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岡部崇人[日本代表/横浜キヤノンイーグルス]◎これまでと違ういま、に生きる。
おかべ・たかと/1995年2月19日生まれ。180センチ、105キロ。PR。上宮中(中1)→上宮高校→関西学院大→横浜キヤノンイーグルス(2018年〜)。日本代表(キャップ2)。(撮影/松本かおり)

岡部崇人[日本代表/横浜キヤノンイーグルス]◎これまでと違ういま、に生きる。

田村一博


 汗が噴き出す。表情が歪む。でも楽しい。
 だって、これまで知らなかった世界だ。また、その世界が広くて深い。だから、きつくても笑顔になる。

 岡部崇人がこの夏の日本代表のサマーキャンペーンで2キャップを得た。スクラムの国、ジョージアとの試合で初キャップ。ワールドランキング8位のイタリア戦にも出た。

 マオリ・オールブラックス戦の2試合でもピッチに立ち、経験値が増している。横浜キヤノンイーグルスに所属するプロップは29歳。幸せな時間を過ごしている。

「キツいか楽しいかで言うなら、キツい。そちらの方が比重は大きいのですが、やり切ったときとか、(ハードな練習などを)みんなで助け合って乗り越えていくときの感覚に楽しさを感じています」

 ジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチ時代に一度、NDS(ナショナル・デベロップメント・スコッド)のメンバーとして招集されたことはある。
 しかし、その時は怪我も重なり、メディカルチェックを受けただけに終わった。

 リーグワンの試合には、2023-24年シーズンはプレーオフ2試合、クロスボーダーラグビー1試合を含む18戦(全19戦)に出場して15戦で先発。同シーズンを含む3季で47戦に出場と抜群の安定感、すなわち信頼を得てピッチに立ち続けた。

 試合に出るのが当たり前になっていたとはいわない。しかし、ピッチで最高のパフォーマンスを出すにはどうすべきか。そんなステージに進んでいたかもしれない。
 代表活動に加われば、「どうやったら試合メンバーに選ばれるだろうと、あらためて考えています」と話す。

「そういうことが最近なかったので、初心に返るというか、リーグワンである程度経験を積んだ上でこういうことを考えることも自分の成長につながるのかな、と感じています」

「コーチ陣も違う。周りの仲間たちも。そういう面でも、新鮮な気持ちでやれています」
 さらに、戦術もスクラムも、イーグルスと違う。
「それらのことにどう対応するのか。新しい学びが多くある」

2027年のワールドカップについては、「もちろん経験したいし、その舞台に立ちたい思いもあります。しかし自分の実力や未熟さも含め、いまは現実的じゃないと感じています。でも、そこに向けて成長したいモチベーションがある。一日一日、自分ができること、自分が成長できることを考えながらやっていくだけです」。(撮影/松本かおり)

 奈良県、天理の出身。少年時代はラグビーに興味がなく、空手に取り組んでいた。
 大阪の上宮中、上宮高校でラグビーを続けた。同校からは初のラグビー日本代表の誕生だ。「仲間たちもたくさん連絡をくれました。恩師も喜んでくれています」と笑顔になる。
 桜のエンブレムを胸につけるとは、そういうことだ。多くの人を幸せにする。

 関西学院大を経てイーグルスへ。学生時代はFW第3列やLOとして活躍していた。「HOとしてなら」という誘いに同意して高いステージに立つ資格を得た。
「とにかく、そのレベルにいきたかったので」
 1年目はHO。PRに転向したのは2年目からだ。

 プロップ歴は、ベテランと言われる人たちと比べたらまだ浅い。イーグルス、代表の「先輩からも後輩からも、教わることが多い」という。
 手に入れたいのは一貫性だ。
「強いスクラムを組み続けられるか。そこが自分の中の課題です」

 自分だけではない。相手がいて、毎回違うからスクラムは奥が深い。
「(特に海外チームは)相手が毎回違う組み方をしてきます。それに対し、自分だけ対応するのでなく、他の7人の対応もある。そこは、永遠に突き詰めていくものだと思います。そういう意味でも、まずは自分だけでも一貫性を、と思ってやっています」

 現在の日本代表のスクラムは、前体制時が相手に力を出させない組み方とするなら、真っ向勝負に近い。
 全員でまっすぐ押す。近い距離から、低く、鋭く。上へかち上げようとする相手の力を抑え込む。パワー全開とさせない。

 マオリ・オールブラックスも含め、各国代表など特徴の違うチームと組み合う経験や、代表活動を重ねて知見が増えている。フロントローとしての引き出しが増えた。
「全体的にいろんな平均値が上がっていると感じています」
 ひとりのラクビー選手としてのスケールも大きくなっている。

 他のプロップとの違いを見せようとする時、やはりFW第3列出身者としては運動量が武器になる。
 実際インターナショナルの舞台に立っても、相手チームのプロップと比べても自分の方がはやく起き上がれている。ワークレートが高い。それをデータが証明する。
 首脳陣からは、その領域で「ずっと勝ち続けろ」との声を受けている。

日本代表初キャップを得たジョージア戦(7月13日/仙台)。運動量の多さが強み。(撮影/松本かおり)

 成長の階段を昇っていることを実感しているものの、地に足をつけて前に進んでいこうと思っている。
「自分のやってきたことしか出せない。できることをやろう。そういうマインドセットは、ラグビーをやっているうちは変わらない。それは、これまでも、代表でも変わりません」

 代表キャップ獲得にも、そんな気持ちでたどり着いた。
「自分がやってきたことが評価されてここまで来たんだな、と。そういう感覚で自信になりました」

 一方で、「(国際舞台で)試合をしてみて、まだ足りない部分がある」と感じる。
 しかし、「伸びしろが見つかって、ラグビー選手としてまだまだ成長できるな、と思っています」と前向き。
 日本代表では、まだ先発がない。背番号1でピッチに立ちたい。

 代表活動を離れれば会社員。プレー時は長い髪を結うこともあるが、出社時は下ろす。「社員でも勝負できます」の言葉が頼もしい。
 いろんな形で、多くの人に影響を与えられるのが日本代表。29歳、社員、岡部崇人に勇気づけられている人もきっとたくさんいる。

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