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【ザ・ラグビーチャンピオンシップ】オールブラックスの敗戦に、NZ国内でラグビーファンの不安が再燃。
アルゼンチンの強い圧を受けて敗れたオールブラックス。(Getty Images)

【ザ・ラグビーチャンピオンシップ】オールブラックスの敗戦に、NZ国内でラグビーファンの不安が再燃。

松尾智規


「これまで(オールブラックスの試合を)見た中で最もがっかりした試合だ」。

 アルゼンチンに敗れた後、NZ国内のラグビーファンの声がトークバック・ラジオから聞こえてくる。
 失望、時には怒りともとれるコメントがたくさん並ぶ。ラグビー王国ニュージーランド(NZ)では、オールブラックスが負けると翌日以降のトークバックラジオが荒れる。

 ザ・ラグビーチャンピオンシップ(TRC)の初戦が8月10日にウエリントンでおこなわれNZ代表『オールブラックス』がアルゼンチン代表 『プーマス』に30-38と敗れ、波乱のスタートとなった。

 オールブラックスがアルゼンチンに初めて敗れたのは、わずか4年前(2020年シドニーで15-25)。その2年後の2022年は、NZの地(クライストチャーチ)で初めてアルゼンチンに敗戦(18-25)。そして今回はウエリントンの敗戦で3敗目。2年ごとにアルゼンチンに負けている事になる。

 今回の敗戦でウエリントンでの未勝利期間は6年となった。NZのメディアは「ウエリントンの呪い継続」と大きく紹介した。

◆一時は12点差をつけるも前半終了間際に追い上げられる。


 前半はアルゼンチンのプレッシャーを受けながらも、何とか耐えていたオールブラックス。課題のラインアウトは、新人LOサム・ダリーが不安を一掃するような安定感を見せた。

 さらにダリーは、FBボーデン・バレットの絶妙なキックをWTBとともにチェイスしてインゴールに押さえ、圧巻のトライを見せた(16分)。このトライ時、長年チームの栄養士をしているダリーの母であるカトリーナが、息子のトライをベンチで喜ぶ姿があった。

 ダリーの活躍もあり一時は12点差のリードに持ち込んだオールブラックス。しかし、その他ではプレーに安定感が欠け優勢とは言い難い内容だった。

 昨年のW杯準決勝では、オールブラックスがアルゼンチンに勝利した時は、ハーフタイム前後にいずれもトライを奪い、試合を有利に進めた。今回の対戦は、ハーフタイム目前の38分にSOマッケンジーが自陣22メートル内から賭けとも言えるクロスキックをタッチライン際のWTBセブ・リースに蹴り込んだプレーが裏目に出た。こぼれ球をWTBマテオ・カレーラスに拾われトライを献上。嫌な形で前半を折り返す事になった(20−15でオールブラックスがリード)。

◆後半にミスが目立ったオールブラックスが自滅で逆転負け。


 後半が始まって先にスコアを動かしたのはアルゼンチンだった。
 オールブラックス陣のゴール前ラインアウトから、あっさりとモールでトライを奪いこの試合初めてアルゼンチンにリードを許す(20-22/43分)。

 その後、オールブラックスはWTBマーク・テレアのトライで逆転(30-25/53分)するも、アルゼンチンにPGを決められて2点差に迫られる(30-28/56分)。

 64分、ロバートソンHCは、CTBリーコ・イオアネ、HOアサホ・アウムア、FLウォレス・シティティ、LOジョッシュ・ロードの控え選手を一気に投入して大きく動いた。

空席が目立ったウェリントンのスカイスタジアム。3万4500人の収容人員に対し2万5000の観衆だった。(Getty Images)

 しかしまもなく、オールブラックスに致命的なミスが起る。中央付近で相手ボールラインアウトを奪ったものの、キャプテンのNO8アーディー・サヴェアとSOマッケンジーが信じられないほどのパスミスを犯した。一連のプレーで2度もミスが続いた結果、一気に自陣ゴール前で相手ボールスクラムという大ピンチを迎えた。
 大きなチャンスを迎えたアルゼンチンは、39歳大ベテランHOアグスティン・クレービイがトライを奪い逆転(35-30/69分)。

