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ホスキンス・ソトゥトゥの乱!? NZ残留か。海外か。
2022年10月、日本代表と戦った時のソトゥトゥ。(撮影/松本かおり)

ホスキンス・ソトゥトゥの乱!? NZ残留か。海外か。

松尾智規

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 ここ最近ニュージーランド(以下、NZ)国内は、様々なスポーツの行事で盛り上がっている。
 NZ国外で開催されているアメリカスカップ(国際ヨットレース)、クリケットのテストマッチが、連日スポーツニュースで大きく取り上げられている。

 そして、NZ国内のサッカーも徐々に注目度が増している。今年のはじめ、同国2チーム目となるプロチームのオークランドFCが誕生(元オールブラックスのアリ・ウイリアムズがオーナー)。記念すべき初代キャプテンに元日本代表DF酒井宏樹が選ばれた事もスポーツニュースを賑わせた。
 Aリーグ(オーストラリアの大会に参加)の試合の開幕戦が10月19日で盛り上がっている。

 NZの国技ラグビーを見てみると、NPC(NZ州代表選手権)も決勝トーナメントに入っている。そして10月17日、NZ代表・オールブラックスが日本に向けて出発した事は、上記のいろんなスポーツニュースの陰に隠れる形となった。

 オールブラックスが出国した前日(10月16日)にNZ国内のメディア、ラグビーファンを騒がせることが起こった。
 騒動の主役は、今回の遠征のメンバーから漏れただけでなく、今年一度もスコッドに呼ばれていない選手だ。
 その名はホスキンス・ソトゥトゥ。ポジションはNO8である。
 NZ代表14テストキャップを持ち、今年のスーパーラグビー・パシフィックでトライ王(12トライ)のタイトルを取っただけでなく、21年ぶりのブルーズ優勝に大いに貢献した。同大会の最優秀選手にも選出された。
 この活躍ぶりは、2022年11月以来、遠ざかっていたオールブラックス復帰に明るい材料となったはずだ。
しかし、今年の6月に発表された今季のオールブラックス始動のメンバーの中にソトゥトゥの名前が見当たらなかった。誰もが代表復帰と思っていただけにNZ国内では、当然のように物議を醸した。

 今季2回目のスコッド発表 『ザ・ラグビーチャンピオンシップ(TRC)』でも、引き続きソトゥトゥの名前は挙がらなかった。
 ソトゥトゥよりも評価されて代表に選ばれたのは、チーフスで今季スーパーラグビーデビューを果たしたFL/NO8のウォレス・シティティだ。
 デビューとなったフィジー戦で良いパフォーマンス。その後、世界チャンピオンの南アフリカ代表 ・スプリングボックス、そしてオーストラリア代表 ・ワラビーズ相手に背番号6を付けて見事な活躍をした。
 シティティの活躍により、スコット・ロバートソン ヘッドコーチ(以下、HC)のセレクションが正当化されたと言ってもおかしくない。

◆今季3度目の代表見送りのソトゥトゥの目は海外へ⁉


 TRCと同時期にNZ国内で開催されているNPCでのアピール次第で、ソトゥトゥの年末遠征メンバー入りの可能性も残されていた。
 10月7日にオールブラックスの北半球遠征メンバーが発表された。ケガで長期離脱していたSHキャム・ロイガードの復帰でノア・ホッザムと入れ替わった以外は、すべて据え置きのメンバー。それは、再びソトゥトゥのスコッド入りがないことを意味した。今年に入り、3回も代表選出からふられた形だ。

 数年前にNPCオークランドからカウンティーズ・マヌカウに移籍したソトゥトゥは、スーパーラグビーほどの派手な活躍はなかったものの、今季のNPCでも同チームを準々決勝まで押し上げる原動力となっていた。
 しかし、今季の締めくくりとなる北半球遠征にも呼ばれなかった。今年からオールブラックスのHCに就任したロバートソンをはじめとしたセレクター陣は、そのパフォーマンスに満足していない事になる。

2024年2月のクロスボーダーラグビーにブルーズの一員として参加した。(撮影/松本かおり)

 オールブラックスのスコッド発表翌日の10月8日、オールブラックスXV(オールブラックスに次ぐシニアチーム)の遠征メンバーの発表があった。そこにソトゥトゥの名前があった。
 昨年は正代表にもXVにも呼ばれなかったことを考えれば、再び代表復帰へのアピールの場を得たという解釈もできる。
 ソトゥトゥ自身はどうとらえただろう。

