logo
声と姿勢で開いた未来。生田旭(東洋大1年)
165センチ、72キロの1年生。強気で人懐っこい。(撮影/松本かおり)

声と姿勢で開いた未来。生田旭(東洋大1年)

田村一博

 自分を見てくれている人がいる。
 そう知った時の喜びと湧き出たエナジーを忘れない。

 開幕戦で大東大に惜敗も、それ以降は調子を上げている東洋大。10月27日の関東学院大戦にも56-26と勝ち、今季5戦を終えた時点での成績を4勝1敗とした。

 関東学院大戦でスクラムハーフとして先発した生田旭(いくた・あきら)は1年生。
 ルーキーイヤーにも関わらず、今季の全試合に出場し、東海大を33-26と下した前戦から9番を背負っている。

 國學院栃木高校時代はベンチスタートが多く、プレータイムは少なかった。
 同期で高校日本代表候補、明大に進学した小倉光希矢の背中を追っていた。

 東京都中央区出身。ゲーム好きだった少年は、父の勧めもあって小4のときに江東ラグビースクールに入り、中学でもプレーを続けた(江東ジュニア)。
「ラグビーは友だちがたくさんできる」と楕円球との出会いに感謝する。

 國學院栃木は、FWの強いところでプレーしたくて進学した。
 強豪校だ。先輩にも同期にもうまい選手がいたから、吸収し、実力を蓄えた。
「吉岡先生(吉岡肇監督)には人間力をつけてもらいました」と話す。

普段から学年に関係なくコミュニケーションをとる。「スクラムハーフなので。留学生の先輩たちも優しいです。試合中はアキと呼ばれています。マタリキ(チャニングス/LO)さんのことは、試合中はマタ。短い言葉で意思疎通できるようになっています」。(撮影/松本かおり)


 高校3年になって、小倉からバトンを受けてプレーする時間は延びたけれど、強い大学でプレーする希望はあっても、それが実現するか不安だった。
 そんなとき、東洋大を率いる福永昇三監督が栃木のグラウンドに現れた。

 福永監督が練習の見学に行った時のことを思い出す。
 小倉の存在は知っていた。しかし、もう一人のSHに目を奪われた。
「第一印象でエナジーを感じました。アタック・ディフェンスでの声や姿勢が印象的で、輝いて見えた」
 吉岡先生が「さすがだな。いいところに目をつけた」と、ニヤリとした。

 生田自身、「ウエートなども含め、練習への取り組み方などを見てもらったようでした。声をかけてもらい、(過去に)そんなことなかったので感激したし、ついていこうと思いました」と話す。

 東洋大に進学してよかった。
 高校時代に続いての寮生活も気に入っている。「凡事徹底」のカルチャーも気に入っている。
「留学生も一緒に掃除をして、道具を大事にするクラブ。だから地域の方々にも応援されると思うし、それがクラブの力にもなっていると感じています」

 もともとパスワークや球さばきには自信があったが、大学では体を張ったプレーができないと試合には出られないと気づき、入学後にウエートトレを増やした。
 タックルもバインドの強さなどを磨いたからいまがある。

 以前はどこか不安を抱えながらプレーしていた自分が、試合出場を重ねることで経験が増え、自信を持って判断し、プレーできるようになったと感じている。
 関東学院大戦でも機を見て自ら走るシーンがあった。FWを鼓舞する声が響いていた。

10月27日の関東学院大戦に56-26と勝ち、4勝1敗とした東洋大。大学選手権出場が近づいてきた。(撮影/松本かおり)


 チームは「全員でリンクしてプレーしよう」と意識して戦っている。スクラムハーフはその中で、FWを動かし、 SOと一緒にゲームをコントロールするポジションだ。アタックもディフェンスも、チーム一丸となって動けたことに手応えを感じている。

「ダンプ!」
 FWが結束して前に出る時に叫ぶ言葉だ。
 8人の大男たちを前にドライブさせながら、モールなら、イリーガル気味に入ってくる相手を剥がすために体を当てることもある。
 その一方でBKの声を聞き、攻める方向を決める。

「相手のFWに舐められないようにしないと」の言葉から強気が伝わる。
 チームを前に出しながら、自分もタックルで刺さり、走る。SO天羽進亮も、「旭が臨機で放ってくれたパスでチャンスになることもよくあります。普段から周囲とコミュニケーションをとっているので、試合中の厳しい状況でも周囲と連係をとり、判断できている」と信頼を置く。

 シーズン終盤に向けて、「もっと一貫性のあるプレーをしないといけない」と自覚する。
「練習からもっとコミュニケーションをとって、FWを前に出したり、ディフェンスでもカバーリングして、誰よりも走らないと」
 スクラムハーフとして、「頼られるようにならないといけない」と目標を定めている。


ALL ARTICLES
記事一覧はこちら