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フランス国民が待ち望んでいた瞬間は、9か月遅れでやってきた。
2023年のラグビーワールドカップ。自国大会でフランス代表は準々決勝で敗れた。
2024年7月27日は、その苦い記憶を払拭する日となった。
パリ五輪のラグビー(男子セブンズ)でフランスが金メダルを手にした。
ファイナルで戦った相手はリオ、東京と、2大会連覇中のフィジー。前日の開会式から降り続く雨が上がり切らない中でおこなわれた14分間が終わった時、スタッド・ド・フランスが熱くなった。
28-7。完勝だった。
先制点は1分過ぎ、フィジーがあっさり取った。
しかし、フランスは熱烈な応援を受けて攻守に躍動する。5分になろうとする頃、相手がこぼしたボールから切り返してジェファーソン=リー・ジョセフがトライ。7-7として前半を終えた。
ベンチスタートだったアントワンヌ・デュポンは後半の最初からピッチに立った。そして、いきなり輝く。
フィジーの蹴った後半開始のキックオフボールを仲間が確保すると、パスを受けて左サイドを疾走。内側をサポートする選手にパスを渡し、トライを演出した(Gも決まり14-7)。
5分過ぎには、フィジー陣前に攻め込んでしばらく居座った後、PKからデュポンがインゴールに入る。
フランスは後半の7分が経ったことを知らせるブザー後にも全員で攻め、モールを押し切った。ボールをインゴールに置いたのはデュポンだった。
歓喜の瞬間からしばらくして表彰式がおこなわれた。午後8時半を過ぎても明るい空は雨が上がっていた。
スタンドには6万9000人のファンがほとんどそのまま残っていた。銅の南アフリカ、銀のフィジーの選手の首にメダルが掛けられるたび、拍手が起こる。そして、フランスの番となった。
一人ひとりに金メダルがかけられるたび、大きな声援が飛ぶ。
11人目のデュポンの時、ボリュームが最大となった。この日をみんなが待っていた。
大仕事を成し遂げた選手たちが少年の心に戻っていた。
ファンに向かって一緒に喜ぼうと、全身を使って意志を伝える。踊る。跳ねる。歓喜の余韻に浸っていた。
その4時間前、男子セブンズ日本代表のパリ五輪が終わった。
この日の試合は、16時30分キックオフ。ウルグアイと11-12位決定戦を戦った。
結果は10-21。3日間で5試合を戦って全敗だった。
残念ながら最下位となり、東京五輪の11位を下回る成績となってしまった。
過去2日間、4試合すべてで40失点を喫した戦いと比べるとスコアは大きく開かなかった。
しかし3トライ、21点を先行される展開は残念だった。
試合開始は日本がキックオフを蹴り込んだ。
そのボールを確保したウルグアイはラックを作る。そのすぐ横に走り込んだホアン・ゴンザレスはショートパスを受けて防御を突破、走り切った。
立ち上がりの30秒でトライ、ゴールを許して0-7とされた日本は、直後のリスタートのキックオフ後に攻めるも、ブレイクダウンでボールをこぼす。ターンオーバーから走られて2つめの失トライ。
その直後にはPKから走り切られた。3分ちょっとで0-21とされてしまった。
日本は前半終盤に石田吉平がトライを奪い、5-21としてハーフタイムを迎えた。
後半に入り、ウルグアイには疲労が目立っていた。そんな相手に日本は何度か攻め込むシーンもあったが、ミスも出てなかなか勢いが続かない。結局得点できたのは4分過ぎにPKから速攻、津岡翔太郎が走り切ったシーンだけ。静かな終戦だった。
男子セブンズ日本代表最多の62キャップを持つ坂井克行さんは、「過去2日間に出た課題を修正する準備はしたと思います。しかし相手もあることなので、機能していなかったように感じました。トライの取られ方も、今大会中、似たようなシーンがいくつかあったと思います」と今五輪での日本のラストゲームを総括した。
長い間準備し、大舞台で必死に戦った選手たちを労い、「勝てませんでしたが、新しい日本のスタイルも見られた」と言う。
「(防御裏への)キックを使った戦術はハマっていました。新しい日本のスタイルに加えられたと思います。その戦い方と、セットプレーからの仕掛けなどを組み合わせて攻められたら厚みが出る」
他国との力の差が感じられた背景には、ワールドラグビー・セブンズシリーズのコアチームとして活動できていない現状がある。
「あのシリーズで世界のスピード感を体感できていない影響は大きかったと思います。海外に出て合宿や試合もしてきたようですが、やはり練習試合とワールドシリーズの試合では空気も違う。トップチームと戦う経験も足りていなかったと思います」
日本セブンズの再建を実現するには、ワールドシリーズへの復帰が必要不可欠だ。
そして、その先にある五輪でのメダル獲得を実現するためには、「世界の上位争いの中で勝った経験のある指導者と、セブンズで勝負したい選手たちが集まりやすい環境を作ることが求められると思います」と語る。
「世界の各代表には、実際にそういった(世界で勝った経験のある)指導者がいます。どうすればトップに近づけるか分かっている。それに沿って準備することが求められると思います。そして、リーグワンもプロ化が進んでいるので、世界に近い選手がチャレンジできる、したくなる仕組みを作ることも必要でしょう」
指導者と選手環境。その両輪を同時に前に進めていくしかない。
東京、パリと、ファンや若い選手たちに、良い景色を見せられなかった日本の男子セブンズ。現状のままでは、セブンズの世界に憧れ、世界を目指したいと何人もが手を挙げたくなるような状況を作るのは難しい。
「なので、国内でセブンズの大会を増やしたり、以前のように国際大会を開催し(招致し)、この競技の魅力をもっと多くの人たちに知ってもらうこともやっていかないといけないと思います」
4年後も同じ総括はしたくない。改革は、まったなしで進められるべきだ。