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「ラグビー、楽しいですね」。姫野和樹[日本代表]
2017年11月4日の豪州代表戦で初キャップを獲得以来、32キャップを積み重ねた。187センチ、109キロ。中部大春日丘→帝京大。(撮影/松本かおり)

「ラグビー、楽しいですね」。姫野和樹[日本代表]

田村一博

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#日本代表

 本心だ。
 報道陣に囲まれての最初の言葉は「ラグビー、楽しいですね。そのひと言に尽きます」だった。

 10月19日、日本代表の宮崎合宿では実戦的練習がおこなわれた。
 その練習後、姫野和樹(FL/NO8)が取材に応じた。

 2023年9月、10月におこなわれたワールドカップで日本代表の主将を務め、リーグワンでも戦い続けた後、長く痛めていた肘の手術に踏み切った。
 エディー・ジョーンズ ヘッドコーチ(以下、HC)も、手術とリハビリを兼ねた休養を取ることを理解してくれた。

 だいぶ伸びるようになりました。
 両腕を上にあげる。右腕は左と比べると、まだ真っ直ぐにはならないけれど表情は明るい。
 2021年、スーパーラグビーのハイランダーズでプレーした際に痛めたものが慢性的になっていた。

 2017年に初キャップを獲得して以来、代表と国内シーンの両方で活動を続けてきた。痛めた箇所が出ても、なかなか治療に踏み切れなかった。「どっかのタイミングで(手術を)したかった」。

 W杯と、その直後の国内シーズン。多くの目が集まる時期を終えておこなった体のメンテナンス。
 やってよかった。
「リフレッシュできました。ラグビーが楽しいと思いますし、代表への思いも強くなった。いい時間を過ごせたと思います」

2022年10月29日、国立競技場で戦ったオールブラックス戦では31-38だった(FLで出場)。「勝つ自信を持って挑むことが大事」。(撮影/松本かおり)

 指揮官も交代し、スコッドの顔ぶれも随分変わった。初対面と言っていい選手も多い。そんな環境も刺激になっている。
「最近まで(代表には)先輩がたくさんいて、自分は後輩のような感じ。それが普通だったので、今回合流してみてチームのフレッシュさを肌で感じました」

 自分に期待されていることは理解している。
「このチームで、自分に与えられている役割や責任は、すごく大きなものと感じました。エディーさんも、リーダーシップを求めていると思います」

 関東でのFW合宿を経て宮崎へ。この代表チームに加わって日は浅いものの、自分がどう振る舞うべきか意識高く過ごしている。キャプテンではなくとも、周囲を引っ張る思いは強い。
「ベストなプレーヤー、ベストな人間であり続けられるように努力したいと思っています」

 自分自身に負けない。「それを自分の中でテーマとしてやっています。そして、誰に対しても負けない」。
 経験値の高さは、慢心のもとになる可能性もあると危惧する。
「歳をとると、自分の経験値にあぐらをかいてしまいがちだし、そうなると競争力が落ちてしまいます」

 自分を煽っていこうと思う。
「それが、チームが成長するための相乗効果を生めばいいな、と思っています」と話す。

 掲げる『超速ラグビー』の習熟度に関しては、チームの仲間の方が先を行っている自覚があるから、まずは理解を深め、実践を繰り返す。
「頭の中では理解していても、みんなと比べたら足りない。なので、練習も最後まで残っています」とピッチを上げて追いかける。

 新しいスタイルへの取り組みではあるが、方向性は、歴代の日本代表が引き継いできたものと大きく違わないと考えている。
「ラグビーのディテールは変わっているかもしれませんが、自分たち(日本ラグビー)の得意とする分野、ストロングポイントを活かしながら戦うのはこれまでと変わらないと感じています」

「スキルでありスピード、それに加えて、判断や体を動かす速さを追求していくのが僕たちのラグビー」
 その中で、自分が秀でるブレイクダウン周りの仕事やタックル、運動量、ボールキャリアで、「自分の持てる能力を100パーセント出し切る。それが自分の仕事」と言う。

 10月26日のオールブラックス戦から始まる秋のテストマッチシリーズ(フランス、ウルグアイ、イングランドと対戦)に関して、「素晴らしい相手ばかり」と認めつつ、「全部勝ちたい」と上を見る。

パッションで周囲に影響を与える。(撮影/松本かおり)

 大事なことは自信を持って挑むこと、と考える。
 オールブラックスは当然強い。しかし、大きく見てばかりではだめだ。
「自分たちのラグビーだって素晴らしい。タレントも持っている」
 自分たちへの自信にフォーカスして、相手のハカと対峙しよう。日本ラグビーには、2015年W杯の南アフリカ戦勝利、2019年大会の8強と、積み上げてきたものがあるのだから。

 ただ、根拠なき自信では勝てない。
 指揮官から「全然ダメ」や「スタンダードが低い」と指摘されてからギアを上げていては成長のスピードは上がらない。
 日々、より良きチームになっていくことが大事と知っているから、知見をチームに伝える。

「コーチに言われてやるのではなく、自分たち自身でスタンダードを高く保ちながらやっていく。それが重要と思っています」
 発する言葉は、特に若い選手に響く。PR茂原隆由は、「たきつけてくれる」と表現した。
「(練習でも)入りから(力を出し切ろう)、と」

 7月に30歳になった。
 2027年のW杯は視界に入れているが、「足もとを常に見て、(各活動ごとに)区切りをつけながら、地に足をつけて進んでいきたい」と話す。

「自分が常にベストな人間であることが大事」と繰り返し、「それが(自然と、次の)ワールドカップにつながると思っています」と続けた。
 超速ラグビーが楽しみだ。
 その中で、もっと自分を進化させる。

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