを敵陣で完結させることができていた。
 キックチェイスもすべての選手が堅実かつ集中力高く仕掛けており、相手の迷いに応じて激しくプレッシャーをかけていた印象が強い。

 ディフェンスも、フィジカルバトルで勝負をすることができていた。
 ダブルタックルにも丁寧に入ることができていて、低さもあり、相手の圧力をうまく抑え込むことができていた。

 懸念される点は、外側のディフェンスの詰める動きに対しては、対応が遅れているような印象があることだ。
 両サイドを張っている田中や池本は、比較的グッと前に出て相手にプレッシャーをかけるような動きをすることも多かった。頭の上をパスで越えられたり、詰める動きに素早いパスで対応された時は、相手に食い込まれるシーンも少なくなかった。

◆数値で早稲田大学のラグビーを見る。


 数値を見た印象として、キャリー数こそ帝京に上位を譲ったが、全体的にゲームを支配するような値を見せている。
 パスをより多く用いてボールを大きく動かし、キックでは服部の伸びるキックでエリアを支配的に確保した。

 キャリー数は86回と試合展開の割に控えめだが、そのキャリー数の中で7つものトライを取ることができたという点で非常に効率が良かった。
 9シェイプが少し多いようにも感じるが一般的な水準にとどまっており、他のキャリー種別と並べると、そこまで特異的な数値とは言えない。
 短いフェイズ数で取り切るものもあれば、フェイズをいくつも重ねて奪ったトライもあった。バリエーションも豊かで、トライをとった選手こそ2人(服部2、田中5)に限られたものの、そこに至るまでのバリエーションに関してはこれからも注視していきたい。

 パス回数は121回と、キャリーとの比率は2:3といったあたりか。
 一般的な水準を示している。極端にボールを動かすとか、あるいはFW戦にこだわったなど、明確な傾向はないように感じた。
 特筆すべき点としては、スイベルパス(FWの集団から裏の選手に下げるように放るパス)や表裏を使ったパスワークが多かった点が挙げられる。
 昨シーズンも主将でHOの佐藤健次が下げるパスを得意としていた。今シーズンは、全体的なパススキルのレベルの高さが目立つ。

 タックル成功率も高い水準となっている。
 後半こそミスタックルが増えた傾向を示しているが、それ以上に勤勉なタックルを何度も見せることで一つのミスタックルがスコアに直結しないようになっていた。
 あえて気になることを挙げるなら、相手の青木主将のような、「圧倒的な個の力でどうにかできる選手」を完全には止め切ることができなかった点だろうか。

◆まとめ


 今回の試合については早稲田の完勝だった。
 どこか一つの要素ではなく、試合を構成する多くの要素で、大なり小なり上回っていたことが勝利につながった。

 ただ、一度負けを経験した帝京に対する怖さはある。
 気持ちの部分としても、戦略的な部分としても、まだ伸び代は多いように感じられる。全国大学選手権に向けての成長が楽しみだ。

ALL ARTICLES
記事一覧はこちら