 メディアを騒がせたのは、遠征メンバー発表から約1週間後だった。
 オールブラックスが日本へ出発する直前の10月16日、ケガ人の離脱が発表された時だった。イーサン・ブラカッダー(ふくらはぎ)、ダルトン・パパリィイ(ハムストリング)、ルーク・ジェイコブソン(親指骨折)。すべてFW第3列陣の離脱。これらのケガ人のカバーとしてスコッドに呼ばれたのは、FL/NO8ピーター・ラカイ、そしてLOジョッシュ・ロードの2人だ。
 FW第3列3人の離脱で、同ポジションのカバーとして呼ばれたのはラカイのみ。ここでもソトゥトゥの名前が挙がらない。NZ国内のメディア、ラグビーファンは驚きを隠せなかった。

 その発表から間もなく、あるNZメディアの人物が文頭に爆弾マークを付けてSNSに投稿した。
「ホスキンス・ソトゥトゥが膝の故障のため、オールブラックスXVのメンバーから離脱した。来週末のオールブラックス対日本への出場を見送ることを意味する。彼はまだNZラグビーと契約しているが、すぐに移籍できるでしょう」
 その文章のうしろには、イングランド、フィジー、NZの国旗の絵文字が並んでいた。

「見送る」の解釈によっては、ソトゥトゥが辞退したと伝えるような投稿だけに騒がしくなった。
 この先ソトゥトゥがNZ代表として試合に出場しなかった場合、来年11月にイングランド代表、フィジー代表となれる権利を得る事がここ数か月話題となっていた。父はフィジアン。母はイングランドの出身だ。
 物議を醸したSNSの投稿が、公式からの発表ではなかっただけに、憶測が憶測を呼んだ。NZ国内のスポーツトークバックラジオでもすぐに取り上げられザワついた。

 外野が騒がしくなっていた事もあり、ロバートソンHCが記者会見でしっかり話す必要が出てきた。
 ソトゥトゥがケガ人のバックアップのメンバーに入っていないことを記者から聞かれる前に、ロバートソンHCは、「ホスキンス(ソトゥトゥ)を(遠征に)連れて行く予定だったが、彼が怪我をしていたので、ここ数日でそれを検討してきた」と話した。そして、「ホスキンスは過去4週間、ヒザを痛めながらもプレーしていた。カウンティーズ(NPCのチーム)とオールブラックスのメディカルチームは、このツアーを乗り切るのは彼にとって無理なステップだと判断した」と続けた。
 さらに、ソトゥトゥが休養か手術かの選択肢を検討しているということもほのめかした。その説明に、メディアはある意味納得した感じだった。

 囲み会見の中で「ソトゥトゥ本人と他国の代表資格の事について話したことはあるか」という質問が投げかけられた。ロバートソンHCは「その話は彼とはした事はない。ソトゥトゥは2026年までNZラグビーと契約をしている」と答えるも、その話に触れたくない様子にも見えた。
 ただ契約が残っていても、移籍、または契約を解除する前例は、これまでにもある。この先どうなるかは分からない。

 そんな矢先に今度は、「元オールブラックスのホスキンス・ソトゥトゥを狙うプレミアシップの2クラブ」という見出しの記事が出てきた(RUGBYPASS)。

 このサイトの一部を抜粋すると、「ホスキンス・ソトゥトゥは、オールブラックスからの代表チーム切り替えについてイングランドのスティーブ・ボースウィック監督と話し合った後、プレミアシップの強豪であるサラセンズとレスター・タイガースの注目を集めている」となる。

「オールブラックスのスコット・ロバートソンHCは、フィジー代表としても出場資格を持つソトゥトゥは膝を痛めているとの見解を示している。しかし、彼がイングランド代表でのプレーについて、ボースウィック監督と話し合ったことは公然の秘密である」ともあり、非常に興味深い内容の記事だ。

 前回の騒動は、南アフリカ遠征の前日に発表があった、オールブラックスのアシスタントコーチだったレオン・マクドナルド氏の辞任騒動に続いて、今回も遠征に飛び立つ直前に出てきた。発表のタイミングも興味深い。

 ソトゥトゥ側のコメントが出てこない事には真相は分からない。
 必要とされる場所でラグビーをしたいと思う事は、選手として当然だろう。イングランドを選択をしてもおかしくない。そうなれば、オールブラックスにとっては、厄介な存在となる事は間違いない。

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