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【Just TALK】「ただしんどいだけではなく、成長を感じられる。だからハードな合宿を乗り越えられる」。李承信[日本代表/コベルコ神戸スティーラーズ]
日本代表キャップ14。経験を積んで心身ともに成長中。(撮影/松本かおり)
2024.08.25
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【Just TALK】「ただしんどいだけではなく、成長を感じられる。だからハードな合宿を乗り越えられる」。李承信[日本代表/コベルコ神戸スティーラーズ]

向 風見也

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 ラグビー日本代表の李承信がオンライン会見に応じたのは日本時間8月22日朝。バンクーバーでのことだ。

 同26日(現地時間25日)には、現地でパシフィックネーションズカップ(PNC)のカナダ代表戦に挑む。

 チームはエディー・ジョーンズ新ヘッドコーチ体制下、6月からのサマーキャンペーンを1勝4敗とした(テストマッチは3敗)。ちょうどメンバーの入れ替えと新しいコンセプトの導入が重なっているためか、負け越しという結果にも李は「自信は失ってはいないです」。これから参戦するPNCへ、こう意気込んだ。

「負けが続いてネガティブな雰囲気になってしまう時もありますけど、自分たちがやろうとしているラグビーを信じていますし、(やりきれば)必ず勝てると思う。自分自身、このPNCは優勝しなければいけない大会だと思っています。若いチームなので、ひとつの勝利でぐんと成長できる可能性がありますし、カナダ代表戦にはそのチャンスがある」

 身長176センチ、体重86キロの23歳。ポジションはSOだ。

 大阪朝鮮高を経て2019年に入った帝京大を約1年で自主退学。2020年にコベルコ神戸スティーラーズに加わり、2022年に初めて日本代表に選ばれた。ジェイミー・ジョセフ前ヘッドコーチに積極性が買われた。昨秋、ワールドカップフランス大会に出た。

 指揮官が代わったナショナルチームでも、従来通りに正司令塔の座を狙う。「自分が思っていることを伝え、要求し合う」と、組織内の繋がりを重んじる。

 バンクーバー入りに先立ち、宮崎で約1週間の合宿を実施。その折には、単独取材に応じた。最初の話題は、そのキャンプにおけるハードワークについてだ。

ファンに優しい司令塔。(撮影/松本かおり)

——早朝から動き出す日々。どう乗り越えていますか。

「いまのところFW、BKにわかれて、より個人の課題にフォーカスして取り組んでいこうとしています。個人としてはアタックでよりスクエアに、相手に向かってアタックするなか、全体的なパス、キャッチ、キックのスキルの向上にフォーカスして過ごしていますね」

——ジョセフ体制下では選手がまんべんなく左右に広がってスペースを探していたのに対し、ジョーンズ ヘッドコーチはパスをもらう選手に防御の近くへ走り込むよう求めます。

「(現在も攻めの)大枠は変わらないですけど、ジェイミーの頃よりも自分からのオプション、ボールタッチ、10番(SO)起点のアタックが増えている。そのなかでも、相手との間合い、パスのタイミングは、これからももっと成長させたいと思っていますね」

——ジョーンズヘッドコーチからはどんな要求を受けていますか。

「特にコミュニケーションのところは、もっと伸ばしてほしいと言っていただいています。スキルは自信を持っていいという、ポジティブなアドバイスをくれる。アタックで自分にしかないもの、強みをどんどん出してほしい…と。

(ジョーンズヘッドコーチは)基本、ポジティブな発言が多いですし、全体練習が終わったと後も悪かったところばかりを探すんじゃなく、よかったところを選手から引き出し、まとめて、そこから悪いところをどう修正していくかを話す。選手たちはただしんどいだけではなく、成長を感じられている。それがハードな合宿を乗り越えられる要因だと思います」

——ここからは昨秋のワールドカップについて伺います。李選手は、大会前に重圧を受けていたと振り返っていますが。

「大会前のPNC、イタリア代表戦で、結果を出さなきゃいけないというプレッシャーがあって。自分の場合は、特にそれがプレースキックに表れていたと思います。イタリア代表戦の前の週に、いきなりプレースキックが入らなくなった。自分のなかでは同じ感覚で蹴っていたんですけど、それがうまくいかず、試合でも『外したらどうしよう、試合に負けてしまったらどうしよう』と、どんどんネガティブなマインドになっていっていて…。

 代表に入りたての頃はチャレンジングな、アグレッシブな気持ちでラグビーができていたのですけど、結果を求められる立場、位置まで上がってくると、初めて高いレベルのプレッシャーに直面して…。それまで無意識に、感覚的にできていたプレーができなくなって、キックのところなど、個人のスキルが試される場面で簡単なミスが目立った。初めての体験でした」

——当時、違和感に気づいていましたか。

「メンタルが『きている』のだろうなという実感はありました。その時もメンタルコーチ(デイビッド・ガルブレイス)と何回もミーティングしながら、呼吸法、キックを蹴る時に無心になることにフォーカスしながら、試して、克服していきました。それもいい経験になりました」

——トンネルを脱したのは。

「チリ代表との大会初戦(日本時間9月10日/スタジアム・ド・トゥールーズ/〇42-12)のメンバーから外れたのが(発表に先んじて)分かってからは、自分と真剣に向き合う時間を設けました。

 それまでは、あまりジェイミー、ブラウニー(トニー・ブラウンアシスタントコーチ)といったコーチと真剣に1on1で話す時間を取らなかった。大会前までは、『何とかなるだろう』という中途半端なマインドでラグビーをしていたんです。

 ただ、(大会開幕後は)自分で自分を変えないといけないな、と。プレッシャーより、『自分が変わらないと』、『試合に出たい』という気持ちの方がでかくなりました。フォーカスするところをシフトチェンジする感じです。

 すると、プレッシャーは消えていきましたし、出場したサモア代表戦(同29日/スタジアム・ド・トゥールーズ/〇28-22)でも緊張を感じずにプレーできました」

——昨年の経験を踏まえ、2027年のワールドカップオーストラリア大会へ念頭に置くことはありますか。

「もちろんワールドカップに出場したい気持ちは強いです。ただ、いま自分はテストマッチレベルのプレーヤーではないですし、経験が必要な時期だと思うので、ひとつひとつのテストマッチを通し、プレッシャーのなかで自分がどれだけ高いパフォーマンができるかを意識していますね。特に夏はハードですし、ボールも滑る。そのなかでジャパンの掲げるラグビーをリードできるか…。自分のパフォーマンスにフォーカスしながらやっています。それが自分の自信にも、その先のワールドカップにも繋がる。いまは夏のシリーズ(PNC)にフォーカスしています」

 カナダ代表戦には背番号10で先発する。



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