Keyword
歴代の顔ぶれを見ても、猛獣使いが多いポジションだ。
重戦車と言われるフォワードをいつも擁している伝統校。明治大学のSHは、その猛者たちをうまく操ることが求められる。
紫紺の9番を今シーズン着ているのは柴田竜成(りゅうせい)。開幕から5戦全勝のチームの中で安定したパフォーマンスを見せている。
11月3日におこなわれた関東大学対抗戦の筑波大戦には31-0と快勝した。その試合でも巧みに周囲を動かしてみせた。
5トライを挙げ、相手を完封した80分。柴田は後半22分に退くまで、チームが24-0と大きくリードするゲームをマネージメントした。
ただ満足はしていない。「ディフェンスは良かったのですが、アタックは外側でミスもありました。そこを修正していかないと」
相手フォワードに果敢にタックル、ボールを取り返すシーンもあったし、チームの求めるテンポを生み出す球さばきも良かったが、「キックのミスもあった」と反省した。
「調子は上がってきているので、(続く)帝京、早稲田との試合に向けて、もっと上げていければ」の言葉に、ポジションを任されている自覚がにじむ。
2年生まではAチームでの公式戦出場はなかった。
Bチーム以下の試合でもプレータイムは限られていたけれど、個人練習に励み、地力を蓄えてきたからこそいまがある。
レギュラーだった萩原周がAチームから外れ、自分と同じグレードで時間を共にしたときは、そのプレーを見つめ、アドバイスも得た。
「周さんは、とにかく声を出していました。そういうところが参考になりました」
その声出しについては、神鳥裕之監督から「プレーで目立つ前に、まず声で目立て」と言われている。
サイズもパワーもある大男たちが何人もいる。フォワードが塊となった時、目となり、舵取り役になるのが大事だ。
バックスにも才能あふれる選手たちがたくさんいる。
今季だと2年生の伊藤龍之介や1年生の萩井耀司が10番を背負っている。ふたりとも後輩。「学年に関係なく主張しあっています」と、密な連係があることを伝える。
テンポの創出と仕掛け。そしてラン。バランスの良さを強みとしてきた。より周囲とコミュニケーションが取れるようになったことで信頼を獲得して出場機会を伸ばしている。
強度の高い中でピッチに立てることが多くなったことで、成長のスピードが高まっている。
プレータイムが増えれば、仲間との関係性にも血が通う。例えば一人ひとりのフォワードが、どんな質のパスがほしいのかも分かるようになっている。
「それぞれの特徴を把握して、この人には、ここに放った方がいいとか、そういうことを考えています。あまりハンドリングが良くない人には、しっかり体に放ってあげた方がいい。(LOの田島)貫太郎さんには、『ちょっと内側がいい』と言われます」
秋田県出身。小学校に入る前から秋田市エコー少年ラグビークラブに入り、将軍野中、秋田工とプレーを続けた。筑波大出身の父・久寛さん、兄・凌光さんの影響だ。
兄は高校の先輩でもあり、東海大を経て、現在は三菱重工相模原ダイナボアーズに所属している。同じSHを務める。
柴田自身、秋田工時代はキャプテンを務めてリーダーシップを発揮していた。古豪の看板を背負った経験は、知らぬうちに自分の奥深くで支えとなっているだろう。
同校OBは明治ラグビーの歴史の中で、大きな存在感を放ってきた。しかし現役部員の中で、秋田工出身者は唯一人。自分の姿を見て、後輩たちが八幡山を目指してくれたら嬉しい。ともに紫紺のジャージーを伝統としている。みんな、愛着を感じているはずだ。
夏まで不安定だったチームの成長は、特にディフェンスに表れている。筑波大を完封した後、「組織のところをずっとやってきたので」と、成長の理由を話した。
「夏は守っていても結構食い込まれ、ブレイクダウンでも圧力がかけられませんでしたが、そこが改善されています。しっかりタックルで止め、ブレイクダウンでもファイトできるようになった」
フォワードを奮い立たせる声を、これからも出していく。
シーズンのクライマックスが近づいてくれば、相手もいま以上にプレッシャーをかけてくるだろう。
「その中で(球を)さばくことが求められていると思います。アグレッシブにプレーして、期待に応えたいと思います」
ファフ・デクラーク(南アフリカ代表SH/横浜キヤノンイーグルス)の強気が好きだ。
大学選手権3連覇中の相手だろうが、100回目の早明戦の舞台が国立競技場だろうが、もっと声を出して、仲間も自分も前へ出る。