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突然だが、読者の皆さんはトップイーストリーグについてどの程度ご存じだろうか。
おそらくこの原稿がジャストラグビーでトップイーストについて初めての記事になるのではないかと思うので、少々その特色について説明してから、9月からの開幕試合の一つ、Bグループのクリーンファイターズ山梨対ライオンファングスの試合の様子をお伝えすることにする。
国内最高峰のリーグは言うまでもなくリーグワンで、3つの地域で開催されるトップイースト、ウエスト、キュウシュウはリーグワンに次ぐ社会人リーグと理解していただいて良いだろう。
ただし、リーグワンに次ぐリーグと言うのは実は正確ではなく、この2つのリーグの間には入替戦のような連動した昇格降格の制度はない。基本的にリーグワンはホームスタジアムを確保すること、観客動員数の確保、チームが事業機能を持つといった条件にかなうチームのみが参加している、いわばプロチーム志向のリーグだ。
一方の3地区のトップリーグは企業チームが中心となり、興行面よりも企業や地域のスポーツ振興の一環として活動している、よりアマチュア色の強いリーグとなっている。
今回レポートするライオンファングス(千葉市原市)とクリーンファイターズ山梨(山梨甲府市)はともに「トップイーストらしい」チームだ。
ライオンファングスは洗剤やはみがき粉などでお馴染みのあの「ライオン」の企業チームだ。所属している選手もライオンの社員が中心となっている。
クリーンファイターズ山梨は山梨の地域クラブチームで一般社団法人化していて母体となる企業を持たない。選手はそれぞれが違った職場から集まってプレーしている。立場は多少違えど、いずれも選手にとって仕事はラグビーと同じくらい重要だ。このことについて、ライオンファングスのキャプテン石川恵韻(専修大学)は次のように語った。
「ライオンという会社を選んだのは、ラグビーができると言うことはもちろんですが、ラグビー部の先輩たちが営業として活躍されていることも魅力でした。仕事も100%できる環境で、なおかつラグビーも100%できる環境がライオンだったということです。」
一方の山梨にはちょっとユニークなキャリアの選手がいる。NECグリーンロケッツ、ヤクルトレビンズを経て今年から山梨に移籍した足立匠(流通経済大学)だ。足立は山梨県内の農業法人で野菜作りを生業としている。
「企業に身を置いて働くうちに農業をやりたい、という思いが強くなり知人を頼って山梨に移住しました。そこで縁あってまたラグビーができることになり、こんなに嬉しいことはありません。」
山梨は他にも地元の銀行員、広告代理店、半導体関連企業、自営業など職種も業種もさまざまだ。
また、山梨は外国人選手も多数所属していて、地元山梨の企業で活躍している。地方の人手不足もあって、選手を社員として迎え入れてくれる企業も増えているという。これが山梨の強さになってゆきそうである。
このようなさまざまな背景を持った選手が所属する2チームが9月8日、トップイースト第1節で対戦とあいなった。
試合会場は巨大なパイプやタンクの立ち並ぶライオン千葉工場内のラグビー場。これもまたよきアマチュアイズムを感じさせる会場だ。
「Go!Go!ファングス!」
手作りのプラカードを手に、精一杯声を張り上げる地元応援団がいる。ライオンは地域貢献活動にも力を入れているが、ラグビー部はその活動の担い手でもある。
ライオンがおこなっている東日本の復興支援活動はラグビー部が会社を代表して活動に参加しているという。
こうした企業の姿勢を象徴するチームだからこそ会社からも地域からも応援してくれるファンがグラウンドに来てくれる。まさにアマチュアイズムの理想的なチームといえよう。
さて、肝心の試合のほうをみてみよう。
たったいま「リーグワンに昇格する制度はない」と言ったばかりだが、2024年シーズンはリーグワンが加盟チーム枠を増やす方針をとったため、ヤクルトレビンズ、セコムラガッツがトップイーストから昇格し、トップイースト各グループのチーム数調整のためライオンは今シーズンからBグループでのプレーとなる。その大事な初戦である。
一方の山梨は、昨年Bグループ5チーム中4位という成績だったが上位2チームがAグループとなったため、昨年の成績ベースでは富士フイルムに次ぐ2番手の実力ということになる。
2021年にAグループから陥落して以降、悲願のAグループ復帰を狙えるシーズンとしたいところだ。
「リーグ戦は本当に初戦が大事。何がなんでも勝つことで、シーズンの雰囲気が決まる。」山梨のヘッドコーチ小池善行は試合を前に意気込みを語った。
「今年のチームはかなりタフなチームに仕上がっている。特にラグビーに対する気持ち、苦しくてもワンチームになることで乗り切れる力は去年よりもついた。」
キックオフ早々から主導権を握ったのは山梨だ。先制のPGを決めるとすぐに梶原僚太(関東学院大学)が飛び込んで最初のトライ。その後もシオシファ・トル(大東文化大学)、マパカイトロ・パスカ(神戸製鋼、ホンダ)などのトライで29-13とBグループの洗礼をライオンに浴びせる。
しかしこの日の千葉市の最高気温は33.7度と、ラグビーをやるには少々、いやかなり厳しい気温だ。後半に入るとさすがに運動量が落ちてくる。ここをライオンは逃さない。
「FWでもBKでも、全員が動けることが特長、アタックチャンスは逃さないチーム」(石川)と言うだけあって、ほんの少し山梨のディフェンスの戻りが遅いと見るや、FW・BK関係なく山梨のディフェンスラインを切り裂く。
後半開始5分であっという間に飯塚稜介(専修大学)、江良楓(立命館大学)が2本のトライを決め逆転。
傍目から見ていて「こうしてチームは負けてゆく」というパターンを見ているようで流れは完全にライオン、後半の前半は山梨にとって絶望的な時間帯だった。
しかし今年の山梨はここからが違った。リザーブの投入を機にまた動き出し、28分にはクリスチャン・ロアマヌ(東芝、日本代表キャップ16)のトライで36-39とワントライでの逆転に迫る。ロスタイムに入っても山梨の猛攻は続き、ライオンは自陣を脱出できない。
ついにモールを押し込んでロアマヌが逆転のトライ、そしてノーサイド。41-39、山梨執念の勝利だった。
「実は今年のチームはチームビルディングに力を入れていて、ホットドッグ大会や、チームでバーベキューをやったりしてきました。これもチーム力強化の大切な活動なんです。」(小池)
さまざまな職場、出身地から集まった山梨は、どうしてもコミュニケーションの不足がおこりがちだという。それを補うための工夫というわけだ。
後半貴重なトライを上げたロアマヌは、トンガ出身でお国料理のブタの丸焼きをふるまう「バーベキュー番長」だ。一旦相手の手にわたった試合を持ち直せたのは、こうしたチームビルディングの効果も大きかったのかもしれない。
試合後にはノーサイドの精神で両チーム健闘を讃えあう。当たり前の光景だが、この選手たちは翌日月曜からはジャージからスーツに着替え、ビジネスの場に立つことになる。ラグビー選手として相手チームと交流するこのひとときは、かけがえのないものだろう。
これから12月までの4か月、彼らの戦いのシーズンが続く。その間も仕事は待ってくれない。仕事をしっかりこなすこともまた、ラグビーのための「準備」なのだ。