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わくわくしています。僕はいま、第何章にいるのかな。<br>立川理道[日本代表主将/クボタスピアーズ船橋・東京ベイ]
たてかわ・はるみち。1989年12月2日生まれ。180センチ、93キロ。CTB、SO。やまのべラグビー教室(4歳〜)→天理中→天理高→天理大→クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(2012年〜)。2016年〜2019年はSRサンウルブズでもプレー。ブランビーズ(SR)、オタゴ(NZ/NPC)にも所属した。日本代表キャップ56。日本A、U20。2015年ワールドカップに出場。(撮影/松本かおり)

わくわくしています。僕はいま、第何章にいるのかな。
立川理道[日本代表主将/クボタスピアーズ船橋・東京ベイ]

田村一博

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#日本代表


 この夏の国内5連戦の途中から日本代表の活動に加わった。
 代表キャップ56を持つ立川理道のプレータイムは、JAPAN XVとして戦った、マオリ・オールブラックスとの第2戦の終盤の10分間だけ。しかし、チームにおけるその存在感は大きい。

 例えば、7月21日のイタリア戦まで主将を務めたリーチ マイケルは「試合のとき、ハルがウォーターをやっている際にみんなにかけてくれる声が、特に若い選手たちにとってとても有難い」と言った。

 それを聞いた立川は、「特別なことはしていませんよ」と前置きして続けた。
「ただ、汲み取るというか、エディーさん(ジョーンズ ヘッドコーチ)やスタッフ陣がその時に伝えたいことをあらかじめ選手目線で噛み砕いて、(試合中のメンバーには)伝えてはいます」

 ウォーター時に限らず、それは練習中のハドルでも同じ。
「それがシニアプレーヤーに求められていると思うし、自分なりにその時に何が大事なのかを解釈して発言していくようにしています」と話す。

 34歳の、そんな日常を指揮官はいつも見ていたのだろう。ジョーンズ ヘッドコーチ(以下、HC)は、パシフィックネーションズカップを戦う日本代表のキャプテンに立川を指名した。

チームに貢献することを常に考える。ウォーターを務めれば、その言葉で選手たちの背中を押した。(撮影/松本かおり)

 2016年、2017年とジェイミー・ジョセフHC体制時に堀江翔太と共同主将を務めた。2017年はサンウルブズも率いている(エドワード・カークと共同主将)。

 所属するクボタスピアーズ船橋・東京ベイでも2016-17シーズンからチームの先頭に立ち、2022-23シーズンにはリーグワンの頂点に立つ。
 人の前に立つ経験は十分積んできた。期待は大きい。

 2022年6月18日のウルグアイ戦に途中出場して56キャップ目を獲得して以来、テストマッチから遠ざかっている。
 55キャップ目は2018年6月のジョージア戦だった。2015年のワールドカップ後の8年間で積み上げたキャップは13。近年は、決して代表チームの真ん中にいるとは言えなかった。

 そんな状況だったのに、この初夏に旧知の世界的指導者から代表招集の声がかかった。「素直に嬉しかった」と話す。
 昨年末に日本代表HCへの就任が決まり、その後、リーグワン各クラブを訪問していたジョーンズHC。船橋のグラウンドを訪れた時には言葉を交わし、「しっかりパフォーマンスを残していけばスコッド入りはあるかも」と言ってもらった。

「現役である以上はやっぱり日本代表を目指したいと思っていましたし、エディーさんが就任したことで、チャンスが来るかもしれないとも思いました。エディーさんがどういうラグビーをしたいか、新しい選手よりは知識を持っていると思っているので」

 そして、自身が残したスピアーズでのパフォーマンスを認めてもらえたことが嬉しいし、自信になった。

「前回(前体制)はなかなか声がかからなかったので、モチベーションも含め、そこを目指す原動力みたいなものが薄れていたかもしれない」と振り返る。
 でも、上を目指したい心の中の灯は消えていなかったから、自分を見てくれる目に、気持ちはすぐに燃え上がった。

 代表活動の場が「きついのは当たり前」と言う。
「当然、競争も厳しい。でも、やはりこういう場所にいられるのはラグビー選手としてすごく幸せな時間です。これだけのレベルの中で切磋琢磨できる環境には、所属チームでは味わえない緊張感もありますから」

◆あの人はこうしていたな、ではダメでした。


 ただ、そこにいるだけで満足するつもりはない。自分が、経験を伝えるためだけの存在ではないとも自負している。
「若い選手たちと競争もするし、影響も与える。両面が大事だと思っています。チームがテストマッチに勝つための準備をしたり、組織や集団を作るために手助けをする。競争の激しいセンターで試合に出るために、自分で自分自身をプッシュしていくことも重要」と言う。

 10番、12番でのプレーを想定して準備をする。
「その両ポジションをカバーできるのは自分の強み。そこはアピールしていきたい」と意欲的だ。

 前回ジョーンズHCのもとでプレーした2012年〜2015年は、自分自身若かった(22歳〜25歳)。
 いまの日本代表で活動する若い選手たちと同じ年頃で、先輩たちに引っ張られていた。

 当時を思い出せば、いま、必死になって練習に取り組んでいる若手の姿が若かりし頃の自分と重なる。
「同じです。ガムシャラに喰らいついていただけで、自分から何かを発信することはありませんでした」

 しかし随分時間が経って、多くのものを学んだ。
 なかなか勝てなかったスピアーズが頂点に立つまでの日々を知っている。日本代表との距離が開いていた時期の自身の中の葛藤も成長の糧となった。

