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アルゼンチンに敗れ(8月10日)、オールブラックスにとっては波乱の幕開けとなった今年のザ・ラグビーチャンピオンシップ(以下、TRC)。NZ国内のラグビーファンの失望は大きかった。
フランスのパリでおこなわれていたオリンピックで、キウイ(NZ人のニックネーム)勢が大会終盤にメダルラッシュ。アルゼンチン戦敗戦は、その陰に隠れた。メダリストの帰国でニュージーランド国内はお祝いムードが続いている。
しかし、その中でもNZのラグビーファンの目は、受け入れ難い敗戦を喫したオールブラックスに向けられている。
トークバック・ラジオから聞こえてくる声には、「ダミアン(マッケンジー)じゃなくボーデン(バレット)が10番だ」、「アーディー(サヴェア)はNO8ではサイズが小さい、7番が一番力を発揮できる」。昨年の世界最優秀選手に対してでも、遠慮のない意見が発せられる。
熱いラグビーファンたちは、今週末の試合のセレクションが気になるようだ。
◆ FW陣に挽回のチャンスを与えたセレクション。前主将のケインがベンチ入り
8月17日(土)の19時5分キックオフ (日本時間 16時5分)(JPN)。イーデンパーク(オークランド)でおこなわれるオールブラックスのTRC2戦目、対アルゼンチンの登録メンバーが8月15日に発表された。
前週に不甲斐ない試合をしていることもあり、キーポジションを含め多くの変更を求める声が挙がっている中で、先発メンバーの変更は4人となった。
FWの変更は、PRイーサン・デグルートが今週初めに首を痛めたことにより、2週間ほど休みが必要となった。タマティ・ウイリアムズに背番号1を託す。
体重140キロの巨漢ながらも仕事量が豊富なウイリアムズには、フィジカル戦での活躍が期待される。
BKの変更は3人。先週ベンチスタートだったリーコ・イオアネを13番に戻した。
WTBは、先週メンバー外のケイレブ・クラークが11番に入り、先週のベンチから昇格となったウィル・ジョーダンが14番で起用される。新しいコンビへの変更だ。
セレクションに関し、NZ国内のメディアやラグビーファンにはザワツキがあった。前週フィジカル戦で苦戦しながらもFWの変更は、ケガ人の1人のみとなったことは興味深い。
これに関してロバートソンHCは、「すべてのオールブラックスのフォワードパックは、あのような結果(前週のアルゼンチン戦)のあと、雪辱を果たすチャンスだと思う」と語った。
BKに目を向けると、もっとも注目された10番のポジションには、あちらこちらで名前が挙がっていたボーデン・バレットではなく、ここまでの今季全試合で10番のジャージを身に着けているダミアン・マッケンジーを継続して起用する。
前週の試合後、ヘッドコーチ(以下、HC)のスコット・ロバートソンは「彼(マッケンジー)を支持する」と明言した。その言葉を守った事になる。
司令塔のポジションと共に注目されたのがCTBのセレクションでは、イオアネが13番のジャージを取り戻した。先週はスタートから出場し、トライも挙げたアントン・レイナートブラウンを再びベンチスタートとしたことも興味深い。
両WTBがクラーク、ジョーダンの新コンビとなったことにより、前週11番で先発のマーク・テレアはベンチスタートへ。後半からインパクトプレーヤーとして期待される。
先週14番で先発したセブ・リースはメンバー外となった。
ボーデン・バレットは、引き続き背番号15を付ける事になった。
ロバートソンHC体制になってFBはジョーダンになると言われていたが、7月のイングランド戦でワールドクラスのパフォーマンスを見せたバレットに惚れ直したようだ。
今季限りで代表の引退表明している(東京サントリーサンゴリアスと3年契約)、前キャプテンのFLサム・ケインがベンチ入りをしたこともメディアを賑わせた。
ケインを起用した理由についてロバートソンHCは、「グループへの影響力がある。ちょっとした きっかけ、情報のタイミングや伝え方など、彼の口調はとても特別」と話し、「彼にとって再び黒のジャージを着るチャンス」と続けた。
前週、逆転されたあとに経験の浅い控え選手らがパニック状態になっているように見えた。
絶対に負けられない試合。ケインの95回のテストマッチ経験、リーダーシップが、チームに安心感をもたらすと首脳陣は期待しているようだ。
◆試合の鍵はフィジカルバトルとキッキングゲーム
前週の試合でオールブラックスの敗因は明確だった。
●フィジカル戦
アルゼンチンの情熱を持ったフィジカルバトルを前にオールブラックスは苦戦した。特にFW第3列のパブロ・マテーラ、フアン・マルティン・ゴンザレス、マルコス・クレマーの渾身なプレーは、オールブラックスの攻撃を遮断した。
今回の試合でオールブラックスFWがどれだけ挽回できるか。この試合の最大の鍵になりそう。
●キッキングゲーム
前週は、明らかにアルゼンチンの方がキックの精度が高かった。プレシャーをかけられるところにボールを蹴り込み、オールブラックス陣でしっかりと仕留めた。
オールブラックスは、キックの対策として空中戦に強いクラークをWTBに入れた。レシーブはもちろんの事、マイボールのキックオフボールをチェイスしてダイレクトに取る能力もある。爆発力のあるランと合わせ、この人がキーマンになるかもしれない。
終盤乱れたオールブラックスのラインアウトにも注目したい。
前週は控えの選手が入ってから乱れているだけに、選手交代は慎重になるだろう。スローイングとコンビネーションの改善は必須になる。
◆巻き返しのデータ&イーデンパークの不敗神話
これまでオールブラックスが不甲斐ない試合をした次の試合は、しっかり立て直している印象がある。過去のアルゼンチンとの戦いを振り返ると、2年前にクライストチャーチ(NZ)で18-25と敗れた後は、バウンズバック(巻き返し)を見せて翌週はハミルトン(NZ)で53-3と圧勝。4年前にシドニーでも15-25で敗れた後は、ニューカッスル(AUS)で38-0と圧勝した。
必ず大差でリベンジしている。
また、イーデンパークで戦う時のオールブラックスは滅法強い。
7月13日にイングランドとイーデンパークで対戦した時は、不敗神話が崩れることが心配されていた。しかし熱戦の末、オールブラックスが24-17と勝っち、無敗記録を49(47勝2分け)に伸ばした。今回アルゼンチンに勝てば無敗記録が節目の50となる。
オールブラックスにとって良いデータを並べたが、果たして今回は上手くいくだろうか。
アルゼンチンは2度リベンジを許しているだけに、3度目の正直で今回ばかりは相当気合が入っているだろう。
先週、貴重な逆転トライを挙げたアルゼンチンの39歳、大ベテランHOのアグスティン・クレービイが試合直後のピッチでのインタビューで、「いまから落ち着く事を考えている。来週の試合に勝ちたい、それが一番重要な事だ」と熱く語り、勝利に酔いしれずに気を緩めぬこと誓っていた。
若手とベテランが上手くかみ合っているアルゼンチンが2連勝し、イーデンパークで30年間続いているオールブラックスの無敗記録が途切れるか。それとも不敗神話が継続されるか。
いずれにしても熱い戦いとなる。