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11月3日に秩父宮ラグビー場で行われた一戦は、対抗戦の後半戦突入の狼煙を上げる試合となった。
苦戦しながらも質の高いBK陣でトライを重ねてきた筑波大学と、圧倒的な個の力と戦術的要素を高水準で組み合わせている明治大学。試合結果はおそらく観客の予想とはほんの少し違った結果になったのではないだろうか。
◆筑波大学のラグビー。
筑波大学のラグビーをあえて一言で表すなら、「激しく、堅実に」といった言葉が当てはまるのではないか。
突飛な戦術を繰り出すことなく、堅実に、しかし激しく体を当て込みながら、チャンスと見るや一発でトライを取り切る力を持っているチームだ。
ただ今回はの試合は、その「個性」をあまり活かすことができていないように見えた。
◆質的に筑波大学のラグビーを見る。
この試合での筑波のラグビーは、「消極的」という表現が近いように感じた。
詳細は後述するが、単に攻撃性がなかったというわけではない。「相手との力関係、関係値に、あと出しで動きをぶつけていくラグビー」という印象を受けた
筑波も他の大学と同様にポッドを基準としてアタックを組み立てている印象だ。
一方でポッドを階層的に並べ、一つのフェイズの中で表裏を複雑に組み合わせるようなアタックは、そこまで得意としていないように感じる。
優れたゲームメーカーでもある楢本幹志朗を常にアタックの中心に置き、多くのフェイズが楢本を経由した形になっている。
ポッドの形は3人ポッドを中央エリアに2つ配置し、FLの髙木海斗やNO8の中森真翔をエッジと呼ばれる外側のエリアに配置することが多い。
ポッド内での動きはそこまで多くはない。前進することよりも、「そのフェイズでの安定性」を希求するような動き方をしている。
明治の選手のキャリーとは対照的で、体を横に向け、その場で倒れ込むこと前提(それ以上押し込まれないように)でコンタクトしている。
複数人のポッドを配置しない外側のエリアにはWTBの大畑亮太と飯岡建人、FBの増山将がランナーとして備えていた。しかし良いボールを供給することができた回数は、片手で容易に数えられた。
明治のディフェンスはアンブレラと呼ばれる「外側の選手が前に食い込むように上がるディフェンス」をしていた。ラインが浅くなりがちだった筑波のアタックは、一番外のエリアにボールを運ぶ前に深く押し込まれていた。
また外側のアタックライン、具体的に言うと、12番の堀日向太よりも外側のエリアに関して、アタックの選択肢=オプションが少なかったことも苦戦の要因ではなかったか。
どちらかというと、シングルライン気味のアタックラインが構築されていた。ディフェンス視点で見ると比較的マッチアップを絞りやすい。個々の能力で勝負する土俵にのせることができて、ラクだったのではないかと感じた。
一人一人のランニングコースも若干単調で、外に逃げるようなコースが多かった。タックルの精度が高い明治のCTB陣に、かなりやり込められていたような印象だ。
アタックがうまくいかないシーンでは、SHの高橋佑太朗が意図的にテンポを下げる。しかし今回の試合では、「テンポを下げた後の打開策」といった攻略の糸口を見ることができなかった。
アタック構造が全体的にシンプルなため、アタックラインの整備に時間をかけたとしても、相手に同様に時間を与える結果となる。結果、そのあとに効果的なアタックを繰り広げることができたシーンは少なかった。
ディフェンス面を特にタックル成功率の観点で見ると、「及第点ではあるが、スコアされている以上何かしらの問題がある」という表現となる。
特に明治の階層的なアタックに対し、ほとんど対応することができていなかった。長短のパスをうまく投げ分ける相手のアタックに対してディフェンスラインは大きく揺さぶられ、タックルすることなくスコアされるシーンもいくつかあった。
また、相手のリズムにつき合いすぎていたような印象も受けた。
具体的なシーンで言うと、明治が、FWで落ち着かせようとボールを深めに下げたシーンでのディフェンス。相手が大きく前に出てこようとしていないのに、筑波側のディフェンスも少し相手を待ってしまうような状況となっていた。
網羅的に見ると、ディフェンスラインのギャップが大きかったり、それぞれのディフェンスの移動ベクトルがぶれているようなシーンも散見された。
◆数値で筑波大学のラグビーを見る。
試合展開的には圧倒されたといっていい筑波大学だったが、スタッツ的には、要所要所で好勝負を作ることができた可能性も残している。
キャリー回数も多く、パス回数やキックの回数も相手と比べて遜色はない。
オフロードの回数も多く、数値的には十分に戦うことができていた印象も受ける。しかし実際は、「各プレーの質」の部分で負けてしまっていた。
今回は、各項目の数値を中心に見ていきたいと思う。
ボールキャリーは、1試合を通して101回している。
圧倒的なスコア差の割に回数が伸びている。明治と比べても、10回以上多くキャリーしている。
ただ9シェイプが全体で40回となっており、安定感が見られる一方で、パンチに欠けるような結果となったのではないか。
パス回数は151回となっており、キャリーとパスの比率はおおよそ2:3。こちらに関しては、かなり一般的な水準に落ち着いている。
前後半通じて似たような傾向が一貫している。回数的には前半が49回で、後半は102回。試合の様相自体は大きく動いていることが分かる。
前半はエッジまで回し切ってキャリーするシーンが3回ほどしか見られなかったが、後半は10回になった。よりボールを継続し、外まで回すことができたとい見ることもできる。
基本的なスタッツ以外では規律(ペナルティ)の部分に違いが顕著だ。
明治が4回しかペナルティを犯していないのとは対照的に、筑波は10回だった。
