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今季の早稲田の右センター、福島秀法の存在感が一戦ごとに高まってきた。
福島の縦への突進力は、早大の大きな武器となり、アタックの要になりつつある。福島も自分のプレーに自信を持ち始めている。
「自分の強みである縦への突進力が、“13”になって発揮できてる感じです」
逸材という呼び声が高かっただけに、1年生、2年生での出番がなかったことに、「どうなっているんだ?」という疑問が湧いていた。直接、福島にその要因を訊ねてみると、予想もしなかった答えが返ってきた。
「自分のラグビーの理解力が低くて」
なんと。
「高校時代まで、戦術的なラグビーをほとんどプレーしたことがなかったんです。早稲田に入ってみたら、動きのルールや原則が結構あって、それに戸惑ったというのが大きかったですかね。いろいろ覚えなきゃと思っているうちに、自分の長所を発揮できなくなっていって……。プレーが窮屈になっていました」
福島自身、「スケールの大きさ」が自分の持ち味だと思っていたが、いつの間にか、こじんまりとしていた。
「1、2年生の時はラグビーを考えすぎてたかもしれません。難しく考えすぎたというか。もともとFBでしたが、WTB、CTB、どこをやってもしっくりこなくて。やっとです。今年に入ってから、『自分には13番が合ってる』と思えるようになったのは」
春の試合から存在感を示してはいたが、夏に菅平で行われた帝京大との試合では、何度かラインブレイクを見せ好機を作った。
「13番は、14や15よりもボールタッチの回数が多くて、面白いです」
対抗戦に入ってからも、2戦目の日体大戦でもラインブレイクからバックフリップのオフロードパスを繰り出すなど、多彩なスキルも見せた。そんな感想を伝えると、福島本人は照れた様子。
「いやいや、そんなことないです。もともとFBですから、パスは苦手なんです。でも、オフロードはスクールの時からやってました」
◆急きょ日本代表の合宿へ。
福島はラグビー一家に生まれた。
父・賢一さんは鹿児島の鶴丸高校から鹿児島大でもラグビーをプレーした。
福島自身は片江ジュニアラガーズからラグビーライフをスタート。中学では、かしいヤングラガーズで2018年に行われた太陽生命カップで準優勝。このとき、決勝で戦った吹田ラグビースクールには、早稲田で後輩となる矢崎由高がいた。これだけの実績があり、しかも福岡市に住んでいたら、進学先で東福岡が浮上してもおかしくはない。
「たしかに、東福岡もちょっと考えましたけど、兄が修猷館でラグビーをやっていたので、自然と修猷館に行きたいと思って」
お兄さんの孝明さんは、現在、大分大学医学部ラグビー部でFBを務めている。
「兄は、脚速いですよ」
そして、お姉さんが早稲田佐賀から早稲田大学に進学していたこともあり、アカクロに惹かれるようになった。
「早明戦をスタンドで見た時、みんなが早稲田の校歌をうたっていて、『ああ、早稲田っていいな』と思いました。高1の時には早稲田に行きたいと考えてましたね」
ひょっとしたら、お姉さんは弟にアカクロを着てほしくて、英才教育を施していたのかも。だとしたら、それは大成功だったことになる。
早稲田に入ってから悔しい思いを抱えた2年間。3年生になってようやく「13」という自分の居場所を見つけてからの出世は早かった。春からの勇躍はエディー・ジョーンズの目に留まり、6月23日には、トレーニングメンバーとして日本代表の合宿に参加した。
「急に招集されたんです。6月22日に韓国で高麗大との試合があって、みんなはそのまま東京に戻りましたけど、僕だけ違う空港にタクシーで向かって福岡に飛び、そのまま合宿に参加しました。これまでテレビで見てた選手たちと一緒にプレーできるのはうれしかったですし、不思議な感覚でしたね」
今季、早稲田ではセンターでプレーする時間が多くなっていたが、日本代表ではウィングのポジションでの招集だった。
「代表に合流してみると、緊張感がありましたね。練習に入る前の空気がピリピリしていて。ウェイトトレーニングをするにしても、リーグワンでプレーしている選手たちは、ものすごく準備に時間をかけていたのが印象的でした。あと、練習が始まる前まで、みなさんネガティブな言葉が出ていたのに、練習に入った途端、ポジティブな言葉がポンポン飛び交うんです。あの気持ちの切り替え力みたいなものは参考にしたいと思いました」
合宿中は根塚洸雅(スピアーズ)と同じ部屋になった。
「根塚さん、優しくしてくださって、サインプレーとか教えてもらいました。すごく助かりました」
メンバーに残ることはできなかったが、チームから離れる時には、ジョーンズHCからポジティブなフィードバックをもらった。
「アタックでのランバランスが良いですよ、と言ってもらいました。練習に対する準備だとか、ディフェンス面での課題はあったんですが、アタックでプラスの評価をしていただいたのがうれしかったです」
◆パスのもらい方に工夫。
早稲田では13番に戻って、対抗戦に突入。10番服部亮太、12番野中健吾、13番福島の布陣はかなり強力だ。
「服部はドカーンとロングキックを蹴れますし、野中は10番も12番も出来てキックも蹴られるので、いまの早稲田にはSOがふたりいる感じです。僕も含めて、みんなよく喋るんですが、野中が関西弁でいろいろ喋ってきます。まだ、関西弁には慣れないです(笑)」
今年の早稲田のBKのフロントスリーは、どうやらにぎやかな面々が揃っているようだ。
戦術的には、夏合宿からキッキングゲームを丹念に準備している。単にキック力に頼るのではなく、キックチェイスを組織的に行って、相手にプレッシャーをかける。日体大戦、青山学院大戦では、その効果がすでに出ている。
「キッカーが服部、野中、矢崎といるので、僕が蹴る必要はないので楽です(笑)。自分としては、13番としての動きを磨いていきたいですね。ギリギリのタイミングでボールをもらうのが好きなので、パスのもらい方を工夫して、空いているスペースに走りこむ。それを意識していきたいです」
対抗戦に入ってから好調の早稲田だが、油断はないと福島は話す。
「春に負けた帝京に、夏合宿で勝ったのはチームにとってものすごく自信になりました。でも、天理には負けてしまって。天理の留学生選手たちのアグレッシブさに受けに回ってしまった感じでした。留学生はフィジカルも強いし、オフロードのテクニックもある。そういう経験が出来たのが、夏合宿で良かったです。天狗にならずに済んだので」
11月に入ると、帝京、筑波、慶應、そして12月には第100回早明戦が待っている。福島の突破力が早稲田の鍵となるのは間違いない。
「ラインブレイクばかりじゃなく、ディフェンスでのビッグタックル、ターンオーバーにもどんどん絡んでいかないとダメです。やらなければいけないこと、いっぱいあります」
福島のイメージとしては、試合の流れを変えるインパクトプレーを披露したいようだ。それもそのはず、憧れの選手は、あのジョナ・ロム—だという。
「初めて知ったラグビー選手がロム—でした。1995年のラグビーワールドカップでの突進、ものすごくインパクトありました。すごすぎますよね」
そういわれれば、ヘアスタイルがどことなくロムーに似ているかも……。
福島秀法、早稲田にどれだけのインパクトをもたらせるだろうか?