 オールブラックスが逆転するには10分ほどの十分な時間があったものの、ラインアウトでノットストレート、さらには、再びラインアウトでコンビネーションがバラバラで相手にボールを与えるなど、このレベルでは信じられないミスを連発して自らチャンスを逃した。

 78分には痛恨のペナルティーを犯す。アルゼンチンがPGを追加して8点差のセーフティーリードで試合を決めた(38-30)。

 言うまでもなくアルゼンチンのパフォーマンスが良かった80分。フィジカルバトルも互角以上にオールブラックスに対抗し、ブレイクダウンで奮闘した。キッキングゲームもアルゼンチンの方が上手だった。

 後半の控え選手を投入した後にミスが続き、アルゼンチンに勢いを与えた事が敗因となった。
 逆転された後、経験の浅い選手からは落ち着きを失っている様子が見てとれた。前戦のフィジー戦のように選手起用が上手くいかなかった。特にラインアウトの核となっていたLOダリーをベンチに下げた判断が大きかった。

◆NZ国内のラグビーファンの不安は再燃。厳しい声があちらこちらで


 ロバートソンHC体制になり、すっきりとはいかなかったもののイングランドに2連勝と勝ち切り、3戦目のフィジー戦では新人を多く起用しながらも圧勝した。どこかに安堵感があった事は否めない。
 さあ、ここからというところで、昨年のW杯準決勝で44-6と圧勝したアルゼンチンに敗戦。ラグビー王国のファンは、オールブラックスへの不安が再燃している。

 試合後のトークバックラジオの視聴者から「イングランドに1勝1敗ならまだわかるが、アルゼンチンに負ける事は許容できない」と厳しい言葉が出てきた。ミスが多い内容だっただけに言われても仕方がない。

 2年前にクライストチャーチでアルゼンチンに敗れた時は、TVのニュースもトップで扱い、ラジオのトークバックもしばらくは敗戦の話題でもちきりだった。当時のHCイアン・フォスター、キャプテンの、サム・ケインの2人は、批判の的になっていた。

 しかし今回は、フランスのパリでおこなわれているオリンピックでNZ勢が過去最高の10個の金メダルの獲得。メダルの合計獲得数も前回の東京オリンピックに続いて最多タイの20個(金10個、銀7個、銅3個)となりニュースの話題をほぼ独占した。

 オリンピックのお祝いムードと重なった事により、オールブラックスの敗戦のニュースを取りあげるも、陰に隠れた感じになっていた。ロバートソンHC率いるオールブラックスは、今回ばかりは不幸中の幸いとも言えるかもしれない。

 しかし、敗戦以降のトークバックラジオでは、ファンから厳しい言葉が飛び交った。
 ラグビー専門の時間を担当する毎回厳しい言葉を発する司会者は、「憂鬱の日だ!」という言葉から始まった。その後も怒りが収まることはなく、「オールブラックスのブランド “力” は充分ではない」と続け、たくさんのチケットが売れ残り、黄色のシートが目立った(空席)ことを懸念材料として紹介した。

 敗戦後の話題に多く挙がったのは司令塔のポジション。昨年のW杯後、オールブラックスのファーストチョイスだったSOリッチー・モウンガ日本に移籍。モウンガの後継者は誰になるかが、依然として話題になる。

 今季3連勝スタートした試合では、ダミアン・マッケンジーのパフォーマンスは悪くなかった。しかし、今回のアルゼンチン戦のように、プレッシャー下でのゲームメイクも含め、良いパフォーマンスができていないマッケンジーのことをファンは気にしている。スーパーラグビー決勝でもそうだった。
 一部では、10番ボーデン・バレットの起用の声も聞こえてくる。

 ロバートソンHCは、「マッケンジーは、学んでいる最中だ」と、10番マッケンジーを継続ともとれるコメントが出ている。しかし、ファンは、オールブラックスの負けを見たくない。特に司令塔を任せる選手には、学びの場よりひとつひとつのテストマッチで良いパフォーマンスを見せてほしいと思っている人も多くいる。
 ロバートソンHCは、モウンガがNZに帰ってくるまで司令塔のセレクションでもがくことになるのか。

 NZのメディア、ラグビーファンからは、セレクションを見直す声も挙がっている。
 アルゼンチンとの2戦目は絶対に負けられない。ロバートソンHCをはじめ、セレクターによるメンバー選考が気になる。

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