菅平は好天に恵まれた。
8月18日、サニアパークには多くのファンが集まった。恒例の帝京大×早大が13時キックオフとなった。15時からは互いのBチーム同士が戦った。
早大の選手たちの声が響く一日となった。
Aチーム同士の試合は、早大が昨季大学日本一を相手に38-14と圧倒する。Bチーム戦も41-21と早大が勝った。
前日おこなわれたCチーム同士の試合は26-28と敗れるも、Dチーム戦は29-26。各グレードの4試合に3勝と、早大は気持ちの入ったパフォーマンスを2日間出し続けた。
大田尾竜彦監督は、前日の昨日の C戦、B 戦について「4年生を中心に(ホームグラウンドのある)上井草でやってきたことの方向性が間違っていないことを示してくれた」と評価し、その試合で選手たちが発した熱が、この日の勢いを生んだと話した。
チーム全体の結束が感じられる試合だった。
早大の先制トライは前半24分。スクラムで得たペナルティから速攻を仕掛け、CTB福島秀法が好ランニング。相手のハイタックルを誘った。
その後、PKからラインアウト→モールの流れで押し切り、HO佐藤健次主将がインゴールにボールを置いた。
29分には2つ目のトライ。きっかけは、スクラムコラプシングで得たPKだった。
ラインアウト後にモールを組み、NO8粟飯原謙が激しいボールキャリー。相手のハイタックルでアドバンテージを受ける中、SO野中健吾が防御裏にショートキックを挙げた。FB池本晴人が反応よく飛び出し、トライにした。
32分過ぎにも相手反則を好機に結びつけた。
左ラインアウトからのアタックで、一人ひとりが強いボールキャリーを見せる。7フェーズ目、佐藤主将が相手を引きずって力強く前へ出て、この日チーム3つ目のトライを挙げた。
佐藤主将は前半終了間際にも押し込んだモールからインゴールにボールを置いた。
この日、自身3つ目のトライを挙げて24-0としてハーフタイムを迎えた。
後半に入って、序盤は帝京大がセットプレーで集中力を見せて優勢に立ち、勢いを出しかけた。
しかし早大は激しいタックルでボールを取り戻す。帝京大が反撃のトライを奪ったのは後半17分だった。
しかし、早大の勢いは衰えなかった。
ラインアウトから左へ展開。ボールキャリアー一人ひとりが力強く前へ出て、CTB黒川和音がトライを挙げたのが24分。31-7とした。
31分、反則が重なって帝京大にトライを許して31-14とされるも(トライはFL倉橋歓太)、試合終了間際に途中出場の仲山倫平が縦に切れ込んでトライを追加。
コンバージョンキックも決まり、39-14とファイナルスコアを刻んだ。
戦いを終えて大田尾監督は会心の勝利に、「やっぱりいいものですね」と言った後、「勝ったからといって、ここで出た課題を見過ごしてはいけない。夏の練習試合のひとつ」と落ち着いていた。
就任1年目(2021年)も夏は勝った。しかし、そのせいで「課題がぼやけた」と記憶している。結果、関東大学対抗戦では敗れた。
この日はディフェンスが激しく、安定していた。
FWの集中力も高く、スクラムを組み合う時、互いの間のセンターラインを越えてヒットできるシーンも少なくなかった。ラインアウトのテンポもよかった。
同監督は、佐藤主将の存在感の大きさを「健次が帰ってきたことで、15人がのまれることなく、自分たちのいつもの姿を見せてくれた」と愛でた。
主将は日本代表活動に参加し、ひと回り大きくなって戻ってきた。監督は、「日本のトップ選手たちのオフフィールドの取り組みを学んできてほしいと思っていました。それを吸収し、チームに熱を与えてくれています」と話す。
ちなみに、パシフィックネーションズカップにも参加してチームを離れたままのFB矢崎由高(2年)に関しては、カナダ戦後(8月25日にバンクーバーでキックオフ)に大学に戻る予定だ。
本人が「成長できる場所にいたい」と話していることは理解できる。ただ、3年生、4年生と今後も代表活動を続けるのなら、いまのうちにできるだけ多くの単位を取得しておくことも重要だ。
昨季大学選手権準々決勝で京産大に28-65と大敗してシーズンを終え、チームは大きく変わった。
首脳陣が全選手に対してアンケートを実施すると、「自分たちのチームという感覚があまりない」という意見があった。やっていることは間違っていない。しかし、コーチ陣に与えられているものを遂行しているだけ。そう感じている選手たちがいた。
今季は4年生たちを中心に、自分たちでチームを作っていく感覚を大事に過ごしている。結果、首脳陣が伝えようと思うことを選手同士で先に話すチームになった。
春の関東大学春季交流大会の帝京大戦では、佐藤主将を代表活動で欠いた状況で7-60と大敗した。
その頃と比べてもチームは大きく成長している。
佐藤主将は「きょうは自分の持っているものすべてを出し切ろうと思っていました」と話した後、「1年生のときも夏は勝ちましたが、シーズンでは負け、大学選手権でも準々決勝で負けました。それを経験しているのは自分とマー(宮尾昌典)だけなので(シーズンが大事と)言い続けます。そして、国立競技場でこの(帝京大に勝つ)光景を見たい」と続けた。
監督同様、前日のCチーム、Dチームが発した熱に心を動かされたと言った。
この日の試合ではゲインラインバトルで上回るなど、勝利へのキーワードこそあったものの、最後は気持ち、という思いで臨んだと言った。
前日のCチーム戦、26-28で敗れた。ラストシーンで1年生の島田隼成(しゅんせい)のPGが決まっていれば勝っていた。
「外して号泣していました。あの場面で1年生にキッカーを任せ、(重荷を背負わせて)泣かせてしまった。僕も涙が出た」
「隼成を笑顔にするには僕たちが勝たないといけないと、Aチームには言い続けました。試合前も。昨日の試合に感動させてもらい、隼成から勇気をもらったので、こういう形で恩返しできたのはよかった」
試合後、帝京大の青木恵斗主将ら仲のいい選手たちとは「(春の成績と合わせ)1勝1敗ね」と言い合い、「また秋ね」と言葉を交わして別れたという。
ただこの日は勝ったものの、追い越したとは思っていない。「帝京は3連覇しているので、早く追いつきたい」と気持ちを引き締めた。
敗れた青木主将は、「早稲田は僕らの陣地に入ったら(トライを)取り切った。こちらは受けてしまい、いいテンポでボールを動かされてしまいました。映像を見て何がダメだったか振り返り、全力で練習に取り組みたい」と話した。
コンタクトシチュエーションでの早大のファイトを受け、後手に回った。春に大勝したことで心に隙があったかもしれない。「これくらいで勝てるだろう」と思っていたとしたら間違いだ。
しっかり検証して次へ進む。
「自分たちの悪いところがクリアに見えたので、秋に向け、もう一度いい準備をしたい」と話し、次の練習から実行していくとした。
接点で受けた以外にも、ファーストタックラーが飛び込み、相手に動かれた点など反省点は多い。
「練習に対する姿勢を見直します。自分たちは何も結果を残してない。チャンピオンにもなっていない。きょうの気持ちを忘れずに貪欲に練習に取り組み、対抗戦で必ずこの借りを返します」
11月3日、秩父宮ラグビー場。関東大学対抗戦での一戦をより深く見るためにも、この夏の日のことを記憶しておこう。