セットピースからの連続アタックを得意とする明治に対しこれでは、うまく試合を運べなかったのも仕方ない。
◆明治大学のラグビー。
明治はここまでの4戦を圧倒して筑波戦を迎えており、この試合でも実力を発揮しての勝利だった。
また、後半にかけてのメンバー交代に伴って明治の一つのアタックの形が見えたように思う。それについても触れていきたい。
◆質的に明治大学のラグビーを見る。
明治の良さは、当然「重戦車」と形容される重く大きいFW陣だ。しかし近年は、「圧倒的な個の力が融合しているBKライン」が武器と言うことができるだろう。
昨シーズンまで中核を担っていた伊藤耕太郎(BR東京)、廣瀬雄也(S東京ベイ)、池戸将太郎(BL東京)が抜けたラインではあるが、今シーズンはそれを補って余りある攻撃力を持つBK陣が並んでいる。
特にSO伊藤龍之介が明治のアタックにかなりフィットしてきているのが大きい。夏の菅平での練習試合では、自身が得意とするランに選択肢の重きを置いた結果、展開力が若干落ちていたような様相もあった。
しかし、今回の試合では前半に生まれたトライのように、ランとパスのバランスがかなり向上された。SOからのワンパスの範囲内に複雑なオプションを設ける明治のアタックラインに対し、長短のパスの投げ分けでラインブレイクを生み出していた。
この試合で明治は、普段以上に外側のエリアを狙っているような印象を受けた。
実際、筑波はSOの楢本を外側に置くようなディフェンス構成をしているため、スピードのある白井瑛人などが質的優位性を保ったまま走力を生かし、走り切ることができていた。
全体的なリズムもはやく、相手のフォールディング(ディフェンスがラックを中心に並び直す動き)が間に合わないようなテンポでアタックを継続することができていた。
また個人的に面白さを感じたのが、後半に萩井耀司が入ってからのアタックラインだ。
10番の伊藤龍が残っていたために「ダブルスタンドオフ」のような形でのライン構成となり、2人で交互に階層構造を作りながらアタックを繰り出した。
そのため、パスを重ねるごとにオプションが増えていくような、一つのフェイズの中に豊富なバリエーションのあるアタックを見ることができた。
ディフェンス面では主にバックファイブ(LO・FL・NO8)の選手が激しく体を当てこんでいた。
意図的にチョークタックル(相手を掴んで倒れ込ませない)を狙っているような印象もある。筑波の選手は、倒れ込む前提でキャリーしてくるため勢いを失いがちで、その選手たちを抱え込むようなシーンが目立っていた。
結果、筑波のアタックにリズムが出ることはなかった。反則にならないように注意しながらも、しっかりと相手にプレッシャーをかけることができていた。
バックスラインのディフェンス精度も、菅平での試合からかなり改善されていた。特に中盤でボールが動いている時の詰める判断の水準が向上していた。
筑波は基本的に外側に強力なランナーが立っており、余裕のある状態で外まで回されるのは好ましくない。
この試合ではラストパスに至る直前の選手に対し、効果的なプレッシャーをかけることができていた。全体的なディフェンスのシステムと合わせて「ハマっていた」。
◆数値で明治大学のラグビーを見る
前述したが、明治は今回の試合で数値的に圧倒していたわけではなかった。
細かい部分のちょっとした数値の違いが、積み重なって大きなスコア差になったように感じる。
キャリー回数は全体で85回と、筑波に比べると若干少ない。
キャリー数はポゼッションをある程度反映する。明治の方がボールを持つ時間は短かった可能性もある。
しかしディフェンス水準が非常に高く、キャリー数で上回られても圧倒的なスコア差に繋げることができた。
カテゴライズできるキャリー数としては9シェイプでのキャリーが最も多く、1試合の中で25回実行されている。
ただ比率的には、そこまで多くはないという見方もできる。傾向的にはポッドに依存しないキャリーが前後半合わせて32回。全体的にボールを散らしていた印象だ。
パス回数は試合を通じて145回だった。キャリーとパスの比率は筑波に比べると、若干パス比率が高い。
当然ラックから9シェイプに渡ったパスが形式上最も多かったが、バックスラインへ供給されたボールやアタックライン内で動いた回数も十二分に多く、先ほど述べたように意図的に散らしているのだろう。
また、特に数値的に圧倒していたのはタックル成功率だ。
手が届かずビッグゲインされた場合はカウントの対象外にはなるが、タックルができる状態でのタックル成功率については94.3%と、非常に高水準の数値を示していることがわかる。
相手を待ったり、受け止めるようなタックルだけではなく、相手に刺さるようなタックル、グッと前に出て詰めるタックルに関してもこの水準の成功率を残せたことは極めて素晴らしい。
◆まとめ
筑波が完封され、極端ではないがスコア差も開いた試合。
スコア差以上に両チームの実力差を感じた一戦となった。
筑波は苦しい状況を打開するようなシーンも見られたが、全体的なディテールの部分の詰めが足りず、結果的にはスコアすることができなかった。
明治は帝京、早稲田という好敵手との対戦を残している。この試合のような水準のプレーを継続、または向上できれば、対抗戦の優勝もあるだろう。
両チームの今後の熱戦に期待したい。
【プロフィール】
今本貴士 / いまもと・たかし
1994年11月28日生。九段中等教育学校→筑波大学。大学・大学院での学生トレーナー経験を経てNECグリーンロケッツでアナリストとしてのキャリアをスタートする。NECグリーンロケッツ東葛で2年間活動し、退団後はフリーアナリストとして個人・団体からの依頼で分析業務に携わる。また、「UNIVERSIS」という大学ラグビー分析専門の連載をnoteにて執筆している。