国内5戦のサマーキャンペーンでの出場は、マオリ・オールブラックス戦での僅かな時間だけだった。(撮影/松本かおり)

 若かりし頃から歳月が経ち、いろんな経験を積んで、いまここにいる。
 立川理道は、よりよきプレーヤー、よりよきリーダーの、どちらになってジャパンに戻ってきたのだろう。
「本音で言うと、どちらでもありたい。でも、リーダーシップの面については人が評価することなので分かりませんが、選手としての変化はあると思います」

 年齢を重ね、もちろん、肉体的には以前と違う自分がいる。
 しかし、ひとりの選手として考えた時、スピードやパワーが落ちたとしても、経験値が増え、そのお陰で判断力は高まる。個の総合的なクオリティーは変わらないのかもしれない。

「30歳を超えたらスピードやアジリティーが落ちたり、疲労を感じるとよく言われますが、その感覚はあまり感じていません。データを見れば(若い頃と比べて)少なからず落ちているのかもしれませんが、S&Cトレーニングのコーチとしっかり組んでいて、そこは自分としても新しい挑戦のように感じていて新鮮です」
 昨季のスピアーズシーズン時より、測定値は高まっている。

 リーダーシップの面にも変化がある。
「いろんなリーダーの人たちのもとでやってきたことは、僕自身にとって大きくて、貴重な経験です。(日本代表では)廣瀬さん(俊朗)、リーチさん、堀江さんがいて、そして兄(同じ所属チームで主将だった立川直道)。みんな、すごく影響を与えてくれました」

 しかし、尊敬する人たちから学んだはずなのにうまくいかなかった。スピアーズでは2016-17シーズンから主将に就いた。チームが頂点に立ったのは2022-23シーズンのことだ。

「なかなか勝てなかった時期は、いろんなリーダーたちの真似をしていたと思います。が、その人たちと同じことをするのは、自分がその時、そのチームでやるべきことの正解とは一緒ではありませんでした」

「廣瀬さんがこうしていたから、こういう時はこう話そう。兄が、堀江さんが、こう言っていたな。それではうまくいきませんでした。やっぱり、自分自身のリーダーシップを見つける、自分のスタイルでやっていくことが大事と気づきました。それから自分なりのリーダー像を築いていけたと思っています」

◆テストマッチに勝つのは、どこが相手だろうと簡単ではない。


 自分らしいリーダーシップとは、「みんなを巻き込んでいくことです。それが性格上、合っています」と言う。

「もちろん先頭に立ってプレーするのは当たり前のことなのですが、それぞれの役割を他のリーダーたちに任せ、一緒にやっていきたい。選手たちも含め、巻き込みます。コーチ陣の考えを噛み砕いてリーダーたちに伝え、またそこから全体に伝わる。そうやって、全員が同じ絵を見て戦えるチームになっていくと思います」

 若い選手たちの中にも、いいリーダーシップを持っている者がいる。所属チームでそういう立場にいる選手も。自分よりワールドカップに出場している選手たちの経験値も頼りになる。
「そんな、若くて、可能性のあるチームでキャプテンという立場を任せてもらって幸せだし、楽しみです」

 リーチがイタリア戦を終えて一時チームを離れると聞いた時、「次は誰が主将なんだろう。若手に切り替えるのかな」と勝手に思っていたから、ジョーンズHCに告げられた時には「本当にびっくりした」と笑う。
「でも、自分にとっても新しいチャレンジなのでわくわくしています」

パシフィックネーションズカップに向けての宮崎合宿では、京産大2年のSH村田大和(19歳)と同室に。「15歳違いますが、いろいろ話しました。若い人はみんな情報をたくさん持っているので、話が合わないということはなかったですよ」。(撮影/松本かおり)

 パシフィックネーションズカップの初戦、8月25日のカナダ戦に勝つことは重要だ。
 若いメンバーでのアウェー戦(バンクーバー)。難しい。が、勝てば得られる自信は大きい。負けが込んでいるチームに勢いが出る。

「テストマッチに勝つことは簡単じゃない。相手がどこでも、です。アジアのチームに対してもそうだし、今回のパシフィックネーションズで戦うカナダ、アメリカやフィジー、サモア、トンガ。実力的にどうとか、ランキングもありますが、とにかくテストマッチに勝つのは大変と、経験上感じています。それは伝えていきたい」

 それが前提にありながら、テストマッチは勝たないといけない。
「2027 年のワールドカップに向け、いま、チームが経験を積んでいることは、選手たちも、ファンも、メディアも分かっていることではあるのですが、それでも選手たちが勝つことに全力でコミットしないと成長はない。そこは強く認識していくつもりです」

 2027年のワールドカップは、チームにとっても自分にとっても、「いまを大事にしないといい結果はない」と肝に銘じる。
 久しぶりのその感覚に、新たな力が湧き出ている自分がいる。

 立川理道にとって、この挑戦は人生の中のいくつめの章にあたるのだろう。
「どうなんでしょうね。僕はいま、第何章にいるんだろう。前回のエディーさんの時って、僕の第何章だったのかな」

 学生時代が第1章なら、2015年ワールドカップへ向かった日本代表時代が第2章か。それなら、スピアーズで優勝への道を歩んだ時代は第3章。今回は第4章か。

「第何章まであるのか分からないですが、いまわくわくしていることは確かです」
 その気持ちが、プレーヤーを突き動かす何よりのエナジーになることも知っている。




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